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異方性 (クロスニコルで観察)   [戻る]

等軸晶系以外の鉱物は光学的に異方体である。異方体の鉱物の研磨面に偏光を反射させ,その反射光をもう1枚の偏光版を通して観察すると,ステージを回転させるごとに多少にかかわらず色・明るさが変化する(1回転につき2回ずつ変化する)。これを異方性という。


チタン鉄鉱の異方性(ステージを1回転させると2回ずつ同じ色が現れる)

異方性の度合いは,「非常に強い」「強い」「明瞭」「普通」「弱い」「非常に弱い」があり,「普通」以下の異方性は注意しないとわからない。「弱い」は注意していてもわかりにくく「なし」とされることもあり,さらに「非常に弱い」はほとんどわからないので「なし」とされることが多い。
異方性は,単独の粒子よりも,結晶方位の異なる複数の粒子が集合している方が,その粒子を境とするコントラストによってわかりやすくなる。また,光源の光を強めにするとわかりやすくなる。また,鏡筒のニコル(アナライザー)と光源の前のニコル(ポーラライザー)の光学的方位が完全に直交している場合,鉱物粒子は全く暗黒に見え,ステージを回転させても異方性がわかりにくい。そこで,異方性がよく分かるように光源の前のニコル(ポーラライザー)を少し回転させて(直交状態からずらして)少し視野が明るくなるようにする。大抵は15〜20°程度ずらすと最も異方性がよく分かるようになる(下図)。




留意点)
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※非常に強い異方性がある鉱物の中には,コベリンやバレリー鉱などのように,ステージを1回転させるごとに,4回ずつ色調が変化する場合があるものがある。ただし,90°回転ごとの色(45°回転を2回繰り返した色)は厳密には同じではなく,180°回転ごとの色(45°回転を4回繰り返した色)が厳密に同じ色である。



例)コベリン(視野全体)/クロスニコル
コベリンのように異方性が非常に強い鉱物には,このようにステージを1回転させるごとに,4回ずつ色調が変化する場合があるものがある。
(黒鉱鉱床中/秋田県小坂鉱山)
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※異方性の程度は同定の有力な手掛かりとなるが,その色は黄色(褐色)系〜青色系に変化する場合が多く,コベリンやリッカード鉱など,一部のものを除き,その色はあまり同定の手がかりにはならない。
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※反射多色性が「非常に強い」〜「明瞭」な鉱物は,異方性もはっきりしており,「非常に強い」〜「強い」が,その逆は必ずしもそうではない。
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※異方性が「非常に強い」〜「強い」鉱物ではステージを回転させなくても,粒子ごとに色や明るさがはっきり違って見える。


例)モースン鉱(Maw)/クロスニコル
異方性が非常に強く,写真のようなモザイク状集合体ではステージを回転させなくても橙色・青色・灰色などの色の違いで異方性ははっきりしている。
Maw:モースン鉱,Cp:黄銅鉱,Qz:石英

熱水鉱脈中/兵庫県多田鉱山)

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※透明〜半透明の鉱物のうちでは,錫石のような複屈折量が大きい鉱物(高い干渉色を示す)は異方性が強い。脈石鉱物である炭酸塩鉱物(方解石や苦灰石など)も複屈折量が大きいので,異方性が強い(灰〜明灰色を示す)。

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※黄鉄鉱・輝コバルト鉱などは等軸晶系とされるものの,結晶の対称度が下がっている場合があり,「普通」〜「弱い」の異方性があることが少なくない。


例)黄鉄鉱(Py)の異方性

黄鉄鉱は等軸晶系とされ反射多色性はないものの,しばしば普通程度の異方性を示し,それは異なる粒子とのコントラストで認められることが少なくない。
Py:黄鉄鉱,Cp:黄銅鉱

(キースラガー中/愛媛県大久喜鉱山)

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※異方体の鉱物でも光軸に沿った結晶方位では異方性はあまり認められない。

例)自然テルル(Te)

自然テルル(Te)はクロスニコル下では異方性が強い。その異方性は長く伸びた柱状の縦断面では特に分かりやすいが,横断面(上写真で粒状に見えるもの)は光軸方向なので,異方性はあまり認められない。
Ba:重晶石,Qz:石英

浅熱水成金銀鉱脈中/北海道手稲鉱山


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※内部反射が著しい鉱物は異方性がわかりにくいことがある(下図)。

例)透明度の高いルチル(Rt)の異方性。赤褐色の内部反射が著しく,異方性がわかりにくいことがある。
Cpx:透輝石〜灰鉄輝石固溶体
(エクロジャイト中/愛媛県東赤石山)

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異方性の程度

非常に強い:輝安鉱,輝蒼鉛鉱,コベリン,輝水鉛鉱,リッカード鉱など。
異方性が「強い」〜「非常に強い」鉱物はステージを回転させなくても,粒子ごとに色や明るさがはっきり違って見える。

輝安鉱(Sb)の異方性
Qz:石英

熱水鉱脈鉱床中/兵庫県中瀬鉱山産


輝蒼鉛鉱(視野のほぼ全体)の異方性
熱水鉱脈鉱床中/兵庫県生野鉱山産



モースン鉱(Maw)の異方性 
結晶方位の異なる粒子のモザイク状の集合体で,ステージを回さなくても橙・青などの粒子ごとの色の違いが著しく,異方性はよく分かる。ステージを回すと色の変化が著しい。
Cp:黄銅鉱,Qz:石英
熱水鉱脈鉱床中/兵庫県多田鉱山産


リッカード鉱(Rc)の異方性 
青灰色〜火炎のような朱紅色に変化する。コベリンよりも色が鮮やか。
Rc:リッカード鉱,Te:自然テルル,Qz:石英
浅熱水金銀鉱脈中/北海道手稲鉱山産


強い:硫ヒ鉄鉱,キューバ鉱,硫ヒ銅鉱,磁硫鉄鉱,褐錫鉱,シルバニア鉱,赤鉄鉱,チタン鉄鉱,ルチルなど。
異方性が「強い」〜「非常に強い」鉱物はステージを回転させなくても,粒子ごとに色や明るさがはっきり違って見える。

硫ヒ鉄鉱(Asp)の異方性
結晶方位が異なる粒子とのコントラストで異方性がはっきりわかる。
Sp:閃亜鉛鉱,Gn:方鉛鉱,Cas:錫石
熱水鉱脈鉱床中/兵庫県生野鉱山産

磁硫鉄鉱(視野のほぼ全体)の異方性
結晶方位が異なる粒子とのコントラストで異方性がはっきりわかる。
熱水鉱脈鉱床中/鹿児島県錫山鉱山産

褐錫鉱(Std)の異方性
異なる粒子とのコントラストで異方性がはっきりわかる。
Kes:亜鉛黄錫鉱,Cp:黄銅鉱,Qz:石英
熱水鉱脈鉱床中/兵庫県生野鉱山産



赤鉄鉱(Hm)の異方性
異なる粒子とのコントラストで異方性がはっきりわかる。
Cp:黄銅鉱
キースラガー中/愛媛県佐々連鉱山産


明瞭:黄錫鉱,生野鉱,テルル蒼鉛鉱,ルソン銅鉱,ピアース鉱,濃紅銀鉱,エンプレクト鉱,カラベラス鉱,鉄マンガン重石,錫石など。


ルソン銅鉱(lz)の異方性 
異なる粒子(双晶)とのコントラストで異方性がわかる。
Py:黄鉄鉱

熱水鉱脈鉱床中/北海道手稲鉱山産

ピアース鉱(Pc)の異方性 
細かいモザイク状集合体をなし,異なる粒子とのコントラストで異方性がわかる。
Sp:閃亜鉛鉱,Gn:方鉛鉱
黒鉱鉱床中/秋田県花岡鉱山稲荷沢鉱床産


普通:自然蒼鉛,輝安銀鉱,辰砂,ナウマン鉱など。


ナウマン鉱(Nm)の異方性 

普通程度の異方性は,注意しないと分からない。
Nm:ナウマン鉱,Qz:石英

浅熱水金銀鉱脈中/北海道歌登鉱山産



弱い
:黄銅鉱,アグイラ鉱など。

非常に弱い:斑銅鉱,針銀鉱など。