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割れ方  〔戻 る〕

 鉱物を構成する原子の配列(原子配列(結晶構造))において,原子同士の結合力の弱い部分に 沿って割れる性質へき開といい,それによって割れた面は比較的平滑で,その 面をへき開面と いう。

劈開による割れ方
方解石がへき開に沿って割れる様子
 方解石は割るとへき開に沿っ て菱形の面を持つ6面体状に割れる。


 一方,
へき開以外の 方向に割れた面は非常にでこぼこしており,断口と いう。

 鉱物の同定には,へき開面の平滑さ方向角度,および,断口の状態が役立つことが多い。他には結晶内 部の不完全性に起因する平面的な割れ方もあり,それを裂開という。
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白雲母の劈開
白 雲母の原子配列とへき開の方向 白雲母では桃色で示したカリウム原子の配 列している部分が結合力が弱く,そこに 沿ってうすくはがれるように割れていく。へき開はこのように原子同士の結合力が弱い方向に沿って平面的に割れる性質である。

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トパーズのへき開と断口 

トパーズの柱状結晶の横方向にはへき開があり,それに沿って割れたへき開面は平滑。縦方向には割れにくく,割れた面は凸凹しており,断口となる。
トパーズのへき開と断口


へき開面の平滑さ
 へき開面の平滑さは,きわめて完全(ほぼ完全な平面),完 全 (やや完全な平面),明瞭(明らかに平面性が認められる),不明瞭(かなり凸凹があるがかろうじて 平面性が認められる)の4段階に分けられることが多い。なお,きわめて完全なへき開がある鉱物はへき開以外の方向に割ることは難しい。
 また,同じ鉱物でも結晶方位に よる2種類の異なるへき開 があり,その平滑さが異なる場合もある(例:長 石類では,(001)面には完全なへき開があり,(010)面には明瞭なへき開がある)。
き わめて完全(ほぼ完全な平面) 

方鉛鉱,輝水鉛鉱,方解石,滑石,緑泥石類,雲母類など
極めて完全な劈開

完全(やや完 全な平面)

ダイヤモンド,閃亜鉛鉱,蛍石,トパーズ角 閃石類,ぶどう石,長石類の(001)面など 


完全な劈開

明瞭(明らか に平面性が認められる) 

硫砒鉄鉱,灰重石,普通輝石,長石類の(010)面など
明瞭な劈開

不明瞭(かなり凸凹があるが,かろうじて平面性が認められる) 

黄銅鉱,ルチル,石英など

※かつて,石英や黄銅鉱などはへき開がないとされていたが,鉱物には規則正しい原子配列があり(結晶質),その原子同士の結びつきが相対的に弱い方向は必 ず存在するので,へき開はある。石英(水晶)では柱を斜めに切るように割れる不明瞭なへき開がある。
 
(例外的に原子配列が不規則な非晶質の鉱物(例:オパール,完全にメタミクト化した鉱物など)以外は,全てへき開 がある。)



不明瞭な劈開石英のへき開

へき開の方向
1つの鉱物の結晶におけるへき開の方向は,1方向,2方向, 3方向,4方向,6方向にある場合が挙げられる。
へ き開が1方向にあるもの(板状にうすくはげるように割れる)

石墨,輝水鉛鉱,雲母類,緑泥石,滑石,魚眼石など
1方向の劈開

へ き開が2方向にあるもの(柱状に割れる)

長石類,輝石類,角閃石類など
2方向の劈開

へ き開が3方向にあるもの(4角形の面がある立体状(6面体)に割れる。時に柱状に割れるものもある)

方鉛鉱,岩塩,苦灰石,方解石,硬石膏((001)の1方向と(110)面の2方向),重晶石
((001)の1方向と(110)面 の2方向)など
3方向の劈開

へ き開が4方向にあるもの(3角形の面がある立体状(8面体)に割れる。例は少ない)

ダイヤモンド,蛍石
4方向の劈開


へき開が6方向にあるもの(12面体に割れるが,その形は分かりにくい。しかし,どこから見て もへき開面がまばゆくキラキラ反射して見える。 へき開が6方向にある鉱物は閃亜鉛鉱とそれに類似した原子配列を持つ鉱物以外には知られていない

6方向の劈開
へき開の角度
へき開は,鉱物の原子配列に沿って割れる性質なので,その2つのへき開面の交わる角度(へき開の角度)は 鉱物ごとに決まっている(※雲母類のように1方向しかへき開がない鉱物はへき開の角度はない)。

方鉛鉱の結晶構造   方鉛鉱のへき開

方鉛鉱は6面体方向(ジャングルジム状)に鉛原子と硫黄原子が無限に連なり(左図),その方向に沿って割れやすい。したがって常に
6面体(直方体:サイコロ状)の形に割れ,へき開の角度は常に90°となる(右図)。

方解石の劈開の角度

方解石は方鉛鉱とは原子配列が異なり,へき開の角度は写 真のように常に75°である。
一方,方解石
(CaCO3と同じ原子配列であるマグネサイト(MgCO3(方解石のカルシウム原子(Ca)の代わりにマグネシウム原子(Mg)が入った同形の鉱物)のへき開の 角度は73°である。同じ原子配列(同形)の鉱物同士では多くの場合,へき開の角度は極めて近く,区別しにくい。
他によく知られている鉱物のへき開の角度は,輝石類93°(補角:87°)前後,角閃 石類124°(補角:56°)前後,閃亜鉛鉱120°(補角:60°)である。


断口の状態  
断口は原子同士の結びつきが強い方向を無理やり破断させた面なので,起伏 に富み平面性が認められない。その形状から,貝殻状断口,多片状断口,針 状断口などと呼ばれるが,全く不規則で特徴のないものも多い。
※なお,緻密な多結晶集合体の塊(例:緻密な方解石の石灰岩,緻密な石英の碧玉・めのう)も不規則に割れるが,この破断面は原子配列とは無関係な割れ方な ので断 口とはいわない。
石英の断口
貝殻状断口の例(石英)
多片状断口
多片状断口の例(雲母類)
銅の断口
針状断口の例(銅塊をねじったもの)
これはいわゆる「金属疲労」で割れた面で,金属結晶の破断面に見られる。


裂開
へき開以外で鉱物が平滑に割れることがあり,それを裂開とい う。裂開は結晶の双晶境界・離溶境界のひずみによる脆弱性,結晶成長時に生じた微細な包有物(不純物)の平面的 配列など に起因する。
方 解石の裂開 →

(0 1 -1 2)の集片双晶の双晶面に沿う裂開。

方解石の裂開