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X線粉末回折装置(XRD)    [戻る]
※必ずオペレーターの立ち会いのもとで操作すること。また,X線は人体に有害なので,測定作業中は被爆しないよう,十分,注意する必要がある

 X線粉末回折装置は原子配列(結晶構造)に基づくデータから鉱物の同定を行なうもので,結晶材料などの工学分野でも汎用されている。ただし,耳掻1杯分以上の純粋な試料が得られない場合は同定できない場合も多い。 → [試料の調整]
 鉱物では,特に普通の元素(水素(H),ナトリウム(Na),カリウム(K),マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca),アルミニウム(Al),チタン(Ti),マンガン(Mn),鉄(Fe),ケイ素(Si),酸素(O))だけからなる酸化鉱物・炭酸塩鉱物・硫酸塩鉱物・ケイ酸塩鉱物などの同定に向いている。
実験システムは右の通りである。 →  
[実験システム]

測定条件 回折チャートの解析 測定試料の状態
類似した回折チャートの鉱物 結晶度の悪い鉱物 固溶体鉱物の回折


鉱物の同定では以下の場合などがこの方法が適している。

・方解石とあられ石,バラ輝石とパイロクスマンガン鉱など,互いに化学成分が同じで原子配列が異なる鉱物(多形の鉱物)の同定

多形の鉱物同士は互いに化学成分(構成原子)が同じで,化学分析では区別ができないが,原子配列(結晶構造)が異なるため,X線粉末回折結果に明瞭な違いがあり,その区別は容易である。
共に成分が炭酸カルシウム(CaCO3)である方解石(左)とあられ石(右)のX線粉末回折チャート
両者は化学成分(構成原子)が同じで,化学分析では区別ができないが,原子配列(結晶構造)が異なるため,X線粉末回折結果に明瞭な違いがあり,その区別は容易である。

・岩石が熱水変質を受けてできた粘土鉱物・沸石類の同定
・岩石の隙間などに見られる沸石類などの各種ケイ酸塩鉱物・各種炭酸塩鉱物などの同定


 これらはNa,K,Mg,Ca,Fe,Alなど普通の元素だけからできているものが多く,EPMAなどでの定性化学分析だけでは同定できない。また,定量化学分析を行うにしても,含水量が多いこともあり,分析結果に大きな誤差を伴う場合がある。
 特に粘土鉱物は軟質の微粒集合体のことが多く,EPMAでの分析試料として良好な研磨面が得られないことが多い。

 このような鉱物の同定には原子配列(結晶構造)に基づくデータが同定の決め手になる場合が多く,X線粉末回折装置による同定が適している。

熱水変質を受けて灰緑色軟質になった安山岩中の変質鉱物

 岩石全体に変質鉱物として微粒の粘土鉱物(スメクタイト,緑泥石など)が多くできている。 粘土鉱物は同定の決め手になる特殊な元素を含むことが少ない。また,軟質の微粒集合体なのでEPMAでの分析試料として良好な研磨面が得られず,含水量が多いこともあり,分析結果に大きな誤差を伴う場合がある。

 したがって,X線粉末回折装置による同定が適している。

岩石の隙間に見られる沸石類

 沸石類は同定の決め手になる特殊な元素を含むことが少なく,ナトリウム,カリウム,カルシウム,アルミニウム,ケイ素などの普通の元素だけからなるものが多く,EPMAでの定性化学分析では種類の決定はできない。また,定量化学分析を行うにしても,含水量が多いこともあり,分析結果に大きな誤差を伴う場合がある。
 したがって,
X線粉末回折装置による同定が適している。


流紋岩が酸性の熱水変質を受けてできた「ろう石」の2試料のX線粉末回折チャート
両者は白っぽい緻密塊状で肉眼では区別が困難だか,X線粉末回折装置では回折ピークには明瞭な違いがあり,同定は容易である。左側がカオリン鉱物,右側がパイロフィライト。

・金属鉱床や岩石の風化帯に皮膜状・粉状で産する二次鉱物の同定

 これらは,EPMAで定量化学分析を行うにしても,脆いため分析用の良好な研磨面が得にくく,かつ,含水量が多いこともあり,定量分析結果に大きな誤差を伴う場合がある。
 したがって,X線粉末回折装置による同定が適している。



銅鉱床の風化帯に産した緑色皮膜状の銅の二次鉱物

 このような皮膜状の鉱物は,脆いため良好な研磨面が得られず,かつ,成分中に水分が多いので,EPMAで定量分析しても良い分析値が得にくい。

 したがって,X線粉末回折装置による同定が適している。


ボーキサイト

 ボーキサイトは水酸化アルミニウムを主成分とするギブス石Al(OH)3,べーム石AlO(OH)などの混合物であり,EPMAではアルミニウムしか分析できないので,それらの鉱物の同定は難しい。また,脆いため,分析に適する良好な研磨面が得られない。
 したがって,X線粉末回折装置による同定が適している。


※ X線粉末回折装置(XRD)による同定が適さないもの

・濃紅銀鉱など,銀を主成分とする鉱物は,粉末にして光が当たるとすぐに単体の銀が遊離して分解しやすい。また,硫化鉱物には,粉砕するときの圧力で原子配列が変化したり,粉末にすると空気中の酸素で酸化したりして,分解するものが少なくない。これらの分解した試料を測定しても,明瞭な回折ピークが現れないことが多く,本来の回折パターンから外れた測定結果を示す。これらの鉱物はX線で調べる場合,ガンドルフィカメラなど,別のX線回折法を用いる。なお,不透明な硫化鉱物は,通常,耳かき1杯分の純粋な試料を得ることは困難で,EPMAでの化学分析で同定するのが普通である。

・累帯構造をなしている固溶体鉱物の鉱物種の同定。

・3成分系(擬3成分系)の固溶体鉱物の鉱物種の同定(例:方解石CaCO3-菱マンガン鉱MnCO3-菱鉄鉱FeCO3系の中間組成の固溶体)