かんらん岩には透輝石や頑火輝石が含まれる。これらは安山岩・閃緑岩・玄武岩・はんれい岩中の輝石類に比べ鉄に乏しく,マグネシウムに富む。この透輝石や頑火輝石は互いに肉眼で区別できないことが多い。しかし少量のクロムを含み鮮緑色を呈するものは透輝石である(頑火輝石はほとんどクロムは含まず,鮮緑色になることはない)。
透輝石は単斜晶系に属し単斜輝石といい,頑火輝石は斜方晶系に属し斜方輝石という。
南アフリカのブッシュフェルト地域のような大陸の層状貫入岩体のかんらん岩中の輝石類はマグマから初生的に結晶化したもので,10億年以上前にできたものである。暗緑色・暗緑褐色・黒色で短冊状や不定形粒状で数mm〜1cm程度のものが多い。なお,輝石類だけが集まって層状をなすこともあり,その幅の厚いものは輝岩(pyroxenite)という。
また,日本を含む環太平洋造山帯やアルプス山脈のようなプレート同士の衝突帯(造山帯)のかんらん岩中の輝石類も層状貫入岩体のものと同様な見かけのものがあるが,広域変成作用や花こう岩などのマグマの熱による接触変成作用によってできた輝石類も多く,これは著しく鉄に乏しいことがあり,灰白色〜緑白色・淡褐色で,しばしば数cmに達する(針状・繊維状集合体をなすものもある)。
一方,上部マントルで発生した玄武岩などのマグマに取り込まれ,地表にもたらされたかんらん岩(ゼノリスとしてのかんらん岩)に含まれる輝石類はマグマから初生的に結晶化したもので,数mm以下の小粒なものが多い。透輝石は1mm程度で少量のクロムを含み鮮やかなエメラルド緑色のものが多い。頑火輝石は透輝石より暗色で暗緑色〜暗オリーブ緑色のことが多く,それよりやや大粒で,数mmに達するものは黒く見える。
造山帯のかんらん岩中の透輝石 少量のクロム(0.5%程度のCr2O3)を含み鮮緑色を呈するもので,「クロム透輝石」と呼ばれる。 周囲の灰緑色の部分はかんらん石。 |
造山帯のかんらん岩中の頑火輝石 褐色で,にぶいガラス光沢がある。 周囲の暗緑色の部分は蛇紋石化しかかったかんらん石。 |
造山帯のかんらん岩中の頑火輝石(変成作用でできたもの) 著しく鉄に乏しく,灰白色・緑白色・淡褐色などの淡い色で,強い真珠光沢や絹糸光沢があり,数mmから1cmに達する。滑石に似るが硬度が高く,つめで傷つかない。このようなものは,かんらん岩が一度,蛇紋岩になり,それが広域変成作用や花こう岩などのマグマの熱による接触変成作用でふたたびかんらん岩になったものに見られる。 周囲の暗灰緑色の基質の部分は,蛇紋石と変成作用でできた非常に鉄に乏しいかんらん石の緻密集合体。 なお,変成作用でできた輝石類(透輝石や頑火輝石)には長さ数cmに達する柱状や繊維状集合体をなすものもあり,「異剥石」と呼ばれるものもある。 |
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ゼノリスとしてのかんらん岩中の透輝石(黄矢印)と頑火輝石(青矢印) 透輝石は1mm程度で頑火輝石より小さく,少量のクロムを含み鮮やかなエメラルド緑色。 頑火輝石は暗オリーブ緑色粒状で透輝石よりやや大粒。 なお,最も多い黄緑色透明なものはかんらん石,赤矢印先の亜金属光沢のある黒色粒状のものはクロムスピネル。 |
かんらん岩中の透輝石 diopside
色/くすんだ緑色・暗緑色だが,少量のクロムを含み鮮やかなエメラルド緑色のことが少なくない。なお,変成作用でできたものは著しく鉄に乏しく,灰白色や緑白色。
透明度/ほとんど不透明〜半透明
光沢/鈍いガラス光沢
硬さ/ナイフと同じくらい
岩石中で見られる形態/粒状・不定形。変成作用でできたものには粗大な柱状のものがある。
成分/カルシウム・マグネシウム・鉄などのケイ酸塩:Ca(Mg,Fe)(SiO3)2 変成作用でできたものは非常に鉄に乏しく,CaMg(SiO3)2の端成分に近いものである。
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かんらん岩中の頑火輝石 enstatite
色/透輝石よりやや褐色味が強く,暗緑褐色〜暗褐色のことが多い。なお,変成作用でできたものは著しく鉄に乏しく,灰白色や淡褐色。
透明度/ほとんど不透明〜半透明
光沢/鈍いガラス光沢。変成作用でできたものは強い樹脂光沢や絹糸光沢がある。
硬さ/ナイフと同じくらい。
岩石中で見られる形態/粒状・不定形。変成作用でできたものには針状・繊維状のものがある。
成分/マグネシウム・鉄のケイ酸塩:(Mg,Fe)(SiO3) 変成作用でできたものは非常に鉄に乏しく,MgSiO3の端成分に近いものである。