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分析装置の付いた電子顕微鏡(EDS・WDS)    [戻る]
 ※オペレーターの立ち会いのもとで操作すること。

 鉱物の化学成分(化学組成)を調べる。1000分の数mm(数μm)程度の大きさの鉱物の化学成分が調べられる。
 分析には,含まれる元素の種類だけを知る定性分析と,含まれる各元素の割合を知る定量分析がある。
 V・Mo・W・In・Gaなどの特殊な元素を主成分として含む鉱物は定性分析だけで同定できることが多い。
 特殊な元素を含んでいない沸石類や通常の造岩鉱物(輝石類や角閃石類など)は定量分析を行わないと同定できないことが多い。
 この方法は化学成分の決定が中心となるので,化学成分が同じで原子配列が異なる鉱物(多形)の区別には使えない。また,ホウ素よりも原子番号が小さい元素(リチウム,ベリリウムなど)の検出は困難で,ナトリウムよりも原子番号が小さい元素(ホウ素,炭素,フッ素など)を精度よく定量分析するのは難しい。
 しかし,数μm程度の非常に微小な鉱物でも分析でき,また,結晶内の元素の分布状況などもくわしく調べられ,鉱物の同定方法では最も信頼度が高い。 ※WDS,EDSは結晶材料などの工学分野などで汎用され,固体物質の分析では一般的なものである。

 この基本的な原理は15kV〜25kVの電圧(加速電圧)をフィラメントにかけ,電子線(電子ビーム)を発生させ,そのビーム径を磁界レンズで直径数μm以下に収束させ,試料の目的部分に照射すると,試料に含まれる原子(元素)の種類ごとに特有の波長(またはエネルギー)を持ったX線(特性X線)が発生する。その特性X線を検出して試料に含まれる元素の種類を知ることができ,また,その強度でその元素の含有率を知るものである。
 この特性X線の検出方法により,機種にはEDSとWDSとがある。


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電子線が試料(鉱物)にあたって,特性X線などが発生する様子
EDSとWDSのいずれも,加速電圧は,通常の造岩鉱物(ナトリウム(Na),カリウム(K),マグネシウム(Mg),カルシウム(Ca),アルミニウム(Al),チタン(Ti),マンガン(Mn),鉄(Fe),ケイ素(Si),酸素(O)からなるケイ酸塩鉱物)は15kV程度,金属鉱石を構成する元素鉱物や硫化鉱物(金(Au),銀(Ag),銅(Cu),鉛(Pb),亜鉛(Zn),錫(Sn),ヒ素(As),アンチモン(Sb),ビスマス(Bi),硫黄(S),セレン(Se),テルル(Te)などからなる鉱石鉱物)は20〜25kV程度で分析する。


EDS・WDSで分析するための鉱物試料の例

試料は汚れがないように十分洗浄して乾燥し,分析部分の電子線による電子の滞留(チャージ)を防ぐために,厚さ10〜20nm程度に炭素を蒸着する。


※電子顕微鏡の内部は真空に保たれているので,試料に汚れが付着していると,汚れが電子顕微鏡の中で揮発し,電子顕微鏡の内部を汚染してしまう。また,試料を加工する際に用いる樹脂は非揮発性のものを用いる必要がある。その非揮発性の樹脂であっても,それに電子線を当ててしまうと,樹脂の成分が揮発し,同じく電子顕微鏡の内部を汚染してしまうので注意が必要である。
非揮発性の樹脂素材に埋め込んだ試料:研磨片(0.25μmのダイヤモンドペーストで研磨) 非揮発性の接着剤でスライドグラスに貼付けて作成した試料:研磨薄片(0.25μmのダイヤモンドペーストで研磨) 不定形試料(岩石や鉱石から小さなかけらを採ったままのもので,表面が凸凹しているため,定量分析では誤差が大きい)

特性X線について
 原子の構造は原子核の周りを電子殻がとりまいている。 電子銃から発せられる電子線(電子)は,鉱物を構成している原子の電子殻の電子をはじき飛ばし,原子を励起状態にする。そして,電子がはじき飛ばされて電子が欠損した電子殻へ,その外の電子殻から電子が移動して補充される際,決まった波長のX線が発生する。これが特性X線で,原子の種類によって決まっている。
 特性X線は同じ種類の原子でも,原子核の周りの電子殻の電子の補充状態により,さらに以下のような種類がある。

K殻へL殻から電子が補充される場合はKα線
K殻へM殻から電子が補充される場合はKβ線
L殻へM殻から電子が補充される場合はLα線
L殻へN殻から電子が補充される場合はLβ線
L殻へO殻から電子が補充される場合はLγ線
M殻へN殻から電子が補充される場合はMα線
M殻へO殻から電子が補充される場合はMβ線
M殻へP殻から電子が補充される場合はMγ線

 原子番号の小さな原子(K殻とL殻だけからできているおよそ原子番号10までの原子)から出てくる特性X線の種類はKα線だけだが,原子番号が大きくなるにつれ,原子にM殻,N殻,O殻,P殻などが加わるようになるため,特性X線の種類は,Kβ,Lα,Lβ,Lγ,Mα,Mβ,Mγなど数多くなる。
 特性X線の波長は,原子番号の小さな原子から出てくる特性X線の波長は長く(エネルギーが小さい),原子番号の大きな原子から出てくる特性X線の波長は短い(エネルギーが大きい)。