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結晶形態  〔戻る〕

 結晶形態は鉱物の原子配列が外形に表れているものであり,その形は同定の手がかりになる。図鑑などでは鉱物ごとの結晶形態の図が載せられているので,それと見比べて,同定の手がかりとする。鉱物の結晶は原子配列の対称性により,等軸晶系,六方晶系,正方晶系,斜方晶系,単斜晶系,三斜晶系に分けられており,一般的に等軸晶系のものは6面体・8面体・12面体・24面体などのころころした形(下図の黄鉄鉱,ダイヤモンド,ざくろ石など),六方晶系のものは6角や3角の板状・柱状(下図のコランダム,石英など)をなすことが多い。

しかし,同じ鉱物でも違う結晶形態を示す場合や,違う鉱物でも同じ結晶形態を示す場合もある。また,結晶成長の過程で特定の面だけが大きく発達し,かなり,ひずんだ形になっていることも多い。

いろいろな鉱物の自形
さ まざまな鉱物の結晶形態


同 じ鉱物でも違う結晶形態を示す場合
同じ種類の鉱物は原子配列は全く同じだが,違う結晶形態をなすことも多い。したがって結晶形態だけでは鉱物の種類はわからない。
黄鉄鉱の6面体と8面体の結晶形態

黄鉄鉱

12面体と24面体のざくろ石

ざくろ石


違う鉱物 でも同じ結晶形態を示す場合
下のダイヤモンド,磁鉄鉱,黄鉄鉱は互いに原子配列は全く異なるが,同じ8面体の結 晶形態をなしている。したがって結晶形態だけ では鉱物の種類はわからな い。
8面体の結晶形態

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なお,結晶形態 が明瞭な結晶は自形といい,やや明瞭な結晶を半自形といい,結晶形態が全く見られない結晶を他形という。自形や半自形の形を構成する面を結晶面という。

石英の結晶体

自形・半自形・他形
例。これは石英(自形の石英は水晶と呼ぶことがある)。


自形の隣り合う結晶面のなす角度は鉱物ごとに決まっており,これを面角一定の法則という。
例えば,下図は石英の自形(水晶)で,
上から見ると,いろいろなひずんだ6角形で,色もそれぞれ違うが,内角 (6 角柱状の隣り合う柱の結晶面のなす角度)はすべて120°であることがわかる。これは自形が常に 原子配列の角度を反映しているためである。

面角一定の法則

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一般に他の鉱物より早期にできた鉱物が自形〜 半自形になりやすいが,その産出条件としては以下の例が主である。

@岩石の隙間でできる場合

Aマグマの中で他の鉱物よりも早くできる場合

B原子配列の粗密


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また,結晶には双晶と呼ばれる違った形のものもある。

→ 双晶


@岩石の隙間でできる自形〜半自形
岩石の隙間に,さまざまな溶質(成分)を溶かしていた熱水やガスが入り込み,その溶質が結晶化してできた鉱物が自形になりやすい。宝石のトパーズ,緑柱石 (アクアマリン),リチア電気石,石英(水晶,黒水晶,紫水晶(アメシスト))などの見事な自形の結晶も
このようにしてできることが多い。
黄銅鉱の自形
黄銅鉱:この写真のものは,安山岩の割れ目に銅などを溶 かした 200〜300℃の熱水が入ってできたもので,4面体の金色の自形をなす。白いのは石英(水晶)。銅鉱脈の中心部の隙間に見られることが多い。 秋田県産。
水晶
石英(水晶):この写真のものは,花こう岩の隙間に 400℃程度のガスが 入ってできたもの。6角柱状の自形の集合体をなす。岡山県産。
菱沸石
沸石類:この写真のものは安山岩のマグマが発泡し,それ が丸い空隙になったもので,そこに100℃程度の熱水が入って生成したもの。これは菱沸石で平行四 辺形の面をもつ6面体の 自形。この産出状態のものは数mm以下の小さなものが多い。広島県 産。


Aマグマの中で他の鉱物より も早くできた自形〜半自形の例
マグマの中で早くできた鉱物が自形になりやすい。
特に火山岩中の石英,長 石類,輝石類,角閃石類,かんらん石の斑晶は自形〜半自形をなしているも のが多く,その表面や割れ口に多角形の断面として見える。
自形の斜長石
安山岩中の長石類の斑晶:地下のマグマ溜まりの中で他の鉱物より早くできた斜長石。安山岩 の割れ口に透明感のある白っぽい長方形などの断面として見られる。長野県産。
玄武岩中の普通輝石
玄武岩中の普通輝石の斑晶:地下のマグマ溜まりの中で他 の鉱物より早くできた普通輝石。玄武岩の割れ口に暗緑〜黒色の菱形や8角形などの断面として見られる。山梨県産。


B原子配列の粗 密による自形〜半自形の例
 まず,同一鉱物でみると,原子配列が粗い面よりも密な面が結晶面になりやすいというブラベの法則が知られている。下図は
白雲母の自形とその結晶面における原子配列の図である。原子配列が密な面(雲母類の場合はへき 開面) が大きく発達することで,雲母類の自形は平たい板状になりやすい(原子配列が粗い面はあまり発達せず,狭い面になっている)。

ブラベの法則

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 そして,異種鉱物同士においても原子配列が密な鉱物ほど結晶面が発達し,自 形〜半自形 になり やすい傾 向がある。
 たとえば,銅の鉱石には黄銅鉱や黄鉄鉱がよく見られる。黄銅鉱は化学組成がCuFeS2で密度が4.3g/cm3で ある。一方,黄鉄鉱は化学 組成が FeS2で,黄銅鉱よりも原子量が小さなイオウ(S)を多く含むが,密度は5.0g/cm3で,逆に 黄銅鉱よりも密度が高い(重たい)。これは黄鉄鉱が黄銅鉱よりもはるかに原子配列が密だからである。したがって黄鉄鉱は黄銅鉱よりも自形になりやす い → 両者が混ざった銅鉱石では常に黄鉄鉱が自形〜半自形で,黄銅鉱はそのすきまを埋めるように他形となっている(下図)。

黄銅鉱と黄鉄鉱の原子配列

 次に, 変成岩を見るとその中の,コランダム,ざくろ石類,十字石,藍晶石,紅柱石,ケイ線石,磁鉄鉱,黄鉄鉱などは,その周囲の鉱物に比べ,大きく成長し,自形 〜半自形になっていることが多い(斑状変晶,下写真)。この 理由もそれらの鉱物の原子配列が密だからである(→ 例えば,コランダム(Al203) は密度が4.0g/cm3で,藍晶石・紅柱石・ケイ線石(いずれもAl2SiO5)はそれぞれ3.6g/cm3・3.2g/cm3・3.3g/cm3である。これらはアルミニウム(Al)・ケイ素(Si)・酸素 (O)など,原子量が小さい原子だけからなるが,密度が3〜4g/cm3とかなり高い)。
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さまざまな変成岩中の斑状変晶(周囲の鉱物より大きく成長し,自形〜半自形をなす)

片麻岩中のコランダム
片麻岩中のコランダム(青色でサファイアと呼ばれるもの。1cmを超える丸みを帯びた半自形の断面
周囲は長石類,黒雲母,石墨など。
角閃石片岩
角せん石片岩中のざくろ石(赤い鉄ばんざくろ石。1cmに達する多角形 (自形)の断面)
周囲は青黒い角せん石類,淡褐色の斜灰れん石など。
藍晶石
角せん石片岩中の藍晶石(青い柱状の半自形)
周囲は黒い角せん石類,白い灰れん石など。
ホルンフェルス中の紅柱石
泥質ホルンフェルス中の紅柱石(1cmに達する灰白色斑点状の半自形)
周囲は石英,長石類,黒雲母など。


双晶について

鉱物 の
結晶内のある平面(格子面)を境に,原子配列の向きが鏡像関係などで規則的に変わっていることがあり,これを双晶という。双晶は自 形〜半自形では外形的に特徴ある形として容易に認められることがあるが, 他形では光学性や研磨面を腐食して調べないとわからないことが多い。

双晶の原子配列
双晶の原子配列の例 
鉱 物の原子配列の特定の格子面を境に,原子配列の向きが鏡像関係などで規則的に変わっている。

日本式双晶の石英

自形の鉱物における双晶(例:石英)
 いずれも岩石の隙間で成長した自形の石英(水晶)。左側のものは普通の6角柱状のもので,右側のものは(1 1 -2  2)の格子面を境に結晶成長時に原子配列の向きが変化してできた双晶(日本式双晶と呼ばれる)。このほかに石英の双晶としてはC軸を共有したブラジル式双 晶やドフィネー式双晶と呼ばれるものがあるが,自形であっても腐食試験を行わないと認め られない場合が多い。
 なお,下写真の石英(水晶)は2つの結晶が不規則にひっついて成長したもので,上写真の日本式双晶に似ているが,それとは全く異なる(原子配列とは無関 係に,不規則な角度で2つの結晶がひっついているだけで,双晶ではない)。

不規則な水晶
他 形の鉱物における双晶(例:斜長石)アルバイト式双晶
 他形にも双晶は多いが,肉眼で認められないことが多い。右の偏光顕微鏡写真は斜長石の双晶で,(010)の格子面を境に原子配列の向きが変化 したもの(アル バイト式双晶)。くり返し原子配列の向きが変化し,偏光顕微鏡下で白黒の直線的な縞模様として認められる。このようなものは反復双晶というこ とがある。
 なお,この斜長石のアル バイト式双晶は他形であっても肉眼で(001)のへき開面における条線で認められることがある。下写真は岡山市の花こう岩中のアル バイト式双晶の斜長石で,光の反射具合でわずかに明るく反射している部分と反射していない部分とが直線的な条線になっている。    


肉眼で見たアルバイト式双晶


他 形の鉱物における双晶(例:アルカリ長石)
 斜長石のアル バイト式双晶とともに肉眼で見られる他形の双晶としては花こう岩中のアルカリ長石のカルルスバッド式双晶がある。
 花こう岩中のアルカリ長石は淡紅色,あるいは斜長石よりも透明度の低い乳白色で,カルルスバッド式双晶をなすものは光をあてると粒子の半分だけが (001)のへき開で反射し,反射して いる部分と反 射していない部分が直線的な境界になっていることで認められる。下写真は岡山市の花こう岩中のカルルスバッド式双晶のアルカリ長石で,矢印を境として下半 分が白っぽく明るく反射している(およそ60°傾けると上半分が明るく反射する)。
 なお,カルルスバッド式双晶は斜長石にもある。

肉眼で見たカルルスバット式双晶