【金(きん)】(11族 元素記号:Au)   [周期表へもどる]
 
<自 然界での産出>
 主にほかの元素と化合していない単体(自然金)で産する。普通,金鉱石1tあたりには金は2〜10g程度しか含まれず,その中の自然金は細かく肉眼では見えない。また,シルバニア鉱などのテルル化合物として産することもあり,これも重要な金資源。ほかに銅・亜鉛・鉛などの鉱石に微量成分として1tあたり0.1〜1g程度含まれているものが副産物として回収される。産出は南アフリカ・中国・オーストラリアが多い。なお,川底などの砂金は,19世紀までは主要な金資源だったが,現在では世界的に産額が少ない。
 金は地球誕生直後の46億年前は地球全体に均一に含まれていたが,地球が冷え,核(鉄−ニッケル合金)・マントル・地殻(ケイ酸塩)ができた時に大部分は核に吸収され(100万分の1程度含まれる),マントルや人類の生活圏の地殻にはあまり含まれなかった(平均して10億分の1程度しか含まれない)。これが人類の身の回りで金が希少な理由である(8〜10族の白金族元素も同じ理由で希少である)。
<用途>
 集積回路などの電子部品,貨幣,宝飾品に用いられている。
   
自然金

自然金    native gold  
成分:単体の金で,いくらかの銀と合金になっている(Au,Ag)
 
この写真のものは自然金としては珍しく,金の純度が95%以上に達し,濃い金色に見える。 細かい苔状の結晶集合体で石英中。
・チリ エル インディオ鉱山産 
自然金
自然金    native gold  
成分:単体の金で,いくらかの銀と合金になっている(Au,Ag)
この金粒 は3割程度の銀を含み,純金に比べ白っぽく見える(エレクトラムと呼ばれる)。 石英中。
・兵庫県朝来市朝日鉱山産
砂金

 
自然金(砂金)  native gold (placer gold)
成分:単体の金で,いくらかの銀と合金 になっている (Au,Ag)
 金鉱床が浸食され,金鉱石に含まれていた金粒がたい積物中に混ざって産したもの。部分的に枝分かれしたような結晶形が見え る。
・台湾基隆川産

シルバニア鉱

シルバニア鉱  sylvanite
成分:金と銀のテルル化物 AuAgTe4
 テルルと金などが化合した鉱物も金資源として重要で,なかでもシルバニア鉱やカラベラス鉱は比較的産出が多い。シルバニア鉱 は軟らかい銀白色で,粒状や板柱状の小結晶体をなす。 石英に伴う。
・フィジー エンペラー鉱山産(矢印の先)
菱刈鉱山の金鉱石 
  金鉱石   gold ore
 
日本から産出する金鉱石の多くは,このような石英・氷長石からなる 白色緻密な,しま模様のある鉱石中に0.01mmくらいの微細な金粒(右写真)が含まれているもので,200〜250℃位の熱水から石英や金などが沈殿し てでき る。
 菱刈鉱山は1981年に発見され,金の埋蔵量(313 トン)は,それまで日本の三大金山と言われていた北海道鴻之舞鉱山(73トン),新潟県佐渡鉱山(78トン),鹿児島県串木野鉱山(55トン)を合わせた 量よりもはるかに多い。
・鹿児島県菱刈鉱山産(1トン当たり金が40g以上含まれる高品位鉱石)

金 

金鉱石の偏光反射顕微鏡写真

 鹿児島県菱刈鉱山の菱泉5脈という鉱脈から得られた金鉱石の偏光反射顕微鏡写真。暗い色の石英の中に黄銅鉱(黄色),ナウマン鉱(銀とセレンからなる鉱 物で灰 色) と共生して,0.01mm程の明るい白っぽい色の金粒が散在している。金としては色が白っぽいのは3割ほどの銀分を含むためである。(写真の左右 0.48mm)

南薩型金鉱床の鉱石
 南薩型金鉱床の金鉱石  gold ore
 南薩型金鉱床と呼ばれる金鉱床から産した金鉱石。
 岩石に金を含んだ酸性の熱水が作用し,岩石自体が硬い石英質の金鉱石となったものである。 鉱石全体に0.01mmくらいの微細な金粒(右写真)が含まれ,品位はトン当たり金が5g程度含 まれるもの。
 鉱床 の規模が大きく,採掘経費の安い露天掘りで採掘される。
・鹿児島県赤石鉱山産



赤石鉱山の金

南薩型金鉱床の金鉱石の偏光反 射顕微鏡写真

 暗い色の石英中にルソン銅鉱(桃褐色)と共生して0.01mmくらいの黄色の金粒がみられる。ほとんど銀分を含まない金粒なので濃い黄色を呈している。 青い鉱物はコベリンという硫化銅の鉱物。
・鹿児島県赤石鉱山産(写真の左右0.48mm)













地球における金鉱床の形成


 地球は46億年前に誕生し,その当時は熱いマグマの塊で,金はその全体に均一に1tあたり0.2g程度含まれていた。地球のマグマは冷えるにつれ,中心の核(鉄−ニッケル合金)と,その周りを包むマントルなど(ケイ酸塩の岩石)に分かれていった。その時,金の大部分は核の鉄−ニッケル合金に吸収され,そこには1tあたり1g程度含まれるが,マントルや人類の生活圏である地殻のケイ酸塩の岩石には平均して1tあたり0.001g程度しか含まれない。これが人類の身の回りで金が希少な金属である理由である(白金族元素も同じ理由で希少な貴金属である)。
 
 なお,地球46億年の歴史において金鉱床は,約30億年前にできたものと,約2億年前以降の時代にできたものに大別される。
 約30億年前の金鉱床は南アフリカ,オーストラリア西部,カナダ オンタリオ州など大陸地域(安定陸塊)にあり,鉱床の数は少ないが,大規模なものがあり,特に南アフリカのウィットウォーターズランドは世界最大の金鉱床で,その金埋蔵量は採掘分を含め10万t近い(世界の金の半分以上)。
 一方,日本のような環太平洋造山帯の約2億年前以降の新しい時代の金鉱床は数は多いが,全体に規模が小さいものが多い。

南アフリカの含金れき岩層の金鉱石

世界最大の金鉱床の南アフリカのウィットウォーターズランドから産した金鉱石(含金れき岩層)

 30億年前にできた大規模な石英質の金鉱脈が,地表に露出して浸食されて砕け,それがその後の30億〜27億年前に盆地に堆積してできたれき岩層で,それ自体が金鉱石である。1t中に4〜6gの金を含み,含金れき岩層という。この写真にも灰色や白っぽい石英のれきが多く見られる。この鉱床は1886年に発見されて採掘が始まり,当初は深部まで続かないと考えられていたが,地表から4000m近く掘り進んでも,さらに地下へと連続し,一つの巨大な金鉱床を多くの鉱山会社が採掘している。鉱床の延長は400kmに達する。現在,比較的手ごろな価格で金製品を入手できるようになったのもこの巨大な金鉱床の発見のおかげである。また,この鉱石にはウランも二酸化ウラン(閃ウラン鉱)として0.数%含まれ,それも回収されている。
 南アフリカ最大の都市ヨハネスバーグはこの金鉱床の開発で誕生した。

黒鉱
黒鉱   black ore
 
  金は亜鉛,鉛,銅などの他の鉱石中にも微量成分としてトン当たり0.1〜1グラム程度含まれることがあり,副産物として回収されている場合もある。写真は 黒鉱と呼ばれている亜鉛,鉛,銅,銀などの鉱石で,海底に吹き出す熱水から細かい硫化物が沈殿してできる。閃亜鉛鉱,方鉛鉱,四面銅鉱,黄銅鉱,重晶石な どが密に集合し,数〜数10ミクロン程度の微細な金がわずかに含まれている(右写真)。
・秋田県餌釣鉱山産
黒鉱中の金

黒鉱中の金(偏光反 射顕微鏡写真
 金は黒鉱などの亜鉛,鉛,銅鉱石中にも数〜数10ミクロン程度の微粒子でわずかに含まれることがある。
・秋田県餌釣鉱山産