測定試料の状態    [戻る]

X線粉末回折結果は測定試料の状態により影響を受ける。

◎鉱物の割れ方(へき開)による配向性

 鉱物の内でへき開が極めて完全〜完全な鉱物は,乳鉢で磨り潰した時の粒子形態が板状や針状になりやすく,試料板につけたときに粒子の配向性が生じ,X線はへき開面で良く反射されるものの,それ以外の面ではあまり反射されなくなる。この場合,JCPDSの相対強度と実験データの相対強度に数倍程度の大きなくい違いが出ることが少なくない(回折ピークの位置(回折角度)には違いがない)。
このような粒子の配向性が生じやすい鉱物の同定は実験データの相対強度が4位以下のピークがJCPDSのデータの1位のピークであることも多く,同定に注意が必要である。

ケイ灰石のX線粉末回折チャート
 ケイ灰石は完全なへき開により,粉末の形態は針状になる。そのため,同じ試料でも,試料板に装着した時の条件で試料の配向性の違いが生じやすく,同じ格子面でも回折ピークの強度変化(縦軸 I)が著しい(※2θ=23〜27°付近の回折ピークの縦軸の高さが変化している)。
 しかし,横軸の2θは同じである(d値:格子面間隔は同じ)


◎試料の粒度
乳鉢で磨り潰した時の鉱物粒子が0.1mm程度の粗い状態だと試料板に付けたときに粒子の配向性が生じやすく,JCPDSの相対強度と回折ピークの相対強度に大きなくい違いが出て,全体に回折ピークの高さも低くなる。一方,0.0001mm以下の極めて細かい状態になると回折ピークの幅が広くなってしまう(ブロードになる)。

◎試料の量
試料は耳掻1杯分以上の量があることが望ましい。試料が少ないほど回折ピークは全体に低くなる(回折強度が弱くなる)。なお,試料板のセンター(X線照射部)からずれた位置に試料が付いている場合も同様に回折ピークは低くなるので注意が必要である。

試料の量によるネフェリン(かすみ石)のX線粉末回折実験結果
上は耳掻2杯分の試料を測定した場合。下は耳掻半分の試料を測定した場合(
下は主要なピークは出ているが,約20%以下の相対強度のピークはでておらず,かろうじて同定できる程度の回折結果となっている)。



◎鉱物の格子面間隔による回折強度
X線は格子面間隔が大きい場合は回折強度が大きく,小さい場合は回折強度が小さい。例えば,含水量の多いフィロ珪酸塩(粘土鉱物など)・沸石類・銅や亜鉛などの二次鉱物(硫酸塩や炭酸塩)は全体に格子面間隔が大きいため,低角度に非常に強いピークが出て,耳掻1杯分以下の量でも十分同定できる場合が多い。しかし,硫化鉱物・酸化鉱物・ネソ珪酸塩(ざくろ石類など)などのように全体に格子面間隔が小さい鉱物(高角度側に主要ピークがある鉱物)は耳掻1杯分以下の量では明瞭なピークが現れにくく,同定できない場合が少なくない。

◎検出限界
不純物の多い試料に同定目的の鉱物がどのくらいの割合で含まれていれば,そのピークが現れるかということについては,目的の鉱物のX線の回折強度にもよるが,およそ,体積比で5〜10%程度以上含まれていないと同定に必要な主要ピークは現れないといわれている。しかし,混合物では確実に同定できない場合が少なくない。
なお,粘土鉱物のような回折強度の高い鉱物では1%程度の含有率でも検出できる場合がある。


◎試料の安定性
濃紅銀鉱などの銀を主成分とする鉱物は,粉末にして光があたると単体の銀が遊離して分解しやすい。また,ある種の硫化鉱物は,粉砕するときの圧力で原子配列が変化したり,空気中の酸素ですぐに酸化したりして,分解するものがある。これらの分解した試料を測定しても,明瞭な回折ピークが現れないことが多く,また,本来の回折パターンから外れた測定結果を示し,同定できないことが少なくない。
※乳鉢での粉砕で分解しやすい鉱物はガンドルフィカメラなど,別のX線回折法を用いる。
※硫化鉱物などの「金属鉱物」はEPMAなどでの化学分析で同定するのが普通である。