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キースラガー    〔戻る〕


大洋底には玄武岩質の海底火山が分布し,その近傍に黄銅鉱・閃亜鉛鉱・黄鉄鉱からなる海底熱水鉱床が形成されている。それがその後にプレートの沈み込みで変成作用を受けたものが,玄武岩起源の緑色片岩などに伴う引き延ばされた状態で分布していることがある。それがキースラガーで,銅・亜鉛・硫化鉄資源となっている。

キースラガーの典型である愛媛県別子鉱山の銅鉱石(※キースラガーは別子型鉱床と呼ばれることもある)



海洋底玄武岩が変成した緑色片岩に伴うキースラガーの鉱石
黄銅鉱と黄鉄鉱の集合体で,緑色片岩に挟まれたようになっているもの。一見,鉱脈鉱床の鉱石に似ているが,周囲の緑色片岩と一緒に高圧型の変成作用を受け,層状に引き延ばされている鉱石であり,鉱脈ではない。


海洋底玄武岩が変成した緑色片岩に伴うキースラガーの鉱石

強い圧力で緑色片岩(灰緑色)とキースラガー(黄色)が互い違いのサンドイッチ状になっているもの。変成作用で黄鉄鉱は再結晶し,粒度が粗くなっている。




緻密なキースラガーの鉱石

黄銅鉱と黄鉄鉱の金色の緻密集合体。緑色片岩中の幅広い鉱層から採取されたもので,一見,塊状に見えるもの。キースラガーの高品位鉱石の典型的なものである。


変成作用で流動したキースラガーの鉱石

もとは黄銅鉱と黄鉄鉱の緻密集合体であったものが,変成作用の過程で可塑性の違いにより,可塑性に乏しい黄鉄鉱(淡い黄色)と,やや可塑性に富む黄銅鉱(濃い黄色)に分離したもの。
やや可塑性に富む黄銅鉱は,結晶片岩(緑色片岩)の断裂部に固体のまま流入して高品位の細脈になっている場合もある(右上部)。このような細脈を「はねこみ」といい,時に斑銅鉱やダイジェナイトなどを伴う。


キースラガーは環太平洋造山帯・北ヨーロッパのいわゆるカレドニア造山帯などの高圧型の結晶片岩の分布域などに存在し,鉱石には多少なりとも縞状組織(片理)が見られる。変成作用が弱い場合はもとの火山性海底硫化物鉱床の白い硫酸塩鉱物が残存し,また,硫化鉱物のコロフォルム組織もある程度残存している。強く変成作用を受けたものは,変成前に存在していた石膏などの硫酸塩鉱物や硫化鉱物のコロフォルム組織は残存せず,黄鉄鉱は1mm程度に粗くなるとともに結晶片岩との境では磁鉄鉱などに変化していることもある。北ヨーロッパのスカンジナビア地域では変成作用がかなり強く,黄鉄鉱が分解してできた磁硫鉄鉱や輝コバルト鉱などを多く伴う。



ランメルスベルグ鉱床(ドイツ)のキースラガー
バリスカン造山帯のキースラガーで,鉱石に片状組織が見られるものの,変成度が弱く,元の海底熱水鉱床の重晶石(左写真の白い部分)が残り,鏡下ではコロフォルム組織がある程度残存している。左のものは青灰色の方鉛鉱・黒い閃亜鉛鉱・黄色の黄銅鉱+黄鉄鉱が変成作用の圧力できれいな縞状に分離している。
なお,この鉱床の閃亜鉛鉱は空気中で分解しやすく,放置すると容易に硫酸亜鉛の白色粉末(ゴスラー(goslar)と呼ばれ,このランメルスベルグ鉱床のあるゴスラーの地名に因む)を生じ,10数年で鉱石試料自体が崩壊する場合がある。
左のランメルスベルグ鉱床のキースラガーの偏光反射顕微鏡写真
変成度が弱いため全体に細粒で,元の海底熱水鉱床のコロフォルム組織がある程度残存している。ランメルスベルグ鉱床は中世は銀の産出が多く,現在は世界遺産に登録されている鉱山だが,現存する鉱石には特に銀に富むものはなく,この試料も黄鉄鉱・黄銅鉱・閃亜鉛鉱・方鉛鉱を主とし,銀鉱物は鏡下でも認められない。
Py:黄鉄鉱,Gn:方鉛鉱,Sp:閃亜鉛鉱

愛媛県佐々連鉱床のキースラガー
三波川変成帯のキースラガーで,変成度が高く,結晶片岩(緑色片岩)との境は部分的に黄鉄鉱が変化して黒い粒状集合体の磁鉄鉱が層状にできている。硫化鉱物は黄鉄鉱・黄銅鉱が多く,黄鉄鉱はキラキラと粗粒化し,少量の閃亜鉛鉱(高圧条件で再結晶化しFeに乏しい)を伴う。元の海底硫化物鉱床は玄武岩質の海底火山によってできたものなので,その玄武岩起源の緑色片岩が鉱床に密接に伴われる。別子鉱床など四国の三波川変成帯の銅鉱床の多くはこれと同類のキースラガーで,西は宮崎県槙峰鉱床,東は紀伊半島〜中部地方南部の天竜川沿いの三波川変成帯に沿って同類の鉱床が分布している。

左の佐々連鉱床のキースラガーの偏光反射顕微鏡写真
変成度が進み,変成作用で成長した粒子だけからなり,元の海底熱水鉱床におけるフランボイダル組織は完全に消滅している。成長した粒子の一部はさらに変形作用で部分的に破砕されている。
Py:黄鉄鉱,Cp:黄銅鉱,Sp:閃亜鉛鉱


ノルウェー スリテルマ鉱床

北ヨーロッパのカレドニア造山帯のキースラガー。三波川変成帯のキースラガーより広域変成作用の変成温度が高く,黒い角閃石片岩に鉱床が伴われ,その高温の変成作用でこのように黄鉄鉱はおおむね分解して磁硫鉄鉱(Po)となっていることも多い(Cp:黄銅鉱,Hb:普通角閃石)。時に変成鉱物である数mm以下のアルマンディンも伴われる。
なお,このタイプの銅鉱床を採掘したノルウェーのローロス鉱山,スウェーデンのファールン鉱山は世界遺産に登録されている。