X線粉末回折による固溶体組成の決定    [戻る]

 X線粉末回折では固溶体組成の違いで,回折ピークの位置がずれる。
 下は,灰ばんざくろ石(Ca3Al2(SiO4)3と灰鉄ざくろ石Ca3Fe2(SiO4)3の回折ピークを重ね合わせた図である。両者は同じざくろ石類なので,原子配列(結晶構造)は同じで,回折パターンは類似している。しかし,イオン半径の大きなFe3+を多く含む灰鉄ざくろ石は格子面間隔が大きい(格子定数が大きい)ので,イオン半径の小さなAl3+を多く含む灰礬ざくろ石(格子面間隔が小さい)よりもすべての回折ピークが低角側に出ている。そしてこの組成の違いによる回折ピークのずれは全体的に低角度側よりも高角度側の方が大きい(高角側に鋭敏に化学組成の違いが現れる)。

端成分の灰鉄ざくろ石(Ca3Fe2(SiO4)3)の回折ピーク(緑)と,端成分の灰礬ざくろ石(Ca3Al2(SiO4)3)の回折ピーク(青)を重ね合わせたもの

イオン半径の大きなFe3+を多く含む灰鉄ざくろ石は格子面間隔が大きい(格子定数が大きい)ので,イオン半径の小さなAl3+を多く含む灰礬ざくろ石(格子面間隔が小さい)よりもすべての回折ピークが低角側に出る。そしてこの組成の違いによる回折ピークのずれは全体的に低角度よりも高角度の方が大きくなる(
一般に高角側に鋭敏に化学組成の違いが現れる)。

なお,鉱物によっては,固溶体組成を鋭敏に反映する格子面の反射が必ずしも高角度に限って見られるとは限らない。下は明礬石−ソーダ明礬石系の固溶体の回折チャートである。

明礬石(KAl3(SO4)2(OH)6)−ソーダ明礬石(NaAl3(SO4)2(OH)6)系の固溶体(累帯構造)の回折チャート
赤で示したピークはK-Na置換で著しく回折角度(2θ)が異なり,累帯構造をなすためピークが幅広になっているが,青で示したピークはほとんど変化がない。このように鉱物によっては固溶体組成を鋭敏に反映する格子面の反射が必ずしも高角度に限って見られるとは限らない。
※この試料には石英が不純物として含まれ,その回折ピークは「石英」として示している。


 そして,X線粉末回折ではベガード則(固溶体の化学組成の違いにより,d値が直線的に変化する)から,均質な2成分系(あるいは均質な偽2成分系)の固溶体鉱物の化学組成(固溶体比)を求めることができる(苦土かんらん石(Mg2SiO4)−鉄かんらん石(Fe2SiO4)系,灰ばんざくろ石(Ca3Al2(SiO4)3−灰鉄ざくろ石Ca3Fe2(SiO4)3系など)。
 これは固溶体比の違いで回折角度が大きく異なるピーク(反射)を選び,それから求められたd値から化学組成(固溶体比)を求める。そのためには精度の高い高角側(2θ=約30°以上の部分)のピークからd値を計算する必要がある。

かんらん石(苦土かんらん石(Mg2SiO4)−鉄かんらん石(Fe2SiO4)系)の固溶体比の分析例
結晶中のマグネシウム(Mg)と鉄(Fe)の比率で格子面間隔が特に大きく異なる(130)面での反射(CuKαにて2θ=32°付近)で,d値を求め,固溶体組成を求めた例。この場合,苦土かんらん石成分78at%・鉄かんらん石成分22at%という結果が得られた。

※できればゴニオメータの走査速度を0.5°/分,または,0.25°/分程度におそくして測定したピークを用いる方が精度が良い。
※複数の回折ピークのd値から最小二乗法を使って固溶体組成を求める場合もあるが,この場合,およそ2θ=20°未満のピークは大きな誤差を含むことになるので計算には使わない方が良い。
※3成分系(あるいは擬3成分系)以上の固溶体鉱物の化学組成(固溶体比)を求めるにはX線粉末回折では無理で,EPMAを用いる必要がある(例:苦礬ざくろ石−鉄礬ざくろ石−灰礬ざくろ石系((Mg,Fe,Ca)3Al2(SiO4)3),菱鉄鉱−菱マンガン鉱−方解石系((Fe,Mn,Ca)CO3)など)。

しかし,
固溶体鉱物は結晶中で置換しあう異種原子が均一に分布していることはむしろ少なく,数μm〜数100μm毎に結晶の部分によって固溶体組成が異なる累帯構造をなしていることが多い。このような累帯構造をなす固溶体鉱物の回折ピークはやや幅広になり,ピークの頂上が分裂したようになっている。このような場合,化学組成(固溶体比)の決定は,X線粉末回折では無理で,EPMAを用いる必要がある。

端成分の試料の回折チャートと累帯構造をなす固溶体鉱物試料の回折チャートの比較

※固溶体鉱物は一般的に,結晶の部分により,固溶体組成が異なる累帯構造をなしていることが多い。その回折ピークはやや幅広になり,ピークの頂上が分裂したようになる(下図の中または下の回折チャート)。
累帯構造をなす鉱物の化学組成(固溶体比)の決定は,X線粉末回折では無理でEPMAを用いる必要がある。
ヒスイ輝石(NaAlSi2O6)−透輝石(CaMgSi2O6)系
ポルサイト(CsAlSi2O6)−
方沸石((Na+H2O)AlSi2O6)系