磁硫鉄鉱 pyrrhotite FeS,Fe11S12〜Fe9S10,Fe7S8 六方晶系・単斜晶系  [戻る]

FeS組成のものはトロイライト,Fe11S12〜Fe9S10組成のものは六方磁硫鉄鉱,Fe7S8組成のものは単斜磁硫鉄鉱といい,それら相互の区別は光学的には難しい。いずれも特徴的な褐色系で反射多色性により灰褐〜クリーム褐色に見える(トロイライトはわずかに桃色味がある)。平滑な研磨面が得られる。やや錆びやすく,Fe欠陥の多いものは特に錆びやすい。錆びた後,長く放置すると研磨面は褐色の水酸化鉄の粉に変化して崩壊する。
Cuに対してFeに富む正マグマ鉱床・中温〜高温の鉱脈鉱床・スカルン鉱床などに多く,特に黄銅鉱と共生する。他には,キューバ鉱,鉄に富む閃亜鉛鉱,ペントランド鉱,磁鉄鉱などと共生し,黄鉄鉱と共生するものはFe7S8組成の単斜磁硫鉄鉱である。一方,低温の熱水鉱床にはあまり見られず,その場合,硫化鉄鉱物としては黄鉄鉱が普通である。
斑銅鉱,輝銅鉱,ジュルレアイト,方輝銅鉱,コベリン,ルソン銅鉱,硫砒銅鉱,石黄,鶏冠石などとはほとんど共生しない。
なお,光学的に均質に見えるものでも,しばしば,トロイライトと六方磁硫鉄鉱との離溶共生体,単斜磁硫鉄鉱と六方磁硫鉄鉱との離溶共生体のことがある。これらの離溶ラメラはEPMAの反射電子像(加速電圧25kV)でないと確認が難しい。なお,トロイライトと単斜磁硫鉄鉱は共生しない。
なお,鉄−ニッケル合金の鉱物と共生するのは六方磁硫鉄鉱を伴わない均質なトロイライトで,鉄隕石やコンドライトによく見られる。

反射色/灰褐〜クリーム褐色(トロイライトはわずかに桃色味がある)
反射多色性/明瞭(灰褐〜クリーム褐色)
異方性/強い
反射率(λ=590nm)/35-41%
ビッカース硬度(kgf/mm2)/230−390
内部反射/なし


磁硫鉄鉱の反射多色性(明瞭) 鹿児島県錫山鉱山平行ニコル
視野のほぼ全体を占める部分が磁硫鉄鉱。結晶方位が異なる粒子のモザイク状集合体。複数の粒子がモザイク状に集合し,その境界で反射多色性がはっきり判る。

左の磁硫鉄鉱の異方性(強い) 鹿児島県錫山鉱山クロスニコル
結晶方位が異なる粒子とのコントラストで異方性がはっきりわかる。

 

 



正マグマ鉱床中の磁硫鉄鉱 アメリカ モンタナ州 スティルウォーター平行ニコル 写真の左右0.48mm
正マグマ鉱床中ではペントランド鉱や黄銅鉱と共生することが多い。写真では白金のテルル化物のモンチェアイトも見られる。
磁硫鉄鉱は一般的にこのように不定形をなし,自形になることは希。
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検鏡試料(層状貫入岩体のはんれい岩)




スカルン鉱床中の磁硫鉄鉱(Po)と黄銅鉱(Cp) 岩手県釜石鉱山平行ニコル
地下深部の銅鉱床の形成過程で,およそ300〜350℃以上では,黄銅鉱とキューバ鉱の中間的なCu:Fe比で,かつ,硫黄がやや不足している中間固溶体(iss)が安定に存在する。この中間固溶体は鉱床形成末期の温度低下と硫黄の付加により簡単に黄銅鉱+磁硫鉄鉱の組み合わせに分解する。この組み合わせはスカルン鉱床以外に,中温〜高温鉱脈や正マグマ鉱床に非常に多く見られる。
Po:磁硫鉄鉱,Cp:黄銅鉱,Hd:灰鉄輝石,And:アンドラダイト−グロッシュラー系のざくろ石

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検鏡試料:黄銅鉱・磁硫鉄鉱・灰鉄輝石を主とするスカルン鉱石



主なCu-Fe-S系鉱物の常温での共生図(磁硫鉄鉱付近の領域は実際の天然の共生関係を考慮して一部改変している)
上写真のようなキューバ鉱を欠く,黄銅鉱−磁硫鉄鉱の共生体は,この図の黄色で示した領域にあり,この磁硫鉄鉱は単斜磁硫鉄鉱や六方磁硫鉄鉱である。この黄銅鉱−磁硫鉄鉱の共生体はスカルン鉱床・中温〜高温鉱脈・正マグマ鉱床に非常に多く見られる。なお,黄銅鉱−キューバ鉱−磁硫鉄鉱の3相共存の場合もあり,その場合,共生する磁硫鉄鉱は六方磁硫鉄鉱である。



黄鉄鉱(Py)と共生する磁硫鉄鉱(単斜磁硫鉄鉱:Po) 兵庫県旭日鉱山平行ニコル
このように黄鉄鉱と密接に共生している磁硫鉄鉱はSに富む単斜磁硫鉄鉱である。熱水鉱脈鉱床中。
Po:磁硫鉄鉱,Py:黄鉄鉱,Qz:石英


主なCu-Fe-S系鉱物の常温での共生図(磁硫鉄鉱付近の領域は実際の天然の共生関係を考慮して一部改変している)
黄鉄鉱−磁硫鉄鉱(単斜磁硫鉄鉱)共生体はこの図の黄色で示した線上にある。この図によりこの黄鉄鉱−磁硫鉄鉱共生体は,Cu-Fe-S系では黄銅鉱以外の鉱物とは共生しないことがわかる。


隕石(コンドライト)中の磁硫鉄鉱(トロイライト:Po)/平行ニコル
このようにFe-Ni合金の鉱物(Fe-Ni)と共生するのは六方磁硫鉄鉱を伴わない均質なトロイライトで,平行ニコルでの反射色はわずかに桃色味がある。
Po:トロイライト,Fe-Ni:Fe-Ni合金鉱物


主なCu-Fe-S系鉱物の常温での共生図(磁硫鉄鉱付近の領域は実際の天然の共生関係を考慮して一部改変している)
上の隕石(コンドライト)中のトロイライトとFe-Ni合金鉱物(鉄)の共生体は,この図の黄色で示した線上にある。この図により,このトロイライトとFe-Ni合金鉱物(鉄)の共生体は,Cu-Fe-S系では自然銅(銅)以外の鉱物とは共生しないことがわかる。