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放射能  〔戻る〕

 鉱物にはウラン(U),トリウム(Th)といった放射性元素を含み,放射線を顕著に出してい るものがある。このようなものを放射性鉱物という。
 ウランやトリウムの含有率が高いものが放射能が強いが,数10万〜約 100万年前より古い時代にできたものはそれらの含有率が数%程度でも,その中にそれらが放射壊変してできたラジウム(Ra),ラドン(Rn),ポロニウム(Po)などの,より強い放射能 がある娘核種ができているため,放射能が強い。
 鉱物の放射能はガイガーカウンターやシンチレーションカウンターで測 定する。最初は鉱物を近づけず,空気中のバックグラウンドを測定(@)し,その後,鉱物を近づけて測定(A)する。A−@の値が鉱物の放射能である。
 数cm以下の大きさの放射性鉱物の放射能は直近で0.数〜数10
μSv/h 程度であることが多い。

代表的な放射性鉱物の例
鉱 物種
含 まれる主な放射性元素

閃 ウラン鉱
ウラン 閃ウラン鉱
サ マルスキー石 ウラン サマルスキー石
ユー クセン石 ウラン ユークセン石
フェ ルグソン石
ウラン
フェルグソン石
燐 灰ウラン石 ウラン 燐灰ウラン石
褐 れん石 トリウム 褐れん石
モ ナズ石 トリウム モナズ石
ジ ルコン
ウラン,トリウム 花こう岩中のジルコン
※写真は花こう岩中のジルコン。ジルコンからの
放射線で周りの黒雲母の色が濃くなっている。

一般的によく知られている岩石では,花こう岩は他の岩石に 比べ微粒のモナズ石,褐れん石,ジルコンなどを多く含み,やや放射能が強い(普通の 岩石は0.03〜0.05μSv/h程度,花こう岩は0.1μSv/h程度。また,花こう岩はカリウムを多く含むので,その放射性同位体(40K) から の影響もあると考えられる)。
花こう岩中の石英が灰色がかっているのは花こう岩自身の放射線(γ線)の影響である。



メタミク ト化:放射性鉱物のうちで,ニオブ・タンタルを主成分とするもの(サマルスキー石,ユークセン石,フェルグソン石など),および,ケイ酸塩鉱物(褐れん石,ジルコンなど)は,それらの中に含まれている質量数238のウラン(238U) の自発核分裂(2つの原子に分かれる。下図),および,トリウム・ウラン・それらの娘核種のα崩壊により,原子配列が数1000万年〜10数億年間という長い地質時代の間に破壊されていく。これらの原因による原子配列の破壊現象をメタミクト化という。メタミクト化が進み,原子配列が完全に失われた鉱物は非晶質で,暗色で,へき開がなく,密度・硬度がやや下がり,光学的に等方体である。

※閃ウラン鉱,モナズ石,燐灰ウラン石などはあまりメタミクト化しない。


※なお,メタミクト化の原因としては,下図のウラン238238U)の自発核分裂よりも,トリウム・ウラン・それらの娘核種のα崩壊による影響が大きい(陽子2・中性子2からなるα粒子(ヘリウムの原子核に相当)の放出と反跳核(娘核種)の動きで原子配列が破壊される)。


ウラン238238U)の自発核分裂の場合による
ジルコンのメタミクト化の例(※原子配列はイメージとして簡略化している)
ジルコンのメタミクト化による色の変化

 ジルコンは主成分であるジルコニウム(Zr)の代わりに同形置換でウラン(U),トリウム(Th) などの放射性元素を少量含む。その中で質量数238のウラン(238U)は自発核分裂を起こし,2個の原子(テクネチウム99(99Tc) など)に分かれる。 その際の原子の運動で近くの原子配列が乱され(格子欠陥が生じる),そこで光の吸収が起こり,褐色や緑色がかってくる。このジルコンはできた当初は淡色だが,数1000万年〜10数億年という長い年月の間に徐々に238Uの自発核分裂による格子欠陥(光の吸収部)が増え,濃色になっていく(この格子欠陥の数とウラン含有率から鉱物のできた年代を知る方法をフィッショントラック法という)。
 このジルコンを,1000℃程度に数時間加熱すると再結晶化して,原子配列が元に近い状態に戻り,色は淡くなる。