鉱物の形態 − 個々の結晶体に基づくもの平行ニコル・クロスニコルで観察   戻る

 通常の造岩鉱物に比べ,単体の金属・半金属の鉱物・硫化鉱物・セレン化鉱物・テルル化鉱物・ヒ化鉱物などは自形になることは少ない。しかし,それらのうちで,黄鉄鉱・白鉄鉱・スピネルなどと同じ密な原子配列を持つものは,他の鉱物よりも優先的に自形〜半自形をなしていることが多い。
 酸化鉱物・タングステン酸塩鉱物などは,原子配列が密なものがやや多く,硫化鉱物などに比べ,自形〜半自形になりやすい。
 自形〜半自形の形態は平行ニコルで観察する。

 また,鉱物の結晶内のある平面(格子面)を境に,原子配列の向きが鏡像関係などで規則的に変わっていることがあり,これを双晶という。クロスニコルで異方性を観察しているときに,同一粒子内で異方性の色が違っている部分が,直線を境に異なっていたり,条線状に反復して認められることがあり,その場合はたいてい双晶をなしている。鉱石鉱物では黄銅鉱,キューバ鉱,黄錫鉱,輝安鉱,シルバニア鉱,ルソン銅鉱,錫石,ルチルなどによく双晶が認められる。なお,自然金,自然銀,自然銅,閃亜鉛鉱などの等軸晶系の鉱物にも双晶はあるが,それらは光学的等方体なので,それらの双晶を偏光反射顕微鏡で認めることはできない。

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自形になりやすい硫化鉱物やヒ化鉱物

黄鉄鉱と同じ原子配列のもの(黄鉄鉱・輝コバルト鉱・ゲルスドルフ鉱・スペリーライト(砒白金鉱)など)
自形は6面体,5角12面体,8面体。ころころした形態なので,偏光反射顕微鏡下での形(断面)は,まとまりのある多角形(自形)〜粒状(半自形)のことが多い。


黄鉄鉱(Py) FeS2
黄銅鉱中に円みを帯びた半自形をなす。
Cp:黄銅鉱 CuFeS2
・平行ニコル
黒鉱鉱床(黄鉱)中/秋田県松峰鉱山

輝コバルト鉱(Co) CoAsS
黄銅鉱中に角張った多角形の自形をなす。
Cp:黄銅鉱 CuFeS2,Em:エンプレクタイト CuBiS2,Sp:閃亜鉛鉱 (Zn,Fe)S

・平行ニコル
熱水鉱脈鉱床中/山口県薬王寺鉱山

スペリーライト(Spe) PtAs2
黄銅鉱やキューバ鉱中に角張った多角形の自形や,円みを帯びた半自形をなす。
Cb:キューバ鉱 CuFe2S3(褐黄),Cp:黄銅鉱 CuFeS2(黄),Pn:ペントランド鉱 (Ni,Fe)9S8(淡黄),Gn:方鉛鉱 PbS(灰白),Mt:磁鉄鉱 Fe3O4(褐灰)
・平行ニコル
正マグマ鉱床中/ロシア ノリリスク


白鉄鉱と同じ原子配列のもの(白鉄鉱・硫ヒ鉄鉱・ヒ鉄鉱・ランメルスベルグ鉱など)
自形は菱形柱状やクサビ形短柱状。偏光反射顕微鏡下での形(断面)は菱形・線状・短冊状などのことが多い。

白鉄鉱(Mr) FeS2
暗色の石英中の自形の板状結晶。断面はこのように線状になる。
・平行ニコル
浅熱水鉱脈鉱床中/鹿児島県菱刈鉱山 山田鉱床

硫ヒ鉄鉱 FeAsS
明るいクリーム白の鉱物がすべて硫ヒ鉄鉱。視野の中央から下にかけて柱状や菱形の自形をなしているのが見られる。
・平行ニコル
熱水鉱脈鉱床中/兵庫県生野鉱山

ヒ鉄鉱(Lo) FeAs2
斑銅鉱や石英中に菱形の自形をなす。
Bn:斑銅鉱 Cu5FeS4,Mt:磁鉄鉱,Qz:石英 SiO2,Ad:灰鉄ざくろ石 Ca3Fe2(SiO4)3

・平行ニコル
スカルン鉱床中/岡山県山宝鉱山


スピネルと同じ原子配列のもの(カーロール鉱・リンネアイトなど)
自形は8面体,あるいはそれに6面体が加わった形。ころころした形態なので,偏光反射顕微鏡下での形(断面)もまとまりのある多角形(自形)あるいは粒状の形態(半自形)のことが多い。
※スピネルと同じ原子配列を持つ硫化鉱物をチオスピネルという。

層状の原子配列のもの(石墨・輝水鉛鉱・ホセ鉱系鉱物など)
しばしば板状の自形のことがあり,その場合,偏光反射顕微鏡下での形(断面)は短冊状。しばしば湾曲している。
鎖状の原子配列のもの(輝安鉱・輝蒼鉛鉱・ベルチェ鉱・ブーランジェ鉱・エンプレクタイトなど)
しばしば柱状の自形のことがあり,その場合,偏光反射顕微鏡下での形(断面)は短冊状。

カーロール鉱(Car) CuCo2S4
黄銅鉱中に角張った多角形の半自形をなす。これは変成鉱物として見られるもの。三波川変成帯の変成作用の過程で,微量のCoを含む黄鉄鉱の分解でCoを含む流体が生じ,黄銅鉱のCuと化合してできたもの。
※色や硬度は四面銅鉱と似るが,カーロール鉱はスピネルと同じ密な原子配列なので自形〜半自形になりやすい。

Py:黄鉄鉱 FeS2,Cp:黄銅鉱 CuFeS2
・平行ニコル
キースラガー中/愛媛県佐々連鉱山


ホセ鉱−A(Jo) Bi4(S,Te)3 
石英中にまばらに散在する半自形の板状結晶。断面はこのように短冊状になる。なお,ホセ鉱系鉱物は不定形の他形になることも多い。
Qz:石英 SiO2

・平行ニコル
スカルン鉱床中/山口県大和鉱山


輝安鉱(Sb) Sb2S3
石英中の半自形の柱状結晶。断面はこのように伸びたように見える。
Qz:石英
・平行ニコル
熱水鉱脈鉱床中/兵庫県中瀬鉱山


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自形になりやすい酸化鉱物など

スピネルと同じ原子配列のもの(磁鉄鉱,クロム鉄鉱,クロム苦土鉱など)
自形をなす場合は8面体が多く,ころころした形態なので,偏光反射顕微鏡下での形(断面)もまとまりのある多角形(4角形・6角形などの自形),あるいは粒状の形態(半自形)のことが多い。

コランダムと同じ原子配列のもの(赤鉄鉱,チタン鉄鉱,ゲーキアイトなど)
自形をなす場合は板状(6角板状)なので,偏光反射顕微鏡下での形(断面)は短冊状の断面のことが多い。
ルチルと同じ原子配列のもの(ルチル,錫石など)
自形をなす場合は角柱状なので,偏光反射顕微鏡下での形(断面)は4角形〜短冊状の断面,あるいは粒状の形態(半自形)のことが多い。


磁鉄鉱(Mt) Fe3O4
キューバ鉱や黄銅鉱中に円みを帯びた半自形をなす。
Cb:キューバ鉱 CuFe2S3(褐黄),Cp:黄銅鉱 CuFeS2(黄),Pn:ペントランド鉱 (Ni,Fe)9S8(淡黄),Gn:方鉛鉱 PbS
・平行ニコル
正マグマ鉱床中/ロシア ノリリスク

赤鉄鉱(Hm) Fe2O3
黄銅鉱中にまばらに散在する自形の板状結晶。断面はこのように短冊状になる。
変成鉱物として見られるもの。
Py:黄鉄鉱 FeS2,Cp:黄銅鉱 CuFeS2

・平行ニコル
キースラガー中/愛媛県佐々連鉱山

錫石(Cas) SnO2
磁硫鉄鉱や閃亜鉛鉱中にまばらに散在する自形結晶。4角柱状で断面はこのように正方形〜長方形になる。
Po:磁硫鉄鉱 Fe0.875〜1S,Sp:閃亜鉛鉱 (Zn,Fe)S
・平行ニコル
熱水鉱脈鉱床中/鹿児島県錫山鉱山



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双晶

 鉱物の結晶内のある平面(格子面)を境に,原子配列の向きが鏡像関係などで規則的に変わっているもの。クロスニコルで異方性を観察しているときに,同一粒子内で異方性の色が違っている部分が,直線を境に異なっていたり,条線状に反復していることがあり,その場合はたいてい双晶をなしている。鉱石鉱物では黄銅鉱,キューバ鉱,黄錫鉱,輝安鉱,シルバニア鉱,ルソン銅鉱,錫石,ルチルなどによく双晶が認められる。なお,自然金,自然銀,自然銅,閃亜鉛鉱,磁鉄鉱などの等軸晶系の鉱物にも双晶はあるが,それらは光学的等方体で,それらの双晶を偏光反射顕微鏡で認めることはできない(ただし,平行ニコルで,等軸晶系に関わらず1方向に伸びて見えるものは双晶をなしている可能性がある)。
シルバニア鉱の双晶(集片双晶)


シルバニア鉱(Sy) AuAgTe4
シルバニア鉱はしばしば反復して双晶をなすことがあり,特にクロスニコルで異方性を観察しているときに条線状の縞模様が見られる(右写真)。シルバニア鉱異方性が強いので双晶が認めやすい。なお,反射多色性も明瞭なので平行ニコルでも双晶が認められることがある。
Stz:ステイツ鉱 Ag12Te7(明灰),Cp:黄銅鉱 CuFeS2(黄),Gf:ゴールドフィールド鉱 Cu12(Sb,As,Te)4S13(灰),Qz:石英 SiO2(黒)
浅熱水鉱脈鉱床中/北海道手稲鉱山
磁鉄鉱の双晶(スピネル式双晶)


磁鉄鉱(Mt) Fe3O4
(111)を双晶面とする「スピネル式双晶」をなす磁鉄鉱。それは3角板状や6角板状で,その断面は短冊状に見える。スピネルと同じ原子配列の鉱物にはしばしばこのような形態のものもある。
※磁鉄鉱は光学的に等方体なので,形態観察を除き,異方性などで双晶を認めることはできない。

Spe:スペリーライト PtAs2,Cb:キューバ鉱 CuFe2S3(褐黄),Cp:黄銅鉱 CuFeS2(黄),Pn:ペントランド鉱 (Ni,Fe)9S8(淡黄),Gn:方鉛鉱 PbS
・平行ニコル
正マグマ鉱床中/ロシア ノリリスク

※なお,スピネルとは異なる原子配列の閃亜鉛鉱も外形的には同じ双晶をなして,3角板状や6角板状になることがあり,断面がこのように短冊状に見えることがある。