岩石中に少量含まれている造岩鉱物(副成分鉱物)  [戻る]

岩石中に微細な粒で少量しか含まれていない造岩鉱物を副成分鉱物という。副成分鉱物は小さいため,顕微鏡を使わないと見られないことが多い。
しかし,中には,岩石の放射年代(絶対年代),岩石の生成時の酸素濃度などを知る上で非常に重要なものもある。

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ジルコン zircon
ジルコニウムのケイ酸塩(ZrSiO4)で,多くは1/100mm程の細かい粒〜柱状結晶をなし,通常,ジルコニウムの代わりに数%以下のトリウムやウランなどを含み,弱い放射能がある。
含まれるウランが鉛に放射壊変するので,これを含む岩石の放射年代(絶対年代)測定の対象鉱物として重要である。
高倍率のルーペでも確認できることはまれ。岩石を薄片にして,偏光顕微鏡で観察できることが多い。
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リン灰石(りんかいせき) apatite
人の骨格の成分であるリン酸カルシウム(Ca5(PO4)3(OH,F))とほぼ同 じもので,多くは1/100mm程の細かい粒〜柱状結晶をなす。Caの代わりに少量の希土類を含むことがある。
普通は高倍率のルーペでも確認できることはまれ。岩石を薄片にして,偏光顕微鏡で観察できることが多い。ただし,外国の閃長岩やカーボナタイトの中には淡黄色の肉眼的な大きさの粒状(ザラメ状)で,黒い磁鉄鉱とともに多く含まれることがあり,中にはリン資源になるものもある。
ジルコンとりん灰石
花こう岩中のジルコンとリン灰石(偏光顕微鏡写真) 
中央の無色の結晶がジルコン。まわり の褐色の黒雲母がジルコンからの放射線で黒っぽく変色している。右の無色粒状のものはリン灰石。

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赤鉄鉱(せきてっこう) hematite
成分は酸化鉄(Fe2O3)で,磁石につかない。やや低温,または,酸素の多い条件でできる。副成分鉱物としては結晶片岩や火山岩によく含まれる。結晶片岩中には黒い亜金属光沢のある粒や小さな板状などでチタン鉄鉱を密接に伴うこともある。また,空気に触れながら冷えて固まった火山岩では石基中に微粒状のものが多く生成し,岩石全体が赤っぽく見えることもある。
なお,深成岩・片麻岩・接触変成岩には岩石生成後の変質鉱物として見られることがあるものの,初成的な副成分鉱物として含まれることはまれである。
なお,赤鉄鉱は大陸地域の堆積岩中に多量に産することがあり,その代表的なものは20億〜25億年前に海底で鉄分が沈殿してできた縞状鉄鉱層で,それは現在,最も重要な鉄鉱石として採掘されている。

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チタン鉄鉱(ちたんてっこう) ilmenite
チタン鉄鉱は鉄とチタンの複酸化物(FeTiO3)で磁石につかない。見かけは磁鉄鉱・赤鉄鉱などとよく似ているが,酸素に乏しい条件でできる。チタンを多く含み,まとまって多く産する場合にはチタン鉱石となる。
特に花こう岩・閃緑岩・はんれい岩には磁鉄鉱とともによく含まれ,中国地方の南部には副成分鉱物としてチタン鉄鉱を含んだ花こう岩が広く分布し,海岸や河川には磁石につかないチタン鉄鉱からなる砂鉄が見られる。また,玄武岩などの苦鉄質岩が変成作用を受けてできた緑色片岩・角閃石片岩などには赤鉄鉱と共によく含まれている。



閃緑岩中のチタン鉄鉱(Im 偏光反射顕微鏡写真 平行ニコル)
磁鉄鉱とともに副成分鉱物として粒状で含まれるもの。
花こう岩・閃緑岩・はんれい岩中にはこのようなチタン鉄鉱(0.1〜0.5mm程度)が顕著に含まれることが多い。
Im:チタン鉄鉱,Mt:磁鉄鉱


角閃石片岩のチタン鉄鉱(Im 偏光反射顕微鏡写真 平行ニコル)
約500℃でできた三波川変成帯の角閃石片岩中のもの。視野の中央〜右を占める赤鉄鉱中に,細かい紐状に見えるチタン鉄鉱のやや暗色の離溶ラメラが無数にある((0001)の1方向に並ぶ)。
一方,視野の左や上にある離溶ラメラではない大きなチタン鉄鉱(Im)には赤鉄鉱の離溶ラメラを含んでおらず,この生成温度ではチタン鉄鉱にはFe3+が固溶しなかったことがわかる。
このことから赤鉄鉱(Fe2O3)−チタン鉄鉱(FeTiO3)の固溶系列には非対称ソルバスが存在することが考えられる。


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磁鉄鉱(じてっこう) magnetite
磁鉄鉱は文字通り磁石につく鉄の鉱物で,成分は酸化鉄(Fe3O4)で,スピネル構造。岩石中に黒い亜金属光沢のある微細な粒(不定形・8面体)をなし,その岩石が風化してできた土砂の中に,黒い砂鉄としてたまっていることがあり,磁石で簡単に集めることができる。砂鉄は「たたら製鉄」の原料とされる。玄武岩・はんれい岩・蛇紋岩中にやや多く含まれることがあり,その場合,ひもに吊した磁石が吸い寄せられる。
磁鉄鉱はかたまり状で多く産する場合には鉄鉱石として採掘されることがある。

閃緑岩中の磁鉄鉱
0.2mm程度の亜金属光沢のある黒色粒状。
花こう岩やはんれい岩中にも同じような状態で含まれ,しばしばチタン鉄鉱をともなう。

結晶片岩中の磁鉄鉱
左は不定形粒状,右は8面体の自形で3角形の結晶面が見られる。
砂鉄
磁鉄鉱(砂鉄)

左のような微粒の磁鉄鉱を含む岩石が風化して,その中の磁鉄鉱が分離して川砂などの中に集まったもの。

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クロムスピネル chromianspinel
FeCr2O4組成のクロム鉄鉱(chromite)−MgCr2O4組成のクロム苦土鉱(magnesiochromite)の固溶体で,他に少量のAlなどを含む。スピネル構造。黒い亜金属光沢のある微細な粒(不定形・8面体)をなす。磁鉄鉱に似るが,クロムスピネルは条痕色が褐色で,かつ,磁石につかない。
かんらん岩や蛇紋岩中に副成分鉱物として散点状でよく見られ,そのかんらん岩の赤褐色の風化面にも,風化に耐えた黒色粒状などでよく見られる。時に層状の沈積構造をなしクロム鉱床を形成している。大陸地域の層状貫入岩体では優白質の斜長岩中にも層状で見られる。なお,それ以外の岩石にはまれで,アルカリ玄武岩とその中のマントル包有物(かんらん岩)との境や,無人岩(特殊な安山岩)に見出される程度。



かんらん岩中のクロムスピネル(矢印先)
灰緑色のかんらん岩中に黒色粒状で含まれるもの。このようなものはかんらん岩中に頻繁に見られる。


かんらん岩中のクロムスピネル(矢印先)
風化して褐色になったかんらん岩の表面に見られるクロムスピネル。左の新鮮なかんらん岩中のものと同じ見かけで,周囲のかんらん石が褐色に風化しても,変化していない。このようなものはかんらん岩の風化面に頻繁に見られる。

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ルチル rutile
成分はチタンの酸化物(TiO2)で,褐色や赤黒色などの粒状や小さな柱状・紡錘形。
玄武岩などの苦鉄質岩が変成作用を受けてできた緑色片岩・青色片岩・角閃石片岩・エクロジャイトなどにチタン鉄鉱などとともにしばしば含まれている。また,強い熱水変質作用を受けた岩石中にも微細な暗褐色の粒で含まれることがあり,この場合,板チタン石や鋭錐石などと共生することがある。
なお,赤鉄鉱+ルチルの組み合わせは酸素の多い条件でできる。



角閃石片岩中のルチル(矢印先)
暗赤褐色の微細な柱状(上写真)や微細な紡錘形・粒をなす。鈍い金剛光沢がある。苦鉄質岩が変成作用を受けてできた緑色片岩や青色片岩,エクロジャイトなどにも同様の見かけでしばしば含まれる。


エクロジャイト中のルチル(Rt 偏光反射顕微鏡写真)

クロスニコルでは褐色の内部反射を示す。内部反射を示さない粒状・板状のチタン鉄鉱(Im)を伴う。
Rt:ルチル,Im:チタン鉄鉱,Cpx:透輝石-灰鉄輝石系の単斜輝石

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黄鉄鉱(おうてっこう) pyrite
成分は硫化鉄(FeS2)で淡い金色を呈し,金に似ているが,ナイフと同じくらいの硬さがある。6面体・8面体・12面体などの自形で,その他,粒状などをなす。錆びるとやや濃い金色や赤色,褐色などになる。なお,非常に細かい粒子になると黒〜灰色に見え,これを多く含む岩石(熱水変質作用を受けた岩石や,酸素に乏しい条件で泥が堆積してできた泥岩)は灰黒色〜帯青黒色になる。
やや低温かつ酸素の乏しい条件ででき,火成岩中には初成的な副成分鉱物として含まれることはまれである。主に低温高圧でできた結晶片岩に変成鉱物として含まれる。そのほか,酸素に乏しい条件で泥が堆積してできた暗色の泥岩中にも自生鉱物として含まれる。また,熱水変質作用を受けた岩石にも肉眼的な大きさの自形,あるいは顕微鏡的な大きさの微粒状(灰黒色〜帯青黒色に見える)で生成している場合が多い。


結晶片岩中の黄鉄鉱(金色粒状) 


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磁硫鉄鉱(じりゅうてっこう) pyrrhotite
成分は硫化鉄だが黄鉄鉱より硫黄が少ない(FeS,Fe11S12〜Fe9S10,Fe7S8)。酸素の乏しい条件で,黄鉄鉱よりもやや高温でできる。褐色の金属光沢があり,ナイフより軟らかい。細かい粒子になると黒〜灰色に見える。火成岩や変成岩に微粒子で含まれることがある。
この鉱物は地表付近では分解して褐色の水酸化鉄になりやすく,この鉱物を副成分鉱物として多く含む岩石は雨水にさらされると短期間で表面が褐色になる(例:石材名で「鞍馬石」と呼ばれている京都府の花こう岩など)。

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くさび石 sphene (titanite)
成分はカルシウムとチタンのケイ酸塩(CaTiO(SiO4))で黄褐〜褐色・緑色の微細なくさび状の小結晶や粒をなす。カルシウムの多い条件でできる。
特に玄武岩などの苦鉄質岩が変成作用を受けてできた緑色片岩・青色片岩・角閃石片岩・エクロジャイトなどに樹脂光沢のある黄褐〜褐色・緑色の小さな板状・くさび状でしばしば含まれている。また,片麻岩・閃緑岩〜はんれい岩中にも同様な見かけでわずかに見られることがある。スカルンおよび,その近くの深成岩にも含まれることがある。
チタン石(チタナイト)とも呼ばれることがあるが,チタンの含有率はルチルやチタン鉄鉱よりも低く,チタン鉱石とはならない。



角閃石片岩中のくさび石(淡黄褐色半透明くさび状