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EDS   [戻る]

 電子線を試料に当て,試料に含まれる原子から出てきた特性X線を半導体検出器で検出し,そのエネルギーレベルと強度から,試料に含まれる元素の種類と含有率を調べる。
 なお,通常は,二次電子検出器でSEM像も観察できるようになっており,微細な粘土鉱物や沸石類のようなものの形態も調べられる。→ [SEM像]   

EDSの装置の概略図


カーロール鉱(carrolite)化学組成CuCo2S4の定性分析チャート 銀とテルル鉱からなる鉱物(ヘッス鉱 hessite Ag2Te,または,ステイツ鉱 stuetzite Ag12Te7)の定性分析チャート


 上図のように,EDSの定性分析チャートは横軸が試料から出る特性X線のエネルギーレベル(keV)で,縦軸はその特性X線の強度(カウント)である(※エネルギーレベルと強度は意味が異なる。強度は試料中の含有率が多いほど高くなる)。
 EDSにおける定性分析チャートでは,原子番号の小さな原子から出てくる特性X線(この場合K線)はエネルギーが弱いので,横軸で見ると低エネルギー側(左側)にそのピークが見られる。原子番号が大きくなるにつれ高エネルギー側(右側)にK線のピークが出るようになる(上の左図のカーロール鉱の定性分析チャート 硫黄(S)は原子番号16で,コバルト(Co)は原子番号27,銅(Cu)は原子番号29)。およそTi(原子番号22)以上の原子番号のものは,L線が低エネルギー側に現れるようになり(上の左図の左側のコバルト(Co)と銅(Cu)のL線),同じ元素であってもK線(高エネルギー側)とL線(低エネルギー側)の2本のピークが現れるようになる(上の左図のコバルト(Co)と銅(Cu)のK線とL線)。
 原子番号が大きくなるにつれ,それらのピークは高エネルギー側へ現れるようになる。
 およそイットリウム(原子番号39)より原子番号の大きな元素はL線が明瞭に複数のピーク(Lα,Lβなど)に分裂するようになる(上の右図の銀(Ag)原子番号47,テルル(Te)原子番号52)。そして,ガドリニウム(原子番号64)くらいから原子番号の大きな元素については低エネルギー側にM線が現れるようになる(下の左図の鉛(Pb)原子番号82,右図のビスマス(Bi)原子番号83)。そして,さらに原子番号が大きくなるにつれ,それは高エネルギー側へ現れるようになる。

 EDSは試料に照射する電子線の電流(試料電流(照射電流))が小さくて済むため(0.数nA以下),電子線による試料の損傷が小さく,水分などの揮発成分を多く含む鉱物(沸石類や二次鉱物類など)や硫酸塩鉱物の定量分析に向いている(→ 電子線による試料の損傷が大きいと分析誤差が大きい)。 また,試料に含まれる分析対象の元素をすべて一度に(数分以内)に分析でき,分析にかかる時間が短時間で済む利点がある(短時間で分析できるので,その意味でも試料の損傷が少ない)。

 一方,分析チャートにおいて複数の元素のピークが互いに重なり合うことがしばしばである(ピークの分解能が悪い)。したがって定量分析する場合,含まれる元素の組み合わせによっては大きな誤差が見られる場合がある(※このため,定性分析においても含有元素の種類の同定を誤ることがある)。 → 例えば,ストロンチウム(Sr)とケイ素(Si), 硫黄(S)とビスマス(Bi)と鉛(Pb)は主要ピークの位置がほぼ同じである。それらの元素を共に含む鉱物であるスローソン石(SrAl2Si2O8),輝蒼鉛鉱(Bi2S3),方鉛鉱(PbS),硫酸鉛鉱(PbSO4),コサラ鉱(Pb2Bi2S5)などは正確に定量分析できない場合が多い。
 
 また,定量分析において,一般に分析精度は良くても重量%で小数点以下第1位程度で,WDSよりも分析精度は劣ることが多い。
 

銅(Cu)・銀(Ag)・鉛(Pb)・アンチモン(Sb)を主とし,硫黄(S)を含む可能性のある鉱物の定性分析チャート ビスマス(Bi)・テルル(Te)を主とし,硫黄(S)を含む可能性のある鉱物の定性分析チャート


定量分析)
どの特性X線を使って定量分析するかは他の元素とのピークの重なり合いもあるため,一概にいえないが,一般的には以下のようである。

炭素C(原子番号6)〜臭素Br(原子番号35):Kα
亜鉛Zn(原子番号30)〜Bi(原子番号83):Lα
金Au(原子番号79)〜ウランU(原子番号:92):Mα

定量分析にはスタンダード(標準試料)を用いる。
酸化鉱物・炭酸塩鉱物・硫酸塩鉱物・珪酸塩鉱物など,酸素を主成分とする鉱物の定量分析には酸化物や珪酸塩などのスタンダードを用いる。
元素鉱物や硫化鉱物など酸素を含まない鉱物の定量分析には単体や硫化物のスタンダードを用いる。

定量分析に先立って,スタンダードに電子線を当て,加速電圧毎の一定時間あたりのカウント数を補正計算用のパソコンに取り込んでおく。
次に,試料に電子線に当てて,一定時間経つと定性分析チャートが得られる。そのピークがどの元素かを同定し,分析元素をパソコンの周期表で選択すると,自動計算で結果が出るようになっている。なお,EDSでは炭素より小さい原子番号の元素(ホウ素など)は定量分析できない。

なお,スタンダードと試料の蒸着膜の厚さが大きく異なると定量分析値のトータルが100%より大きく外れた結果となる。