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硬度 (平行ニコルで観察)   [戻る]

 顕微鏡的な大きさの鉱物は肉眼同定で用いるモース硬度での測定が行えない。そこで試料を研磨した際の状態で硬度を推定する。以下のような,シュードベッケ線,研磨時の傷,ビッカース硬度による判定が行われる。
 なお,全体的に,不透明な鉱物は,ケイ酸塩鉱物のような透明な造岩鉱物に比べて硬度が低い。そして不透明な鉱物の中では,酸化鉱物などの酸素を多く含む鉱物が比較的硬度が高く,酸素を含まない硫化鉱物・元素鉱物等は比較的硬度が低い。

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シュードベッケ線による判定

 試料を研磨する過程で軟らかい鉱物はすり減りやすく,硬い鉱物はすり減りにくい。このすり減る度合いを研磨硬度という。軟らかくすり減りやすい鉱物は凹み,硬くすり減りにくい鉱物はそれに対して凸になり,両者の間にわずかな段差ができる。
この段差は,光源の出口にある絞りを絞り,対物レンズのピントをわずかにずらすと白っぽく光る線として見え,これをシュードベッケ線という。
 
シュードベッケ線は,検体から対物レンズをわずかに離すと軟らかい鉱物のほうにスライドする。反対に,わずかに近づけると硬い鉱物のほうにスライドする。これにより,既知鉱物と未知鉱物が接しているときに,硬度の比較ができ,未知鉱物の硬度が推定できる。シュードベッケ線は硬度の差が大きい場合は太く見やすく,硬度の差が小さい場合は細く見えにくい。



 なお,下図のように,閃亜鉛鉱と黄銅鉱といった,明るさ(反射率)が大きく異なる鉱物の境では,シュードベッケ線は暗い鉱物の方にある場合はよく見えるものの,明るい鉱物の方にある場合は見えにくいことが多い。



※なお,等軸晶系の鉱物を含め,すべての鉱物は結晶方位により多少なりとも硬度が異なるため,硬度の差が非常に小さい場合は,シュードベッケ線による硬度判定は不確実になる。また,輝水鉛鉱,輝安鉱,輝蒼鉛鉱など,劈開がきわめて完全〜完全な鉱物は,結晶方位により硬度がかなり異なり,シュードベッケ線による硬度判定が不確実になりやすい。

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研磨時の傷による判定

 試料のダイヤモンドペーストでの最終研磨の際,粗い不純物粒子により研磨面にはさまざまな太さの直線的な傷ができる。この傷は軟らかい鉱物では数多く入り太く,硬い鉱物では数少なく細い。傷の太さと数についての既知鉱物との比較で未知鉱物の硬度が推定できることもある。
 ※
傷は,光源の出口にある絞りを絞ると分かりやすい。

試料中の硬度の異なる鉱物の研磨面の傷
軟らかい鉱物には太い傷が入り,その数も多い,硬い鉱物の傷は細く,その数も少ない。


輝銅鉱(Cu2S)に近い化学組成の鉱物(Cc:青灰)は硬度が低く,研磨時の傷が多く入り,表面が荒れた感じに見える。斑銅鉱(褐色 Bn)はそれよりも硬く,傷は少ない。黄鉄鉱(淡黄色 Py)はそれらに比べ,非常に硬く,傷は非常に少ない。
(黒鉱鉱床中/秋田県古遠部鉱山)


軟らかい自然蒼鉛(クリーム色)(Bi)には太い傷が入り,その数も多い。それよりわずかに硬い生野鉱(明灰色)(Ik)の傷はやや細く,その数もやや少ない。さらに硬い輝蒼鉛鉱(やや明灰〜灰色)(Bis)の傷は細く,その数も少ない。
Qz:石英

(熱水鉱脈鉱床中/兵庫県生野鉱山)


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ビッカース硬度


 これはダイヤモンドで作った小さな四角錐を,研磨面に一定荷重で押しあてて,その際にできた凹みの大きさを測って決める硬度である(鉱物の場合は,通常,kgf/mm2の単位における数値で示されている)。ビッカース硬度は偏光反射顕微鏡での観察対象鉱物についてほとんど測定されている(※荷重は25g,50g,100gなどで測定し,例えば50gの荷重で測定したビッカース硬度はVHN50と表記することもあるが,荷重により測定値が大きく異なるわけではないので,単にVHNと表記されることが多い)。
 代表的な鉱物のビッカース硬度の測定値を下記に示す。数値が大きいほど硬度が高い。また,硬度は同じ鉱物でも結晶方位・固溶体組成により若干異なり,同じ鉱物でも数値には幅がある。
 ビッカース硬度の測定には高価な機器が必要になるが,既知鉱物とのシュードベッケ線・傷の状態の違いなどを観察して,未知鉱物のビッカース硬度を推定できることも多い。

参考)ビッカース硬度とモース硬度の換算表
(文献により若干の違いがある)

ビッカース硬度
(kgf/mm2
における数値)
47 60 136 200 659 714 1206 1648 2121
モース硬度(相対硬度)



各種の鉱石鉱物のビッカース硬度(kgf/mm2における数値)

金属・半金属の単体の鉱物,硫化鉱物・セレン化鉱物・テルル化鉱物・ヒ化鉱物よりも,酸化鉱物などのほうが全体的に硬度が高い。

・等軸晶系の鉱物を含め,すべての鉱物は結晶方位により多少なりとも硬度が異なる。また固溶体組成でも,若干硬度は異なる。したがって,ビッカース硬度の値にはある程度,幅がある。
・輝安鉱や輝蒼鉛鉱など,劈開がきわめて完全〜完全な鉱物は,結晶方位により硬度がかなり異なり,ビッカース硬度の値の幅が大きい。


--------酸素を含まない鉱物-------
単体金属・亜金属
自然銅(Cu) 48−143
自然銀(Ag) 46−118
自然金(Au) 41−94
自然白金(Pt) 125−127
自然ビスマス(自然蒼鉛)(Bi) 10−19
自然テルル(Te) 25−87

硫化鉱物

輝銀鉱(針銀鉱)(Ag2S) 22−26
アグイラ鉱(Ag4SeS) 25−35
輝銅鉱(Cu2S) 58−98
生野鉱(Bi4(S,Se)3) 36−50
辰砂(HgS) 51−98
方鉛鉱(PbS) 56−116
斑銅鉱(Cu5FeS4) 68−105
コベリン(銅藍)(CuS) 59−129
輝安鉱(Sb2S3) 42−129
輝蒼鉛鉱(Bi2S3) 67−216
ベルチェ鉱(FeSb2S4) 102−213
黄銅鉱(CuFeS2) 174−219
ペントランド鉱((Ni,Fe)9S8) 202−231
閃亜鉛鉱((Zn,Fe)S) 128−276
硫ヒ銅鉱(Cu3AsS4) 133−383
磁硫鉄鉱(Fe0.875-1S) 230−390
硫ヒ鉄鉱(FeAsS) 715−1154
輝コバルト鉱(CoAsS) 948−1167
黄鉄鉱(FeS2) 913−1190
硫化鉱物(硫塩鉱物)
濃紅銀鉱−淡紅銀鉱(Ag3(Sb,As)S3) 50−156
輝安銀鉱((Ag,Cu)16(Sb,As)2S11) 142−164
安四面銅鉱−ヒ四面銅鉱(Cu10(Fe,Zn)2(Sb,As)4S13) 251−425

セレン化鉱物・テルル化鉱物
ナウマン鉱(Ag2Se) 31−37
シルバニア鉱(AuAgTe4) 102−221
テルル蒼鉛鉱(Bi2Te3) 32−93
ヒ化鉱物
ヒ白金鉱(スペリー鉱)(PtAs2) 960−1277
紅ヒニッケル鉱(NiAs) 308−533
ヒ鉄鉱(FeAs2) 368−1048


--------酸素を主成分とする鉱物-------
酸化鉱物
ハウスマン鉱(Mn3O4) 466−724
ヤコブス鉱(MnFe2O4) 690−875
磁鉄鉱(Fe3O4) 440−1100
クロム鉄鉱−クロム苦土鉱((Fe,Mg)Cr2O4) 1036−1300
チタン鉄鉱(FeTiO3) 501−752
赤鉄鉱(Fe2O3) 739−1114
錫石(SnO2) 811−1120
ルチル(TiO2) 933−1280
タングステン酸塩鉱物
鉄マンガン重石((Fe,Mn)WO4) 258−657