データの解析(鉱物種の同定)     [戻る]

まず,X線粉末回折で得られた下の回折チャート(特性X線:CuKα=1.5418Åで測定)を例として説明する。



 最初は,X線回折データは回折チャートのピークの頂点(黒の三角矢印で示したのがピークの頂点)が,横軸の目盛り(2θ)で何度であるかを0.05°の精度で読みとる。この読み取り値が2θであり,次にこれを2で割り,θが得られる(例えば横軸の目盛りの読み取り値(2θ)が56.20゜ならθは28.10゜,56.30゜ならθは28.15゜,56.45゜ならθは28.23゜となる)。

 一方,試料(結晶)中にX線が入射して,反射してくる際にはブラッグの式が成り立つ。

ブラッグの式  nλ=2d・sinθ

n:反射の次数で,このX線粉末回折データの場合はn=1
λ:X線回折データを得る際に使った特性X線の波長(CuKαならλ=1.5418Åで,FeKαならλ=1.9373Å)
d:X線を回折した試料(鉱物すなわち結晶)の原子配列の網面(格子面)の間隔(格子面間隔)

 X線回折実験で試料(鉱物)を同定する際に,まず知るべきはdの値(格子面間隔)である(単位はλと同じくÅ)。dは鉱物の種類・回折した結晶方位(格子面)によって異なる。 ブラッグの式は d=λ/2sinθ と変形でき,それぞれのピークの読み取り値(2θ)を2で割って得たθと,実験に用いた特性X線の波長を代入して,それぞれのピークに関するdの値が求まる。


 次に,回折チャートの縦軸は,試料によって回折(反射)したX線の強度(相対強度:I)で,単位は通常cps(counts per second)である。ピークが高いほど試料によって反射されてきたX線の強度が強い。相対強度:Iは,この回折チャートのうちで最も高いピークの高さを測り,その高さを100としたとき,他のピークの高さがいくらになるかを示したものである。この相対強度は粉末試料を試料板に取り付けたときの条件(粉末粒子の配向性)で大きな違いがでやすい(きわめて完全〜完全なへき開がある鉱物では特に大きな違いがでやすい)。また,最強の回折ピークが振り切れている場合がよくあり,この場合はやむなく振り切れた頂上を100として,他のピークの相対強度を算出する(上の回折チャートでは2θ=26.60°のピークが振り切れている)。

以上の,2θ,θ,d,I を表にしておく(下表の左側:実験データ)。



 dの値と相対強度(I)から,試料(鉱物)が何であるかを決定するが,まずハナワルト法(3強線法)という方法で決めていく(最近はハナワルト法がコンピューター化され,それで検索する方法が一般的)。ハナワルト法では,まず,上位3番までの相対強度(I)に対応するd値を3つ(3強線)を選ぶ。この例では3強線のピークはd値が3.351(I:100), 4.258(I:46), 1.824(I:27)のものである。これをIndex to the Powder Diffraction File(様々な鉱物の3強線のd値を数値順にリストアップしてある)で検索していく。実際は試料(粉末粒子)の形態による配向性などで2番や3番のピークが1番のこともある。また,データから選んだ3強線以外(4番以下)のピークが,2番や3番,時には1番のピークだったりすることも少なくない。したがって,あらかじめ上位10番くらいまでの回折ピークを考えながら検索する。なお,Index to the Powder Diffraction Fileには3強線以下,8番目までの相対強度のピークも記載されており,それらと,実験データの比較的強いピークのdの値との一致も調べる。
 8本のピーク(主要なピーク)のd値が一致し,ハナワルト法で該当する鉱物のめぼしをつけたら,今度はJCPDS(Joint Committee on Powder Diffraction Standards)という,鉱物を含む結晶物質全般に関する全ての格子面間隔(d)の値・相対強度(I)などを記載しているデータ集で確実な同定を行う(この例ではハナワルト法で試料が石英と考えられた)。実験データとJCPDSの石英のデータと対照しながら,上表のような対照表を作り,データを吟味する(上表右側がJCPDSのデータ。実験データには石英にあてはまらない小さなピークがあるが,これは試料に含まれていた不純物による回折ピークである。普通は肉眼で不純物を完全により分けることは困難で,体積比で1割程度の不純物の混入は避けられないことが多い)。上表では実験データとJCPDSの格子面間隔(d)が誤差の範囲(通常はおよそ0.02Å以内)でほとんど一致している。そして相対強度(I)も比較的一致し(なお,相対強度は2倍以上変動することも多い),JCPDSに記載されている相対強度が比較的強い主要ピークは全てあらわれている。したがって,この場合,試料は石英と同定される。
 
 なお,相対強度(I)がJCPDSで約20%以下のものは,実験での回折チャートに小さなこぶのような不明瞭なピークとして,あるいは現れないこともしばしばである(特に高角側のピークが現れにくい)。しかし,JCPDS掲載の相対強度が約40%以上の強いピークについては,全て実験データに明瞭なピークとして現れるのが普通であり,それが1本でも実験データに欠けている場合,その鉱物ではない可能性がある。

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混合物の試料について)

 複数種の鉱物が混合した試料(不純物の多い試料)から得られたデータは下の回折チャートのようにたくさんのピークが現われ,また,重なり合い,データの解析が難しく,主要な鉱物(1〜2種程度)が同定できれば良い方である(無理にあてはめると誤認につながるので注意すること)。
下は,方解石・ベスブ石・ゾノトラ石の3種の鉱物の混合物の回折チャートで,このように3種も同定できる場合は少ない。






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格子面間隔(d)の実験データとJCPDSのデータでのずれ)

実験データとJCPDSのデータで格子面間隔(d)は,わずかにずれていることがある。これは,輝石類,角閃石類,ざくろ石類,菱マンガン鉱のような固溶体をなす鉱物についてよく見られる。これは固溶成分で格子面間隔がわずかに違ってくるためである。


端成分の灰鉄ざくろ石(Ca3Fe2(SiO4)3)の回折ピークと,端成分の灰礬ざくろ石(Ca3Al2(SiO4)3)の回折ピークを重ね合わせたもの
イオン半径の大きなFe3+を多く含む灰鉄ざくろ石は格子面間隔が大きい(格子定数が大きい)ので,イオン半径の小さなAl3+を多く含む灰礬ざくろ石(格子面間隔が小さい)よりもすべての回折ピークが低角側に出る。そしてこの組成の違いによる回折ピークのずれは全体的に低角度よりも高角度の方が大きくなる(高角側に鋭敏に化学組成の違いが現れる)。


 また,実験データ(2θ)から得られた格子面間隔(d)と,JCPDSのデータの格子面間隔(d)とのずれは,機器のゴニオメーターのずれが原因のこともあり,この場合は単体のシリコン(Si:ケイ素/標準試料)をセッティングした試料板を測定し,ゴニオメーターのずれを把握し,ゴニオメーターを調整しておく必要がある。

 回折ピーク(回折値)が,高角側か,あるいは低角側の,どちらか一方側にずれるのは,これらの要因であると考えられる。

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実験データの格子面間隔(d)の誤差)

 X線粉末回折で,θから格子面間隔(d)を求めるブラッグの式 d=λ/2sinθにおいて,θが小さいとき(低角度)ではわずかなθの狂いでdの値が大きく違う。一方,θが大きいとき(高角度)ではわずかなθの狂いではdの値はあまり違わない。ゴニオメーターといえども機械に狂いは付きものであり,X線粉末回折データにおいて低角度(およそ2θ=20°未満)の領域では,普通,dの値は0.02Å程度狂う(精度は小数点以下第2位まで)。一方,高角度(およそ2θ=30°以上)の領域では,普通,dの値の誤差は0.01Å未満である(精度は小数点以下第3〜4位)。
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特性X線のKα1とKα2による高角度側の回折ピークの分裂)


 X線粉末回折で用いられている特性X線はKα1とKα2の合わさったものである。
 例えばよく使われている銅管球からのCuKα(λ=1.5418Å)は,CuKα1(λ=1.5405Å)とCuKα2(λ=1.5443Å)の合わさったものである。このわずかな違いは低角度側では回折ピークに影響しないが,およそ2θ=50°以上の高角度側ではCuKα1とCuKα2の回折により,ピークがわずかに2本に分裂して現れる場合がある(わずかに高角側に肩のように付いているピークがCuKα2の回折線)。この2本に重なったピークの解析では,ピークの下から1/2〜1/3の高さに短い水平線を引き,その水平線の中点を2θとして読み取り,それをCuKα(λ=1.5418Å)で計算してd値を得る(下図参照)。
 しかし,最近では,このような場合,回折データをコンピューター処理してCuKα2を除いて読み取った2θをCuKα1(λ=1.5405Å)で計算してd値を得ることが多い。