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先カンブリア時代の約10億年前に,海中のシアノバクテリアなどからいくつかのグループの藻類が誕生し,そのうちの緑藻類が古生代の5億〜4億年前に陸上へ進出して最初の植物が誕生した。初期の植物は維管束が十分発達していなかったが,ほどなく維管束が発達し, 陸上生活に適した自立状態の植物になった。古生代の4億〜3億年前の植物は胞子で増えるコケ植物やシダ植物が主であり,特に約3億年前に大繁栄したシダ植物は大陸地域の大規模な化石層(石炭層)になり,その地質時代は石炭紀と呼ばれている。
一方,古生代の3億7000万年前には種子で増える種子植物である裸子植物が出現し,その最初のものがモレスネティアである。中生代の約2億年前には,種子植物(裸子植物)は種類数・個体数が増えてシダ植物と相半ばする勢力になった。さらに約1億年前には種子植物の中から被子植物が出現し,その後の新生代は被子植物が主要な植物群となった。反対に古生代に栄えた胞子で増えるコケ植物やシダ植物の種類数・個体数は減ってきている。



緑藻類の化石(約4億年前) Parka incipiens
古生代デボン紀の緑藻類。この仲間が陸上に進出し植物となった。
イギリス,Black Isle,Rosstcromarty産



古生代の植物(約5億年前〜2億5200万年前)
古生代はシダ植物(胞子で増える)が繁栄した。この時代のシダ植物には高さが20m以上になる巨大なもの(リンボクやフウインボクなど)があったが,その幹の断面に年輪はなく,その幹の表面には葉がついていた痕(葉柄痕)が見られるものもあり,年輪がある種子植物の木とは異なる。トクサ類は茎の太さが数p以上に達するものもあったが,現在は小型化したものが多い。現在,人類がアメリカ・オーストラリアなどの大陸地域で採掘している石炭は,このようなシダ植物が化石化したものが多い。

トクサ類の化石  Annularia stellate シダ植物 
古生代石炭紀のトクサで,現在のスギナ(つくし)と同じく,一定間隔に,茎に巻き付くような輪状の葉がつき,これは現在の「つくしのはかま」と同等のものである。この化石はスギナの始祖が約3億年前にさかのぼることを示す。
古生代 石炭紀(3億5900万年前〜2億9900万年前) オーストリア産


トクサ類の化石 Annularia radiate シダ植物
絶滅したトクサの仲間。現在のスギナ(つくし)の形態は古生代にすでに誕生し,これは現生のものと似ている。
古生代 石炭紀(3億5900万年前〜2億9900万年前) スペイン産


トクサ類の茎化石 Asterophyllites equisetiforhis シダ植物
古生代のトクサはこのように茎の直径が数p以上に達するものがある。現生のものはおおむね小型化している。なお,時代を問わずトクサ類の茎は中空で表面に縦筋がある。
古生代 石炭紀(3億5900万年前〜2億9900万年前) ドイツ産



リンボク類の幹化石 Lepidodendlon sp. シダ植物
アメリカ アイオワ州

古生代 石炭紀(3億5900万年前〜2億9900万年前)

リンボク類の幹化石 Lepidodendlon sp. シダ植物
中国江西省雲都県
古生代 石炭紀(3億5900万年前〜2億9900万年前)

フウインボク類の幹化石 Sigillaria scutellate シダ植物
アメリカ アイオワ州
古生代 石炭紀(3億5900万年前〜2億9900万年前)
古生代は,種子で増える種子植物よりも,胞子で増えるシダ植物がはるかに優勢だった。そのシダ植物には,幹の直径が1m・高さが20m以上になる樹木のような木生シダというものがあり,その代表的なものはリンボク(鱗木)やフウインボク(封印木)で,いずれもアメリカや中国などで広く化石が産出し,当時の世界的な分布が示唆される。これらは幹の表面の葉の落ちた痕(葉柄痕)がうろこ状で,特にリンボクの名はその模様が由来となっている。
現生の熱帯域の木生シダであるヘゴ(下画像)はリンボクやフウインボクよりも小型化しているが,やや太い幹を持ち,リンボクやフウインボクと同様,幹にうろこ状の葉柄痕が見られる。

現生のヘゴの一種:マルハチ(Cyathea mertensiana)
古生代のリンボクやフウインボク同様,幹表面の葉の落ちた痕が規則正しいうろこ模様になっている。
撮影者:鐵 慎太朗
撮影年月日:2015年1月12日
撮影場所:東京都小笠原村 母島





シダ植物の幹化石 Tietea siugularis
シダ植物は木のように太い木生シダでも年輪がなく,年輪がある現在の種子植物の木とは異なる。
古生代 ペルム紀(2億9900万年〜2億5200万年前) ブラジル産


種子植物の誕生
3億7000万年前(古生代デボン紀)は,一部のシダ植物が,種子で増えるシダ種子植物というものになったが,そのシダ種子植物は中生代に絶滅した。なお,最初の種子植物はモレスネティアという裸子植物だが,古生代はシダ植物が優勢だった。
中生代になると種子植物(裸子植物)が発展してくる。例えば,約2億年前(中生代三畳紀)の岡山県高梁市成羽町〜川上町の植物化石層からは,トクサなどのシダ植物とともに裸子植物のソテツやイチョウなどの仲間が多く産する。
種子植物のうち,被子植物が出現したのは,約1億年前(中生代白亜紀)で,その後の新生代は被子植物が繁栄するようになり,それは花を咲かせるものも多く,今に至っている。


モレスネティア Moresnetia zalesskyi 
種子植物(裸子植物)
約3億7000万年前に誕生した最初の種子植物で,そのうちの裸子植物に属する。古生代デボン紀にシダ植物から進化した。上画像は種子がついていた枝の先端。
なお,種子植物のうち,被子植物が出現したのは,約1億年前(中生代白亜紀)。
古生代デボン紀(4億1900万年〜3億5900万年前)ベルギー産



ペコプテリス Pecopteris sp.  シダ種子植物
シダ種子植物は約3億年前にシダ植物から進化した植物のグループで,中生代に絶滅した。シダ植物に似るが,葉の裏に種子があった。
古生代 ペルム紀(2億9900万年〜2億5200万年前) オーストリア産


インド産

オーストラリア産
グロッソプテリスの葉の化石 Grossopteris browniana 種子植物(裸子植物)
6億〜2億年前に存在したゴンドワナ大陸という古い大陸に,約2億8000万年前に生育していた裸子植物で,葉が画像のように鳥の羽のように見える。
ゴンドワナ大陸は約2億年前以降に南アメリカ・アフリカ・インド・南極・オーストラリアに分裂していった。したがってグロッソプテリスの化石が見つかるそれらの大陸はもとは1つのゴンドワナ大陸だった。このような大陸移動を示す生物には,爬虫類に近い仲間のメソサウルスや,単弓類のリストロサウルスなどがある。
古生代 ペルム紀(2億9900万年〜2億5200万年前)


中生代の植物(2億5200万年前〜6600万年前)
約2億年前は古生代に栄えたシダ植物がやや衰退し,代わりに種子植物が繁栄してきた時代で,中生代の植物化石はシダ植物と種子植物が相半ばする割合で産出する。岡山県高梁市の約2億年前の植物化石群は典型的なもので,そこからはソテツやイチョウなどの種子植物化石がトクサやヤブレガサウラボシなどのシダ植物化石と一緒に多産する。その種子植物はいずれも裸子植物である。なお,種子植物のうちの被子植物が出現したのは中生代の終わりごろの白亜紀の約1億年前である。




イチョウ類の葉化石 Baiera sp.  種子植物(裸子植物)

イチョウの仲間は古生代末(2億8000万年前)にソテツの仲間とともに出現し,中生代(2億5200万〜6600万年前)に栄え,当時は多くの種類があり,その多くはこのように現生種よりも葉の幅が細かった。
世界的に2億年前の地層から多く見つかる。
中生代 三畳紀(2億5200万年〜2億100万年前) 岡山県高梁市産







ソテツ類の葉化石 Nilssonia sp.  種子植物(裸子植物)
ニルソニアというソテツの仲間で,2億5200万年前に出現し,6600万年前に絶滅した。
ソテツ類は中生代にイチョウとともに栄えたが,新生代以降,両者とも種類・個体数は少なくなっている。
中生代 三畳紀(2億5200万年〜2億100万年前) 岡山県高梁市産



ソテツ類の葉化石 Taeniopteris sp.  種子植物(裸子植物)

タエニオプテリスというソテツの仲間。1枚の葉の構造は,鳥の羽のように,細い軸の両側からたくさんの細い筋が出ている。
中生代 三畳紀(2億5200万年〜2億100万年前) 岡山県高梁市産



ストルガーディア類の葉化石 Storgaardia sp. 種子植物(裸子植物)

マツのような球果をつける針葉樹の一種で,ポドザミテスに近い仲間。マツほどではないが葉が細めで先が鋭く尖る。
中生代 三畳紀(2億5200万年〜2億100万年前) 岡山県高梁市産




ポドザミテス類の葉化石 Podozamites sp. 種子植物(裸子植物)
マツのように球果をつける高さ数mの針葉樹の一種だが,葉の形はストルガーディアやマツほど尖っておらず,やや幅広である。
約1億5000万年前絶滅した。約2億年前の地層から広く産し,国内でも中国地方や北陸地方などで多産する。
中生代 三畳紀(2億5200万年〜2億100万年前) 岡山県高梁市産




ベネチテス類の葉化石 Pterophyllum sp.  種子植物(裸子植物)
ソテツに近い仲間で,約3億年前に出現し,1億5000万年前に絶滅した。軸に対し,対称に伸びた葉に,深い筋がある。
中生代 三畳紀(2億5200万年〜2億100万年前) 岡山県高梁市産





クラドフレビス Cladophlebis sp.  シダ植物
現生のウラジロなどに類似した形態のもの。高梁市からはトクサ類とともに多産する。
中生代 三畳紀(2億5200万年〜2億100万年前) 岡山県高梁市産



ヤブレガサウラボシ類の葉化石 Hausmannia sp. シダ植物
破れ傘に見える切れ込みのある葉の裏に星のように見える1mm程度の球状の胞子嚢があり,それが和名の由来。これは破れ傘状の大きな葉のごく一部で胞子嚢は見えないが,細かい網目状の模様が見える。高梁市からは成羽周辺でかつて多産したが,今ではほとんど見られなくなった。
中生代 三畳紀(2億5200万年〜2億100万年前) 岡山県高梁市産



トクサ類の茎化石  Neocalamites sp.  シダ植物

現生のトクサよりも茎が太く,径2〜数cmに達し,縦筋がある。高梁市からは非常に多く産し,部分的に石炭層になっている。
中生代 三畳紀(2億5200万年〜2億100万年前) 岡山県高梁市産




新生代の植物(6600万年前以降)
新生代は種子植物の内で裸子植物よりも被子植物が発展してくる。被子植物には花を咲かせるものが多い。街路樹としてよく知られるプラタナス・ヤナギ・ポプラ・フウ・クスノキなども新生代に出現した被子植物で,化石種と現生種にはあまり葉の形態的な違いはない。
被子植物は食物としての利用など,今日では人間生活と密接に関係している。


プラタナス類の葉化石 Platanus sp. 種子植物(被子植物)
葉の面積が広いことは現生種と同じで,形態も同じ。プラタナスの語源は葉の面積が広いことに由来する。
この産地 Unterwohlbach, Bavaria, ドイツは1400万年前の植物化石が多産し,被子植物が多く,シダ植物や裸子植物の化石は少ない。このことは,当時,すでに今のような被子植物が優勢な植生が地球上に形成されていたことを示している。
新生代 新第三紀(約1400万年前) Unterwohlbach, Bavaria, ドイツ





ヤナギ類の葉化石 Salicaceae 種子植物(被子植物)
新生代 新第三紀(約1400万年前) Unterwohlbach, Bavaria, ドイツ




ポプラ類の葉  Populus balsamoides  種子植物(被子植物)
化石種と現生種にはあまり葉の形態的な違いはない。
新生代新第三紀(約1400万年前) Unterwohlbach, Bavaria, ドイツ





フウの仲間の葉(左)と果実(右)  Liquidambar sp.  種子植物(被子植物)
新生代 新第三紀(約1400万年前) Unterwohlbach, Bavaria, ドイツ



カエデ類の種子  Acer sp.  種子植物(被子植物)
新生代 新第三紀(約1400万年前) Unterwohlbach, Bavaria, ドイツ



マメの果実中の種子 Leguminocorpus schote 種子植物(被子植物)
マメの種子がさやに入ったまま化石となったもので,矢印の先に数o大の種子が点々と見える。

新生代 新第三紀(約1400万年前) 
Unterwohlbach, Bavaria, ドイツ




クスノキ類の葉 Lauraceae 種子植物(被子植物)

新生代 新第三紀(約1400万年前) Unterwohlbach, Bavaria, ドイツ



ケヤキ類の葉 Zelkova sp. 種子植物(被子植物)
新生代 新第三紀(約1400万年前) 
Unterwohlbach, Bavaria, ドイツ


ブナ類の葉 Fagus sp. 種子植物(被子植物)
新生代 新第三紀(約1400万年前) 
Unterwohlbach, Bavaria, ドイツ


太古の生き残りの植物   イチョウとメタセコイア
裸子植物の中には大部分が絶滅したものの,1種だけが生き残ったグループがある。その例がイチョウとメタセコイアである。これらは中国の奥地で細々と古い地質時代から生き残っていたものが人により世界各地に移植され,現在,ごく普通の植栽木として見られるようになったものである。

イチョウ類の葉化石
中生代 三畳紀(2億5200万年〜2億100万年前) 岡山県高梁市


イチョウ類の葉化石
新生代 新第三紀(約1400万年前) Unterwohlbach, Bavaria, ドイツ
イチョウ類の葉化石 Ginkgo sp. 種子植物(裸子植物)
イチョウの仲間は約2億年前の中生代三畳紀から新生代新第三紀にかけて,多く産出し,葉の形は2億年前のイチョウは葉の幅が細く切れ込みが深いが,1400万年前のものは幅広になり切れ込みが浅く現生のものにやや似てくる。

メタセコイアの球果
アメリカ,サウスダコタ州産
約4000万年前

現生のものと形態に違いはあまりない。


メタセコイアの葉(左上は地層で押しつぶされた球果の化石)
岡山県倉敷市真備町
数100万年前
現生のものと形態に違いはあまりない。
メタセコイア Metasequoia occidentalis 種子植物(裸子植物)
メタセコイアは長らく化石としてだけ知られていたが,20世紀中頃に中国で生育地が発見され,それが今では世界的に街路樹などとして移植されている。この球果や葉の化石は現生種のものと形態的な違いはほとんどない。
メタセコイアはイチョウとは別グループだが,現生種が1種だけで,中国でのみ生育していたという点でイチョウと同様である。数100万年前のメタセコイアの葉化石は日本各地でも見つかっている。