岩石薄片の作り方     戻る

偏光顕微鏡で観察するプレパラートについて)

 偏光顕微鏡で岩石を観察するときには,28×48mm程のスライドグラスに厚さ0.03mm(30μm)程の極めて薄い岩石が貼りついた状態のものを用いる。このような偏光顕微鏡で観察するための岩石のプレパラートを岩石薄片(または単に薄片)という。
 これは下記の作成方法の通り,岩石の小片をスライドグラスに貼りつけたものをすり減らして作る。



              
岩石薄片の構造

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必要な物

●研磨剤
・炭化珪素(別名 カーボランダム,番号が大きいと粒子が細かい。粒子の細かい研磨剤に粒子の粗い研磨剤が混ざらないようにすること)80番,320番,1200番,3000番など。

・ダイヤモンドペースト(ダイヤモンドの粒子が3,1,0.25μmなどのものがある。宝石にならない品質の天然ダイヤモンドや,合成ダイヤモンドを微粒子にして,油脂に混ぜ,ペースト状にしたもの。宝石研磨の最終仕上げにも用いられる。他の研磨剤が混ざらないようにすること。普通は1μmまたは3μmを使用)



3μmのダイヤモンドペーストを顕微鏡で見た様子



●研磨板(平らな鉄板またはガラス板。研磨剤の番号ごとに違う研磨板を用いること)
※研磨板は廃材の窓ガラス(3〜5o程度の厚さ)をガラス切りで約20cm角に切り,手を切らないように縁をカーボランダム等で磨り落としたもので良い。この場合,研磨面は凹凸が少ないことが重要で(凹凸差は1o以下が望ましい),物差しをあてがうと平面度がわかる。特に1200番や3000番といった仕上げに使う研磨板は凹凸が0.3o以下が望ましい。研磨板も使うにつれ,削れて凸凹が激しくなり,数10回使うと使えなくなるので,新しいものと取り換えるか,裏側を使うようにする。また,1200番や3000番で使い終えたものを80番,320番で数10回使ってもよい。


●ダイヤモンドペースト専用研磨布(ごみが付かないようにすること)
※専用研磨布には1回0.2〜0.3cc程のダイヤモンドペーストを塗っておけば,50〜100個程度は研磨できる。なお,磨けなくなってきたら0.1cc程のダイヤモンドペーストを追加する。
 数多く磨くと岩石の研磨でできた泥が布の表面についてべたついてくるので,その場合は,きれいな水を入れた洗面器の中で歯ブラシなどを使って丁寧に洗い落とし,乾かした後,新たに0.2〜0.3cc程のダイヤモンドペーストを塗ると使える。専用研磨布はすり減って裏地が見えてくるまで使える。


●ダイヤモンドペースト専用ルブリカント,または,純エタノール


●岩石薄片用スライドグラス(約28×48mm)

●エポキシ系接着剤:硬化したものの屈折率が1.54程度のもの。最近では岩石薄片に向く各種の接着剤が開発されている。2液混合型や120℃程度に加熱して固化させるタイプのものもある。

●超音波洗浄器。メガネなどの汚れを落とすもの。

●新聞紙,水を入れた洗面器など


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作成方法

※以下は通常の硬い試料の作成方法である。なお,多孔質の岩石や,熱水変質岩などの脆い試料の場合,あらかじめ粘性の低い特殊な樹脂をしみ込ませて硬化させて作成する。


 岩石から面積約2×3p,厚さ2〜3o程度のチップ(右写真)を岩石カッターで切り出す。あるいは小型ハンマーで同様の面積で,厚さ3〜5o程度のチップを割り出す。
→ [岩石カッターの構造



 きれいに洗った平らな鉄板またはガラス板の上に,少量の水と小さじ1杯程の80番のカーボランダムを乗せる。

岩石のチップは左のような形状に近いものが望ましく,右のような細長い形状のものは均一な厚さに仕上げることは難しい。
※なお,このチップが厚いと二次切断しない限りは,チップのすり減らしで非常に時間がかかってしまう。
※縞模様のある岩石のチップの切り出し方
・泥岩砂岩の互層など,層理のはっきりした堆積岩は,縞目の方向(層理)に直角にチップを切り出す。
・結晶片岩など線構造のある岩石の場合は,縞目の方向(片理)に直角,かつ,線構造に平行にチップを切り出す。

 チップの片面を押しつけて研磨する。切ったり割ったりした際にできた凹凸が徐々に無くなり,平らな面が広くなる。研磨剤がゴリゴリと音がしなくなったら研磨剤が消耗しているので,適宜,80番のカーボランダムや水を少し追加しながら研磨していく。片面が完全に平面になったら研磨を終了し,チップをよく水で洗う。
 きれいに洗った別の研磨板(ガラス板)の上に,少量の水と小さじ1杯程の320番のカーボランダムを乗せ,「3」で磨いた面を約5分間研磨する。研磨したチップをよく水で洗う。
 きれいに洗った別の研磨板(ガラス板)の上に,少量の水と小さじ1杯程の1200番のカーボランダムを乗せ,「3」で磨いた面を約5分間研磨する。研磨したチップをよく水で洗う。
 きれいに洗った別の研磨板(ガラス板)の上に,少量の水と小さじ1杯程の3000番のカーボランダムを乗せ,「3」で磨いた面を約1分間研磨する。
※この段階で研磨面が完全な平面になっていないと,完成品の薄片の面積が著しく小さくなる。
 
 チップを研磨面を下にして超音波洗浄器で3分間洗う(超音波洗浄器がなければ歯ブラシで側面を含め全体を丁寧に水洗する)。
 チップをよくすすぎ,ほこりのかからない所に斜めに立てかけて1日以上乾燥させる(※紙・布などで拭くと研磨面に繊維がついてしまう。また皮脂がつくので研磨面には触らない)。また,スライドグラスも水洗し,斜めに立てかけて乾燥させておく。


 エポキシ系接着剤を接着剤の説明書どおりに混合する。「5」で十分乾燥させた磨いたチップの面に大豆3粒分程度付け,手早く,スライドグラスをひっつけて接着剤に含まれる微細な気泡を完全に追い出すように圧着させる。
 圧着しながら前後・左右に0.5〜1p程度の幅で,反復往復させる。最低でも20秒間は反復往復させる。接着剤の気泡はスライドグラスを斜め方向から見ると小さく光って見えるので,それを追い出すようにする。



※エポキシ系接着剤のうちで常温で時間をかけて固化するタイプのものは,2つ以上のクリップで全体に均等に力がかかるように固定しておく。 そして,接着剤が固まる直前の状態(爪で軽く押して凹む程度)で,クリップを外し,チップの縁からはみ出した接着剤をカッターなどでほぼ完全に取り除く。



 硬化時間を過ぎ,1日以上おいた後,接着剤が完全に固まったら岩石部分(チップ)を「2」,「3」と同様の方法で80番のカーボランダムで研磨し,厚さが0.5〜1mm程度になったら,研磨を終了し,よく洗う。
※全体が均一な厚さになるように注意しつつ研磨する。


 「7」で磨いた面を「3」と同様の方法で320番のカーボランダムで研磨していき,厚さが0.2mm程度になったら,研磨を終了し,よく洗う。
※全体が均一な厚さになるように注意しつつ研磨する。




 「8」で磨いた面を「4」と同様の方法で1200番のカーボランダムで研磨していく。チップがかなり光を透すようになり,厚さが紙に近い程度になったら,2枚の直交する偏光板の間に挟んで観察し,長石類や石英が全体に淡黄・白・灰色に見えるようになったら研磨を終了する
 → 厚さが0.03mm程度になっている状態。なお,それらが虹色や緑・赤・青・紫に見える状態(上の左や中の写真の状態)ではまだ厚いので研磨を続ける。
 厚さが0.03mm程度になったら,研磨を終了し,よく洗う。

※全体が均一な厚さになるように注意しつつ研磨すること。

10 「9」で磨いた面を「4」と同様の方法で3000番のカーボランダムで弱い力で約20秒研磨する。

11 超音波洗浄器で1分間水洗する。 12 0.2〜0.3cc程のダイヤモンドペースト(通常の造岩鉱物からなる試料の場合は3μmの粒度のもの,軟らかい硫化鉱物からなる試料の場合は1μmの粒度のもの)を塗った専用研磨布に専用ルブリカント(または純エタノール)を数滴垂らし,2〜3分程度,磨く。


13 よく水洗し,ティッシュペーパーで拭く。→ 偏光顕微鏡での観察に供する(なお,EPMA分析の場合はさらに0.25μmのダイヤモンドペーストで1分程度研磨する必要がある)。
※「12」の終了後,自然乾燥させ,研磨面にカバーガラスをカナダバルサムなどで接着して完成させる方法もあるが,カバーガラスをつけるとEPMAによる観察・化学分析が行えなくなる。また,チタン鉄鉱・磁鉄鉱・黄鉄鉱・磁硫鉄鉱などの不透明鉱物の観察も不能になる。