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熱水鉱床    〔戻る〕

銅・鉛・亜鉛・金・銀・インジウム・錫・アンチモン・ビスマス・砒素・ゲルマニウム・ガリウム・テルル・セレンなどの多種の金属・亜金属などの資源として,また,粘土鉱物などの工業原料鉱物資源として重要。
熱水から有用元素が沈殿・濃集してできる鉱床で,その沈殿するときの地質的な状況により,いくつかのタイプがある。例えば,岩石の割れ目で熱水から鉱石が沈殿してできる熱水鉱脈鉱床,岩石に熱水がしみ込みその岩石自体が鉱石となる鉱染鉱床ろう石鉱床,海底に熱水が噴き出しそれから鉱石が沈殿してできる海底熱水鉱床などがある。

熱水とは
われわれの生活圏の1気圧の圧力では水は100℃で沸騰するが,圧力の高い地下では100℃を超えても沸騰することなく液体で存在し,それを熱水という(なお,100℃以下でも熱水という場合もある)。熱水は岩石中のいろいろな成分を溶かし出し,岩石中の極微量の金・銀・銅・鉛・亜鉛などの有用元素を溶かし込んでいることがある。熱水が温度が下がることなどによって,その中の有用元素などが岩石中や海底などで沈殿してできるのが熱水鉱床である。
熱水は地表付近へ上昇すると圧力が下がるため,急激に沸騰して水蒸気となり,それが噴気孔などから噴き出す。その一部は100℃以下に温度が低下し,温泉として湧き出す。
なお,水星・金星は太陽に近く, 生成して間もない頃に水分が蒸発し,水はほとんど存在せず,熱水鉱床は存在しないと考えられている。

有用元素の沈殿反応の例
例えば,亜鉛の鉱石鉱物の閃亜鉛鉱は下記の反応で熱水から沈殿することがある。
ZnCl42− + H2S  →  ZnS + 2H + 4Cl
 熱水中の溶質     閃亜鉛鉱

また,鉛の鉱石鉱物の方鉛鉱は下記の反応で沈殿することがある。
PbCl2 + H2S → PbS +2H + 2Cl
 熱水中の溶質   方鉛鉱

熱水の起源
地下には熱水が多く存在し,主に2通りの起源がある。
→ マグマが固まって岩石(花こう岩などの火成岩)になる際,マグマに含まれていた水分がマグマから分離したもの(マグマ水)。マグマ水の起源は水分の含有率が高い珪長質のマグマ(花こう岩質マグマ)の場合が多い。一方,苦鉄質〜超苦鉄質組成のマグマはもともと水分は少なく,その固結の際はマグマ水は生じにくい。
→ 地表へ降った雨が地下へしみ込んで地下水になってそれがマグマの熱で温められたもの(天水)。
※海底熱水鉱床は主に海底の岩盤にしみ込んだ海水がマグマで温められて熱水となったものから形成される。
※海水や天水は地表近くの水なので,大気中の遊離酸素(O2)を多く溶かし込んでおり,それらがマグマで熱せられた熱水は酸化的で,その中の硫黄の化学種はH2SよりもSO42−に富む。したがって海水起源や天水起源の熱水からは重晶石:BaSO4,天青石:SrSO4,硬石膏:CaSO4,石膏:CaSO4・2H2O,明礬石:KAl3(SO4)2(OH)6などの硫酸塩鉱物ができやすい。

熱水変質
熱水鉱床付近の岩石は熱水によって変質し,軟化して緑〜灰色,白色がかることが多く,これを変質岩(または熱水変質岩)といい,熱水で変質する作用を熱水変質作用という。そして,熱水変質作用で新たに岩石中に生じた鉱物を変質鉱物という。変質鉱物は微細なものが多く,肉眼で識別できないことが多い。代表的なものには黄鉄鉱,明礬石類,粘土鉱物(緑泥石,スメクタイト,セリサイト(細粒の白雲母),カオリナイト,パイロフィライト),沸石類などがあり,その種類はもとの岩石の化学成分や熱水の化学的性質によって異なる(→[熱水変質作用])。なお,明礬石類や粘土鉱物は]線粉末回折で同定するのが普通である(→[]線粉末回折])。熱水による岩石の色の変化は,例えばもとの岩石中の鉄分が,緑泥石やスメクタイトに変化すると灰緑色になり,それが微細な黄鉄鉱に変化すると灰色〜暗灰色になる。そして,ろう石のように鉄分が溶脱すると白色化する。
なお,変質鉱物が採掘対象となる場合もあり,その代表的なものはパイロフィライトなど(耐火物)・明礬石(カリ肥料)などを主とするろう石鉱床である。なお,熱水変質では,熱水中のケイ酸分が岩石にしみこんで岩石が石英質になる場合もあり,これをケイ化作用という。ケイ化作用を受けた岩石はカチカチに硬く,時にケイ石資源とされることもある。

●熱水の温度
熱水の温度は水の臨界温度である374℃以下とされている(それ以上の温度では水は気体(ガス)と液体の区別があいまいな流体であるが,一般にガスと呼ばれている)。一般的に約250℃以下は低温の熱水とされ,約350℃以上は高温の熱水とされる。低温の熱水は地表近くの熱水であり,それから生成した熱水鉱床は浅熱水鉱床といい,高温の熱水は地下深部の熱水で,それから生成した熱水鉱床は深熱水鉱床という。また,その中間的な熱水鉱床は中熱水鉱床ということがある。

●産出する主な鉱物
・浅熱水鉱床:鉄に乏しい閃亜鉛鉱・濃紅銀鉱・淡紅銀鉱・輝安銀鉱・ミアルジル鉱・ナウマン鉱・アグイラ鉱・石黄・鶏冠石・輝安鉱・自然硫黄・硫酸塩鉱物(重晶石・石こう・硬石こう・天青石・明礬石など)
・中熱水鉱床:やや鉄に富む閃亜鉛鉱,黄錫鉱,褐錫鉱,マチルダ鉱,硫砒鉄鉱,輝蒼鉛鉱,紅砒ニッケル鉱,硫砒ニッケル鉱,スクッテルダイト,ベルチェ鉱
・深熱水鉱床:鉄に富む閃亜鉛鉱,磁硫鉄鉱,自然ビスマス,ヘドレイ鉱,鉄重石,錫石,輝水鉛鉱,硫砒鉄鉱
※深熱水鉱床のような高温条件では流体中のAsS33-やSbS33-が不安定になるため,それらの化学種から沈殿してできる四面銅鉱・濃紅銀鉱・車骨鉱のような硫塩鉱物は形成されない。

●硫酸塩鉱物
硫酸塩鉱物を沈殿させる酸素を多く含む天水は地下深部には存在しないため,地下深部の熱水にはSO42−の硫黄の化学種(硫酸イオン)の割合は,他の硫黄の化学種(H2Sなど)よりもかなり低い。したがって,重晶石・天青石・石膏・明礬石類などの硫酸塩鉱物は深熱水鉱床からはほとんど産しない。

●石英の組織・粒度
浅熱水鉱床では脈石鉱物としてゲル状ケイ酸から結晶化した脂肪光沢のある乳白色緻密な石英が頻繁に見られるが,中〜深熱水鉱床ではそれは見られない。ゲル状ケイ酸は約250℃以下の低温条件でケイ酸コロイドの溶液から沈殿してできる。一方,中〜高温の熱水中ではケイ酸は,コロイドではなく,ケイ酸イオンとして溶けており,それが直接,石英として結晶化する。したがって,中〜深熱水鉱床の石英には,脂肪光沢のある乳白色緻密なものはほとんど見られず,主にガラス光沢のある粗いものが産する。

浅熱水成金銀石英脈に見られるゲル状ケイ酸分から結晶化した乳白色緻密な石英によく見られる組織
約250℃以下の低温の熱水には,ケイ酸はイオン以外にコロイドとしても溶けている。そのケイ酸コロイドから沈殿した直後のゲル状ケイ酸は未固結のスライム状で可塑性があり,重力・熱水の力・構造運動で,スランプ構造になり,曲がりくねったように変形したり(下写真@),ちぎれたりしている(下写真A〜B)(写真のような浅熱水成金銀石英脈は垂直に近い傾斜のものが多く,重力によるスランプ構造が非常に多い)。また,下写真Cのような浅熱水成金銀石英脈によく見られる斑点状や短い線状の銀黒(微粒の金銀鉱物・黄鉄鉱・閃亜鉛鉱・黄銅鉱・方鉛鉱などの黒ずんだ集合体)は,もとは連続した縞状の沈殿組織だったが,この原因で切れ切れになった断片であり,その後,それが石英に結晶化して固まったもので,元の鉱化作用の順序はほとんど分からなくなっている。なお,ゲル状ケイ酸が固化して緻密な石英に結晶化する際は,含まれていたカリウム分やアルミニウム分は氷長石の微細結晶となって石英中に析出する。そのため,このような緻密な石英は透明度が悪く,偏光顕微鏡下ではその氷長石は互いに結晶方位がまちまちの微細な菱形結晶体として,石英中に分散した状態になっている。また,ゲル状ケイ酸が石英に結晶化する際は脱水作用などで体積が収縮するため,このような石英には多少なりとも多孔質組織が見られることが多い(下写真@,B,D)。
そして,このような乳白色緻密な石英には,しばしば粗い透明な石英を伴う。この粗い透明な石英は,ゲル状ケイ酸沈殿後に熱水中のケイ酸分の濃度が著しく下がり,その熱水中のケイ酸の化学種がケイ酸コロイドではなくケイ酸イオンとなり,そのケイ酸イオンから直接,晶出した石英である(ゲル状ケイ酸から結晶化した石英に比べ粒度が著しく大きく,透明感があり,ガラス光沢がある)。この石英は柱状結晶が亜平行集合体(櫛の歯状)をなしたり,紫色のアメシストになっていることもあり,鉱脈中央部(末期生成部)に多い傾向がある。浅熱水成金銀石英脈において,通常,この部分は金銀に乏しい。


@重力によるスランプ構造が見られる浅熱水成金銀石英脈(鹿児島県大口鉱山)
沈殿順序は右から左の順で,赤矢印先の金銀鉱物を含む灰色縞は沈殿した直後はスライム状のゲル状ケイ酸であり,重力の作用で垂れて曲がりくねったスランプ構造を呈している(先に沈殿した右側の直線的な縞状部分と非調和な曲がりくねった縞状をなす)。
また,右の写真Dと同じ成因の多孔質組織(黒っぽく見える斑点が孔)が見られる。



A重力によるスランプ構造が見られる浅熱水成金銀石英脈(鹿児島県菱刈鉱山)
矢印先の金銀鉱物濃集部(銀黒縞)は,沈殿した直後は連続した灰黒色の縞であったが,それを含むスライム状のゲル状ケイ酸の重力による断裂により,切れ切れになり,もとの灰黒色の連続した縞は点列状になっている。
浅熱水成金銀石英脈は垂直に近い傾斜のものが多く,このような重力によるスランプ構造が非常に多い


Bスランプ構造が見られる浅熱水成金銀石英脈(北海道歌登鉱山)
ナウマン鉱や自然金の濃集部(銀黒縞)を含むこの鉱石全体は沈殿した直後はスライム状のゲル状ケイ酸で,重力などの作用で銀黒縞は断絶している。銀黒以外の部分もスランプ構造で沈殿縞が乱されてやや不規則になり,鉱化作用の順序がわかりにくくなっている。
また,右の写真Dと同じ成因の多孔質組織が見られる。


Cスランプ構造が見られる浅熱水成金銀石英脈(兵庫県旭日鉱山)
カンフィールド鉱・黄鉄鉱・自然金などの斑点状の濃集部(銀黒)を含む鉱石。全体は沈殿した直後はスライム状のゲル状ケイ酸で,重力などの作用でもとの縞状組織が大きく乱され,銀黒は不規則な斑点状になり,鉱化作用の順序はほとんどわからない。わずかにもとの沈殿組織が残った短い銀黒縞が礫状をなしている。
これは約70Maの浅熱水成金銀石英脈であるが,新生代のものと同様の鉱石組織である。


Dゲル状ケイ酸の結晶化による体積の収縮でできた浅熱水成金銀石英脈中の多孔質組織(鹿児島県菱刈鉱山)
熱水から沈殿したゲル状ケイ酸が石英に結晶化する際は脱水作用などで体積が収縮するため,浅熱水成金銀石英脈の乳白色緻密な石英にはこのような多孔質組織が多少なりとも見られる。

また,下画像はこの乳白色緻密な石英の偏光顕微鏡画像で,結晶方位に規則性がない微細な菱形〜平行四辺形の氷長石(Af)(アルカリ長石で,Naに乏しい)が多く混ざっている。これはもとのゲル状ケイ酸に含まれていたカリウム分やアルミニウム分がその結晶化の際に,氷長石として析出したものである。



ケイ酸イオンから直接,晶出した浅熱水成金銀石英脈中の石英(左端)
静岡県清越鉱山

浅熱水成金銀石英脈の石英は,ゲル状ケイ酸から結晶化した乳白色緻密なものが多いが,時にケイ酸イオンから直接,晶出したものもある。上写真ではケイ酸コロイドが沈殿したゲル状ケイ酸から結晶化した石英(乳白色のほか,スメクタイトを伴い褐〜緑色を呈したり,銀黒という黒い金銀鉱物濃集部を伴う)が早期に沈殿し,その後,熱水中のケイ酸分の濃度が急減し,ケイ酸イオンの希薄溶液から粗い透明感のある石英が晶出している。このような粗い石英は時に紫色のアメシストの場合もあり,通常,金銀には乏しい。
亜鉛の中熱水鉱脈に見られる石英(白)
約250℃以上の熱水にはケイ酸はコロイドとしては存在せず,主にケイ酸イオンとして溶けており,石英はそれから直接,結晶化してできる。したがって中〜深熱水鉱脈の石英はややガラス光沢がある粗いものばかりである。


●流体包有物

熱水鉱床を形成した熱水が鉱脈中の石英などの鉱物に取り込まれたもの。取り込まれた直後は150〜300℃程度,あるいはそれ以上の温度で,その後の冷却で気体が分離している。高濃度の塩類が溶けている場合もあり,直方体(4角)の塩化ナトリウム(NaCl)や塩化カリウム(KCl)などの結晶が析出しているものもある(中・右写真)。また,二酸化炭素を多く含む場合もある。
なお,右写真のように流体包有物の形がそれを含む鉱物の結晶形態と同じ場合があり,そのような流体包有物を負晶と呼ぶことがある(右写真のものは石英中の流体包有物で,この負晶の形はいわゆる水晶と同じ形である)。
このような流体包有物の大きさは0.001〜0.5mm程度で,加熱すると液相1相に均質化し,さらに塩濃度などで熱水鉱床の形成温度を知ることができるので重要である。