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熱水変質作用    〔戻る〕

熱水とは 熱い水で,多くは地下数100〜数1000mといった深部に存在します。地下は圧力が高いので,水は100℃を超えても沸騰せず,液体で存在しま す。熱水は150〜350℃位のものが多いです(いわゆる温泉水は地表で見られる100℃以下の熱水です)。
地下の100℃を超え る熱水は,物質を溶かしたり分解する能力が高く,熱水に長時間接した岩石は,内部に粘土鉱物などの含水鉱物や硫化鉄が多量に生成した り,軟化したり,変色したり,化学成分が変化したりします。これを熱水変質作用といい,熱水変質作用でできた鉱物を変質鉱物といいます。
未変質の流紋岩質火砕岩
やや熱水変質した流紋岩質火砕岩 熱水変質が進んだ流紋岩質火砕岩 ろう石
酸 性の熱水変質作用による流紋岩質火砕岩の変化
熱水変質作用を受けていないもの(左) → やや熱水変質作用を受けたもの(中)
 → 強 い熱水変質作用を受けたもの(右)
左:熱水変質作用を受けておらず,白く硬い長石類や灰色 でガラス光沢のある石英の斑晶 が多く見られ,石基も硬い。
中:やや熱水変質作用を受けたもので,長石類は分解して 無くなっており,石基は淡色になりやや軟化している。まだ灰色の石英の斑晶は溶けずに残留している。
右:さらに強い熱水変質作用を受けたもので,全体が淡黄 緑色のパイロフィライト(変質鉱物の仲間)に変化して10円硬貨で傷がつくほどに軟化し,石英の斑晶も溶けて小さくなってい る。このようなものは「ろう石」と呼ばれる。さらに熱水変質が進むと石英も消失し,ダイ アスポア(AlO(OH))やコランダム(Al2O3)ができるようになる。
※このように流紋岩質火砕岩が酸性の熱水変質作用を受けると,岩石全体の化学組成としては,最初にカリウム(K)やナトリウム(Na)などのアルカリ元素 やカルシウ ム(Ca)などのアルカリ土類元素が溶失し,次いで鉄(Fe)が溶失し,さらに珪素(Si)が溶失し,最後に はアルミニウム(Al)に富んだカオリン鉱物(Al2Si2O5(OH)4) やパイロフィライト(Al2Si4O10(OH)2),ダイ アスポア(AlO(OH)),コランダム(Al2O3)などからなる「ろう石」と呼ばれるものとなる。

熱水に は,数%程度の水分を含 むマグマが固まるときにマグマから分離したもの(マグマ水)と,地表の水が地下 に滲み込んでマグマの熱で温められたもの(天水)とがあります。したがっ て,熱水変質作用を受けた岩石はマグマの活動(火山活動)が活発だった地域に広く見られます。日本付近では,約2000万年前以降に活 発化した火山活動で,北海道北東部と南西部,本州日本海側,伊豆半島,九州の一部で熱水変質作用を受けた岩石が広く見られます。そこには温泉や,熱水の 作用でできた金属鉱床が多いです。

鉱脈のそばの熱水変質作用
熱水変質作用の例(銅鉱脈のそばに見られるもの
岩石(流紋岩)の割れ目に約300℃の銅を含んだ熱水が入り,銅鉱脈(金色は黄銅鉱,白色は石英)ができるとともに,熱水にじ かに接した鉱 脈のそばの岩石が強 く熱水変質し,白っぽく軟化している。
熱水変質作用を受けた岩石の特徴

●岩石全体は軟化し,新しく割り出した面でも,ハンマーの尖った部分で簡単に傷が付くことが多い(時には手で砕くことができる)。※しかし 石英が多量にできている岩石(珪化岩)は逆にかちかちに硬くなっている(下写真の例 2のもの)。

●岩石に含まれる長石などが白い粘土(白雲母,カオリンなどの変質鉱物)に変化している。
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長石(カリ長石)が酸性の熱水で白雲母と石英に変化する反応
3KAlSi3O8   +   2H   → KAl2(AlSi3O10)(OH)2   + 6SiO2  + 2K
カリ長石     熱水の水素イオン    白雲母       ケイ酸分  カリウムイオン
                                            ※カリウムイオンは流れ去る
さらに白雲母が酸性の熱水でカオリンに変化する反応
2KAl2(AlSi3O10)(OH)2   +  2H  +  3H2O → 3Al2Si2O5(OH)4   +  2K
   白雲母       熱水の水素イオン   熱水     カオリン      カリウムイオン
                                               ※カリウムイオンは流れ去る
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●岩石に含まれていた輝石類・角閃石類・黒雲母・ガラスなどが,暗緑色軟質の緑泥石やスメクタイトなどの変質鉱物に変化している(下写真の例1のもの)。

●微粒の金色の硫化鉄(黄鉄鉱:FeS2など)が無数に生成している(この硫化鉄が非常に細かいときは,岩石全体が灰色に 見える)。この硫化鉄の硫黄は熱水で硫化水素(H2S)として運ばれてきたものである。それが岩石中の鉄分と反応して硫化 鉄ができる(下写真の例3のもの)。

岩石に変質鉱物として,白雲母・カオリンが多量に生成しているときは 白,緑泥石やスメクタイトが多量に生成しているときは濃淡さまざまのくすんだ緑 色, 非常に細かい硫化鉄(黄鉄鉱など)が生成しているときは灰色,水酸化鉄が生成しているときは褐色である。

熱水変質作用を受けた岩石の例
熱水変質した火砕岩
珪化岩
熱水変質岩
例 1)安山岩質の火砕岩が熱水変質したもの。輝石類,角閃石類,火山ガラスなどが暗緑色軟質の緑泥石やスメクタ イトになっている。このようなものは特に北海道〜本州の日本海側の地域に広く分布している。 例 2) 石英が多量にできているもの(珪化岩)で,かちかちに硬くなっている。暗褐色に見えるのは熱水により元の岩石が部分的に溶けてできた小孔で,その内面に水 酸化鉄 が 沈殿している。
このように熱水変質が著しく進んだものは元の岩石の種類が分からないことが多い。
例 3)流紋岩質の火砕岩が熱水変質したもの。火山れきの部分は堅固で熱水があまりしみ込まず,その間の火山灰の部分に熱水がよくしみ込んで, 硫化 鉄 (黄鉄鉱:FeS2)の微粒子が多量に生成し,その部分が暗灰色に 見える。