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ろう石鉱床    〔戻る〕


これは非金属鉱床で,耐火材資源として重要。
流紋岩類の厚い火砕流堆積物のうちで比較的透水性のある流紋岩質火砕岩に,強い酸性の熱水がしみ込んで変質し,カオリン鉱物やパイロフィライト(葉ろう石)を主とする,ろう石(耐火材原料)になったもの。硫化鉱物は乏しく,時に少量の黄鉄鉱や輝安鉱が見られる程度で,明礬石などの硫酸塩鉱物がまとまって見られることがあることから,かなり酸化的な天水起源の熱水(SO42-が卓越し,H2Sに乏しい条件)による変質作用でできたと考えられる。幾分,暗紅色鉱染状の赤鉄鉱を伴う場合もあるが,有用金属元素の濃集はあまりない。
ろう石化では,酸性の熱水により,最初に元の流紋岩質の岩石中の石基(ガラスなど)や長石類・有色鉱物が変質し(元素としてはカリウム(K)・ナトリウム(Na)・カルシウム(Ca)・鉄(Fe)・マグネシウム(Mg)が溶脱),次いで石英が溶脱し(ケイ素(Si)の溶脱),徐々に難溶性のアルミニウム(Al)に富む環境となり,カオリン鉱物やパイロフィライト(葉ろう石)などの含水アルミニウムケイ酸塩ができていく。
普通のろう石の構成鉱物はパイロフィライト(葉ろう石)とカオリン鉱物(低温ではカオリナイト,やや高温ではディッカイトが生成)が主であるが,ろう石化が進むと青色や藤色で鉱染状や放射状のジュモルチール石・白くチカチカ光る堅いダイアスポア・白色〜淡褐色で鉱染状の紅柱石が生じ,かなり高温で強度にろう石化が進んだものにはディッカイトとともに青い鉱染状や粒状の硬いコランダムが出現する。


酸性の熱水変質作用(ろう石化)による流紋岩質火砕岩の変化



 熱水変質作用を受けておらず,白く硬い長石類や灰色でガラス光沢のある石英の斑晶 が多く見られ,石基も硬い。


 やや熱水変質作用を受けたもので,長石類は分解して無くなっており,石基は淡色になりやや軟化している。まだ灰色の石英の斑晶は溶けずに残留している。
※カリウム・ナトリウム・カルシウム・鉄・マグネシウムの溶脱。



 さらに強い熱水変質作用を受けたもので,全体が淡黄緑色のパイロフィライトに変化して10円硬貨で傷がつくほどに軟化し,石英の斑晶も溶けて小さくなり,ろう石と呼べるものになっている。
※ケイ素の溶脱。



 石英の斑晶は完全に消失し,全体が緻密なパイロフィライトとカオリン鉱物になったもの。


 さらに一層,ケイ素が溶脱し,ケイ素を含まないアルミニウム酸化物である青いコランダムができているもの。



ろう石中の鉱物の例
アルミニウムを主とする鉱物が多く,ナトリウム・カリウム・カルシウムを主とする鉱物は明礬石系鉱物以外ではまれである。細粒緻密で軟質のものが多い。時に硬度の高い,ダイアスポア,コランダム,ジュモルチール石などが見られるが,それらも微粒集合体のためハンマーなどで引っかいても実際よりやや硬度が低く感じられる。
パイロフィライト・カオリン鉱物・ベーム石・混合層粘土鉱物(須藤石)などは白っぽく,特に細粒緻密で,それらは互いに肉眼で区別が困難で,同定にはX線粉末回折が有効。まれに少量のLiを含む粘土鉱物(cookeiteなど)も含まれることがある。


パイロフィライト
Al2Si4O10(OH)2カオリン鉱物 Al2Si2O5(OH)4
両者がまざった緻密な塊状をなすもの。ほぼパイロフィライトだけのろう石・ほぼカオリン鉱物だけのろう石も少なくない。パイロフィライトとカオリン鉱物の区別は肉眼では困難だが,X線粉末回折では簡単に区別できる。しかし,カオリン鉱物相互の区別(カオリナイト・ディッカイトなどの区別)はX線粉末回折でも困難である。



須藤石(純白色 Mg2Al3AlSi3O10(OH)8),ベーム石(クリーム色 AlO(OH))

比較的産出が少なく,やや低温の変質作用でできる。左のパイロフィライト・カオリン鉱物からなるろう石とはX線粉末回折で区別するしかない。



コランダム Al2O3
青色で,非常に硬度が高く,ガラスに容易に傷がつく(モース硬度9)。


ジュモルチール石
Al7O3(BO3)(SiO4)3

青〜赤紫色で,染みのような状態,あるいは放射針状集合体で,硬度が高く,ガラスに傷がつく(モース硬度7.5)。左のコランダムに似るが,微細な針状(放射状)をなすことが少なくない。時に灰色針状のフォイッタイト系の電気石類が一緒に産する。
ダイアスポア HAlO2
チカチカ光り,硬度が高く,ガラスに傷がつく(モース硬度6.5)。左のようにディッカイト(Di)中に劈開面がチカチカ光る硬い不規則集合体(Da)をなすほか,右のようにディッカイト中に緻密な堅い団球状をなすこともある。


明礬石−ソーダ明礬石系鉱物
(K,Na)Al3(SO4)2(OH)6

ろう石鉱床では数少ないカリウム・ナトリウムの鉱物。白っぽく(時に桃色やクリーム色を帯びる),緻密なもののほか,細かくチカチカ光る鱗状集合体でダイアスポアに似ることもあるが,硬度が低く,ガラスに傷がつかない(モース硬度3.5)。
カオリン鉱物などに比べ,ややざらついた手触りのことが多い。
しばしば赤鉄鉱の微粒子を伴う。カリ肥料資源にされることがある。



赤鉄鉱 Fe2O3
微粒子の鉱染状でろう石を暗赤〜暗紫色に染める。粗粒なものは鋼灰色鱗状でキラキラした亜金属光沢がある。ろう石の隙間に沿って見られることも多い。


ズニ石 Al13Si5O20(OH,F)18Cl
微細な4面体を基調とする自形で,それが集合体をなす。やや稀な鉱物。


黄鉄鉱 FeS2
微粒子の鉱染状で,ろう石を灰色に染める。粗粒なものは金色の金属光沢がある。


二酸化チタン鉱物(顕微鏡写真。鋭錐石・板チタン石・ルチル) TiO2
赤褐色,褐色,黒褐色の金剛光沢のある微細な粒。ろう石の鉱物ではややまれな鉱物。もとの流紋岩類中の微量のチタンが熱水変質の過程で残留して結晶化したものである。