鉱石の研磨片の作り方     戻る


以下のような不透明な鉱物(金属鉱石を構成する鉱石鉱物)は透過照明装置では光を透さず調べることができないので,研磨面に偏光を当て,その反射光を観察して調べる。

・単体の金属・単体の半金属の鉱物
自然金(Au),自然銀(Ag),自然銅(Cu),自然白金(Pt),アワルワ鉱(Ni3Fe),自然テルル(Te),自然ビスマス(Bi)など

・金属元素・半金属元素(テルル・ヒ素・アンチモン・ビスマス)・イオウ・セレンからなる鉱物 → 硫化鉱物・セレン化鉱物・テルル化鉱物・ヒ化鉱物など
輝銀鉱(Ag2S),黄鉄鉱(FeS2),磁硫鉄鉱(Fe0.875〜1S),硫ヒ鉄鉱(FeAsS),黄銅鉱(CuFeS2),キューバ鉱(CuFe2S3),方鉛鉱(PbS),四面銅鉱(Cu10(Fe,Zn)2(Sb,As)4S13),濃紅銀鉱(Ag3SbS3),輝安銀鉱((Ag,Cu)16(Sb,As)2S11),ナウマン鉱(Ag2Se),ヘッサイト(Ag2Te),シルバニア鉱(AuAgTe4),カラベラス鉱(AuTe2),ヒ鉄鉱(FeAs2),紅ヒニッケル鉱(NiAs)など

・遷移元素と酸素だけからなる酸化鉱物
磁鉄鉱(Fe3O4),赤鉄鉱(Fe2O3),チタン鉄鉱(FeTiO3),ルチル(TiO2),ヤコブス鉱(MnFe2O4),ハウスマン鉱(Mn3O4),鉄マンガン重石((Fe,Mn)WO4),コルンブ石((Fe,Mn)(Nb,Ta)2O6)など

このような鉱物を多く含む石は金属鉱床から産出する金属鉱石のことが多く,この場合,2〜3cmの小さな塊の1面をダイヤモンドペーストで鏡面研磨したもの(研磨片)を作り,その研磨面を偏光反射顕微鏡で観察します。

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必要な物


●研磨剤
・炭化ケイ素(別名 カーボランダム,番号が大きいと粒子が細かい)80番,320番,1200番,3000番など(
※粒子の細かい研磨剤に粒子の粗い研磨剤が混ざらないようにすること)。

・ダイヤモンドペースト(ダイヤモンドの粒子が3,1,0.25μmなどのものがある。宝石にならない品質の天然ダイヤモンドや,合成ダイヤモンドを微粒子にして,油脂に混ぜ,ペースト状にしたもの。宝石研磨の最終仕上げにも用いられる。他の研磨剤が混ざらないようにすること。普通は1μmまたは3μmを使用。)
※ダイヤモンドペーストは,自然金,自然銀,輝銀鉱などの金銀鉱物など軟質鉱物を主とする鉱石では1μmを用い,黄鉄鉱・硫ヒ鉄鉱・各種コバルト・ニッケル硫化鉱物・酸化鉱物など硬い鉱物を主とする鉱石では3μmを用いる。なお,1μmと3μmでそれぞれ専用研磨布は分けておく(※なお,EPMA分析の場合は,超音波洗浄機で洗浄後,0.25μmのダイヤモンドペーストで1分程度研磨しておく必要がある)。

3μmのダイヤモンドペーストを顕微鏡で見た様子


●研磨板(平らな鉄板またはガラス板。研磨剤の番号ごとに違う研磨板を用いること)
※研磨板は廃材の窓ガラス(3〜5o程度の厚さ)をガラス切りで約20cm角に切り,手を切らないように縁をカーボランダム等で磨り落としたもので良い。この場合,研磨面は凹凸が少ないことが重要で(凹凸差は1o以下が望ましい),物差しをあてがうと平面度がわかる。特に1200番や3000番といった仕上げに使う研磨板は凹凸が0.3o以下が望ましい。研磨板も使うにつれ,削れて凸凹が激しくなり,数10回使うと使えなくなるので,新しいものと取り換えるか,裏側を使うようにする。また,1200番や3000番で使い終えたものを80番,320番で数10回使ってもよい。

●ダイヤモンドペースト専用研磨布(ごみが付かないようにすること)
※専用研磨布には1回0.2〜0.3cc程のダイヤモンドペーストを塗っておけば,50〜100個程度は研磨できる。なお,磨けなくなってきたら0.1cc程のダイヤモンドペーストを追加する。
数多く磨くと鉱石の研磨でできた泥が布の表面についてべたついてくるので,その場合は,きれいな水を入れた洗面器の中で歯ブラシなどを使って丁寧に洗い落とし,乾かした後,新たに0.2〜0.3cc程のダイヤモンドペーストを塗ると使える。専用研磨布はすり減って裏地が見えてくるまで使える。

●ダイヤモンドペースト専用ルブリカント,または,純エタノール

●超音波洗浄器

●新聞紙,水を入れた洗面器など


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作成方法

以下は通常の硬い試料の作成方法である。
※なお,多孔質の岩石や,熱水変質岩などの脆い試料の場合,あらかじめ粘性の低い特殊な樹脂をしみ込ませて硬化させて作成する。


 岩石や鉱石から面積2×3p前後,厚さ1p程度のチップを岩石カッターで切り出す。あるいは小型ハンマーで同程度の大きさのチップを割り出す。

※なお,EPMA分析する場合は,EPMAの試料ホルダーに収まる大きさにしておく。専用の鋳型を使って非揮発性の樹脂に封入する方法もある。


 きれいに洗った平らな鉄板またはガラス板に,少量の水と小さじ1杯程の80番のカーボランダムをのせる。

 チップの片面を押しつけて研磨する。切ったり割ったりした際にできた凹凸が徐々に無くなり,平らな面が広くなる。研磨剤がゴリゴリと音がしなくなったら,適宜,80番のカーボランダムや水を少し追加しながら研磨していく。片面が完全な平面になったら,研磨を終了する。よく洗う。

 「2」,「3」と同じように別のよく洗った研磨板(ガラス板)の上に,少量の水と小さじ1杯程の320番のカーボランダムを乗せ,「3」で磨いた面を約5分間研磨する。
 研磨したチップをよく洗った後,別のよく洗った研磨板(ガラス板)の上に少量の水と小さじ1杯程の1200番のカーボランダムを乗せ,「3」で磨いた面を約5分間研磨する。
 研磨したチップをよく洗った後,別のよく洗った研磨板(ガラス板)の上に,少量の水と小さじ1杯程の3000番のカーボランダムを乗せ,「3」で磨いた面を約5分研磨する。
 鉱石片の磨いた面の周囲の縁や角を150番のカーボランダムなどで1〜2oほど削り取る。終ったら鉱石片を丁寧にきれいな水でよく洗う。

 鉱石片を研磨面を下にして超音波洗浄器に入れ,約3〜5分間洗い,その後,よくすすぐ(※研磨剤が鉱石に全く付着していないことを確認する)。手もよく洗う。
※特に研磨面に小さな穴がある試料は,穴の中に粗い研磨剤が詰まっているので,超音波洗浄器で洗浄しているときに時々,動かす。
 鉱石片と手を拭いて乾かす。


 0.2〜0.3cc程のダイヤモンドペーストを塗った専用研磨布に専用ルブリカント(または純エタノール)を数滴垂らす。

→ [ダイヤモンドペーストの粒度の違いによる軟質鉱物の研磨面の状態

 「4」で磨いた面を磨く(2〜3分程度)。この際,あまり強く押し付けると,硬い鉱物と軟らかい鉱物との段差が著しくなってしまう。
 また,研磨中に鉱石が欠けた場合,水で湿らせたチリ紙を専用研磨布に軽く押し当て,こぼれた鉱石の微小なかけらを取り除く。

→ [可塑性に富む鉱物の研磨

 鉱石片(特に研磨面とその周囲の縁の部分)と手をよく洗い,チリ紙で拭いて乾かし,研磨した面を上にしてハンドプレスで水平にスライドグラスに油粘土で固定して,偏光反射顕微鏡で観察する。