倉敷市立自然史博物館友の会の行事



第280回自然観察会「北木島の自然」
 2008年1月20日報告

◆日   時:2008年1月20日
◆観察場所:笠岡市北木島町 北木島


 雨がいつまでも降り止むことの無い,寒い日でした。
 笠岡諸島の北木島は殆どが花崗岩の島で,島内には重ね岩,猫岩はじめ奇岩,奇石が数多く見られます。
 明治28年(1895年),日本銀行本店を建てる際に,夥(オビタダ)しい花崗岩の石材がこの島から送り出され, 「北木石」として一躍世に知られるようになり,後に靖国神社大鳥居や三越本店など,幾多の著名な建造物にも利用されました。

 島に渡る舟の定員の関係で,やむを得ず50名と制限された参加申込みは早々に一杯となりました。
 ただ雪さえちらつく当日の朝の寒さで,参加者の数は激減するのではと心配されたのですが,それも杞憂で,蓋を開けてみるとやはり島の人気は根強く,36名の方にご参加いただくことができました。  


  笠岡港から9時過ぎに出発する高速艇に乗って,数年前に観察会を行なった白石島を経由,北木島の大浦港に到着しました。
 この高速艇は北木島から,やはり以前何度か観察会を行なった真鍋島へと向かいます。
 この頃には雨足も強くなっていましたが地元の方のご配慮で,冒頭の受付・説明は,雨を避けて港近くの立派な笠岡諸島開発総合センターの屋内で行なうことができました。
観察コースを歩き始めて暫くすると石材工場があり,更に進むと花こう岩の露頭が次々と現れます。
地学担当の武智学芸員の周囲には,たちまちたくさんの傘が集まり,皆さん熱心に質問をされていました。
このあたりの花こう岩は,山陽地方に広く分布する広島花こう岩類だそうです。


この島は昭和30年代まで「北木石」の出荷で栄えますが,その後はコストの低い輸入ものの石材に押されるようになります。観察コースには雨を凌ぐ場所がなく,お昼ご飯をとるのも大変かと思われたのですが,やはり地元の方々のご好意で,家の軒下などで,休息をとらせていただきました。
島の南端には領家変成帯が分布し,累進変成作用によってできた縞状構造を持つ領家花こう岩類や片麻岩が見られます。
そのあたりにさしかかると,荒海に臨んで雨に打たれながら武智学芸員がハンマーを振るっておられるのが目に入りました。 いつもながらの武智学芸員のパワーには,圧倒されてしまいます。


「北木石」の出荷に翳りが出始めると,島の人口も徐々に減少し,現在は盛時の5 分の1ぐらいになっているということです。
ただ近年は,この島の魅力に惹かれ大都市から移り住む方も増えているそうです。素朴で美しい島の雰囲気を楽しみながら, 観察会は進んで行きました。
この島の領家花こう岩類や片麻岩は,泥岩や砂岩が 高温,高圧の影響を受けて出来たものです。そして泥岩や砂岩は比較的アルミニウムに富むため, 領家花こう岩類や片麻岩にはアルミニウムに富んだ鉄ばんざくろ石や,ケイ線石などが含まれていることがあるそうです。
武智学芸員が指差されているのが,鉄ばんざくろ石を含んだ領家花こう岩類です。


帰路は山を越えて大浦港を目指します。
途中,植物担当の狩山学芸員が県内では珍しいシダを採取。その丁寧でわかりやすい説明に人だかりができます。
皆さんの表情は真剣そのものです。雨は時に霙(ミゾレ)となりますが,参加された方々の探求心は最後まで衰えることが ありませんでした。
まとめの会では片山幹事より, やはり県内ではあまり見かけないスゲが見つかったとの紹介がありました。
私の知る限りでは,観察会始まって以来ともいえる厳しいコンディションでしたが収穫も少なからず,また地元の方の心配りに,体は冷えても心は殊更温まる思いで,名残を惜しみながら,島をあとにしたのでした。



(写真/文:島岡 浩恵・健)




[博物館のホームページへ]