植物標本を作ろう
 
1.はじめに 8.植物標本はりつけ用具
2.採集に出かける前に 9.植物標本のはり方
3.植物採集用具 10.名前の調べ方
4.植物採集の仕方 11.植物標本の保存方法
5.植物標本乾燥用具 12.コケ植物の採集と標本の作り方
6.植物標本の乾燥の仕方 13.海ソウ・水草の採集と標本作り
7.植物標本ラベルの書き方 14.観察記録を残そう


1.はじめに

 みなさんは教科書や小説の中に出てくる植物を実際に見たことがあるでしょうか。また毎日行ったり来 たりする道の そばに生えている植物の名前を知りたいと思ったことはないでしょうか。植物の名前がわかると,ひとつひとつの植物がとても親しく感じられます。植物の名前 を覚える一番の近道は標本を作ることです。
 植物の標本(おしば標本)は気軽に作れるので,初めて自然物の標本作りをする場合でも,取り組みやすい材 料だと思います。
 標本がたくさん集まれば,名前を調べるときに似た植物と比べられたり,同じ種類の植物がどれぐらい形に違 いがあるかわかってきたり,どのような分布をしているか調べられたり,いつごろ花がさき,いつごろ果実ができるか知ったりすることができます。
 植物標本を作るおおまかな流れは,1)野外で採集する,2)新聞紙にはさんで乾燥させる,3)ラベルを作 る, 4)台紙にはる,5)保存する,となります。ここではおしば標本の一般的な作り方を中心に説明しますが,コケ植物や海ソウ・水草の標本作りにも応用できる よう,簡単に触れておきたいと思います。


2.採集に出かける前に

 まず採集の目的をはっきりさせます。たとえば,夏に花をさかせる植物,黄色の花をさかせる植物,庭 に生える雑 草,河原の植物,学区の植物,薬草などというように,最初はテーマをしぼったほうが取り組みやすいでしょう。身近なところからはじめると,見慣れた植物に も親しみが持てることと思います。
 また,採集しようとしている場所が,採集の禁止されていない地域であることも事前に調べておきたいことで す。
 採集することによって,ひとつの生きものの命をうばうことにもなりかねないので,できるだけよい標本を作 ろうと思いたいものです。


3.植物採集用具

  採集の目的に応じて,必要な道具を準備します。ぜひほしいのは,野帳,地図,大きなポリ袋,せん定ばさみ です(図1)。
1)野帳 ポケットに入るぐら いの大きさで,表紙のかたいノートのことです。採集年月日や採集場所,気づいたこと,スケッチなどを書き込みます。鉛筆が落ちないよう,ひもを結びつけて おきます。
2)地図 採集場所を確認する ためのものです。国土地理院発行の2万5千分の1地形図を使えば,採集地点の標高や緯度,経度を調べることもできます。また詳しい道路地図を使えば,採集 地点の大字名を調べることもできます。
3)大きなポリ袋 採集した植 物を 一時的に入れておきます。70リットルぐらいの大きさのゴミ袋を使います。厚みは0.06mm以上のものの方が破れにくくていいと思います。採集地ごとに 別のポリ袋を使えば,どこで採集したかがよくわかります。買い物袋でも代用できますが,口を閉じておかないと中の植物がすぐにしおれてしまいます。
4)せん定ばさみ とげのある 茎やかたい枝を切り取るときにあれば重宝します。
5)根ほり かたい土をほるた めに使います。移植ごてでも代用できますが,鋼鉄製の丈夫なものがいいでしょう。
6)小さなポリ袋 小さな植物 がほかの植物に紛れ込まないよう,小さなポリ袋に入れておきます。果実や種子入れとしても使えます。
7)紙テープ 採集年月日や採 集場所,気づいたことなどを書いて,植物に結びつけておきます。
8)野冊 採集した植物をその 場で新聞紙にはさみこむ道具です。市販品もありますが,新聞紙半ページ大の段ボール板かベニヤ板2枚でも代用できます。野冊をしばるひもは頻繁にかけたり はずしたりするので,自転車用の荷ひもが便利です。
 ほかにもカメラ,野外観察用のルーペ(虫めがね),ポリ袋や新聞紙にメモを書き込む油性ペン,草丈や幹回 りを はかる巻き尺,標高をはかる高度計,緯度経度をはかるGPSなどがあれば便利です。高い木の枝を採集する場合は高枝切りや投げ縄,水草を採集するならひも 付きのイカリなども役に立ちます。

図1.植物採集用具.


4.植物採集の仕方

 採集するときに気をつけることは,花か果実がついているものをできるだけ大きくとるということで す。
 植物の特徴は花や果実(シダ植物やコケ植物の場合は胞子がつく部分)に最もよくあらわれます。植物図鑑に も必ず花や果実の絵や写真が載っています。また,葉一枚とか花だけという標本はよくありません。新聞紙の大きさを考えて,できるだけ大きく切り取りましょ う。
1)採集する前にまわりの様子や植物の特徴,気づいたことなどをよく観察して,野帳や紙テープ(植物にまき つけておくとよい)に書いておきます。まわりにはもっと状態のよい植物がはえていることがしばしばあります。必要に応じて生態写真をとっておきましょう。
2)花や実がついていて,虫に食べられていないものを探し,はさみで切り取ります。シダ植物の場合は葉裏に 胞子のついたもの(肉眼で見えているのは胞子そのものではなくて胞子の入った袋が集まったもの)を探しましょう。
3)植物の根や地下茎はあるにこしたことはありませんが,どうしても必要というものではありません。根をつ けるためにわざわざ花のついていない小さな植物を採集するのはよくありません。ただし,イネ科やカヤツリグサ科などでは根が必要なものもあります。
4)採集した植物はほかの植物といっしょにならないようにし,できればメモを書いた紙テープか豆荷札をまき つけておきましょう。
5)大きな植物は仕上げの寸法を考えて折りまげたり,いくつかに切断したりします。
6)採集した植物は,しおれないようにポリ袋に入れ,口をとじておきます。場所ごとにポリ袋をかえると,採 集した場所が混乱しなくてすみます。
7)小さな植物は,大きなポリ袋のなかでまぎれやすいので,別の小さなポリ袋に入れておくとよいでしょう。

[ワンポイントアドバイス]
 散りやすい花がついていたり,しおれやすい植物はその場で野冊にはさみます。マメ科やトウダイグサ科の一 部の植物のように,短時間で葉を閉じるものにも野冊は有効です。新鮮な方が,標本づくりは容易な場合が多いようです。


5.植物標本乾燥用具

 植物に適度な圧力をかけて,水分をぬきとるための道具です(図2)。 重しを使う方法が一般 的ですが,植物標本を手軽に作ることに主眼をおいていますので,植物標本をひもでしばる方法を紹介します。この方法だと立てておいたり,じゃまなときは簡 単に移動したりできます。
1)新聞紙(はさみ紙用) 標 本にしたい植物をはさみます。新聞紙を1ページ大に切り離し,二つ折りにしたものを使います。
2)新聞紙(吸水紙用) 植物 から水分を吸い取るために使います。新聞紙5枚分ぐらいを重ねて,半ページの大きさに折っておきます。
3)おし板 厚めの段ボール板 かベニヤ板を使います。上記の新聞紙を上下からはさみこみます。
4)ひも 植物標本全体をしば るひもです。登山靴用のひもが丈夫で扱いやすいでしょう。
5)ティッシュぺーパー 薄い 花びらをはさんだり,脱落しやすい果実や種子をはさんでおいたりします。

図2.植物標本乾燥用具.


6.植物標本の乾燥の仕方

  標本をきれいに仕上げるには,できるだけ早く植物から水分をぬくのがコツです。

1)標本をはさみ紙にはさむ
  新聞紙を1ページの大きさに切り離し,さらに半分に折って,はさみ紙とします。根についた土はきれいに落とします。土 が落ちにくい場合は水洗いします。しおれてしまった植物は,ポリ袋の口を閉じて一晩冷蔵庫に入れておくと,元気になることがあります。大切な花や果実がか くれないように葉をひろげます。植物についた虫や卵,ごみは取り除いておきます。葉は表と裏が見えるようにします。大きな植物はV字形かN字形に折り曲げ るか,2−3枚に切り離します。折り曲げるときに切れ目を入れた小さな紙を使うと簡単に折り曲げることができます(図3)。うすい花びらな どはティッシュペーパーにはさむときれいに仕上がります。メモを書いた紙テープはそのままはさみ紙にはさむか,油性ペンではさみ紙の上に採集地などの記録 を書き写しておきます。
2)吸水紙をはさむ
 新聞紙5枚分ぐらいをかさねて吸水紙とします。はさみ紙と吸水紙を交互につみかさねます。こ のとき,はさみ紙と吸水紙 の折り目を反対向きにしておくと標本が紛れ込みにくくなります。積み重ねたときに同じ所ばかりが高くならないよう植物の向きをかえたり,小さく折りたたん だ新聞紙をかませます。
図 3.折り曲げにくい植物は紙切れを使 う.
3)おし板ではさみ,ひも でかたくしばる
 新聞紙の上下を段ボール板かベニヤ板などのかたい板ではさみ,ひもでかたくしばります(図 4)。しばっ たときの厚みが5−30cmになるように吸水紙の量を調節します。厚みが薄いと植物に十分な力がかかりませんし,厚みが厚すぎると乾燥に時間がかかりま す。ここまでが採集当日の仕事です。
 ひもでしばる代わりに,重しを使う場合は,ベニヤ板の上に10kg程度の重しをおきます。こ の重しにはコンクリートブ ロックか百科辞典が便利です。
4)吸水紙をとりかえる
 翌日,はさみ紙を開いて中の植物の形を整えます。はさみ紙は取り替えずに吸水紙だけをよく乾 いたものに取り替えます。 吸水紙は日光で乾かせば何度でも使えます。できれば最初の2日間は1日に2回,その後は1日1回吸水紙を取り替えます。この作業をくりかえすと,普通は 1−2週間で乾燥します。十分乾燥したかどうかのめやすは,植物のどの部分をさわっても冷たく感じないことです。この吸水紙を取り替える作業を繰り返すこ とによって,よりよい標本ができあがるとともに,植物を見る目が養われます。
図 4.植物をはさみ終えたら,ひもでかた くしばる.

[ワンポイントアドバイス]
 植物をたくさん採集しだすと乾燥が間に合わなくなるので,ふとん乾燥機で急速に乾かす方法もあります。ま た,ベンケイ ソウ科の植物やスベリヒユのような多肉植物はなかなか乾かないので,湯の中をくぐらすかエタノールを含ませた新聞紙に一晩はさんだ後に,ふつうに乾燥させ ます。



7.植物標本ラベルの書き
 植物が乾きあがったら,メモを見て,ラベルをつくります。採集場所(都道府県から),採集年月日 (西暦で),採 集者名をまず記入します(図5)。採集地はほかの人がもう一度行けるぐらいていねいに書きます。都道府県から住居表示に使われる大字ぐらい まで書き,小字や目印になる山や川の名前を書き加えればいいでしょう。さらに環境やわかれば標高なども書いておきます。「ぼくの家」とか「学校の校庭」だ けではほかの人にはどこのことかわかりません。花の色は標本にすると変わりやすいので,ラベルに書いておくと役にたちます。植物名はわかれば書いておきま すが,わからなければ後で図鑑を調べたり,博物館の「標本の名前を調べる会」などで聞いたりします。また,採集した順に1点ずつ通し番号(採集者番号)を つけていくと,標本の仕分けが楽になります。

[ワンポイントアドバイス]
 ラベルは採集した本人しかわからないこと(どこで,いつ,だれが)を特に詳しく書いておきます。これらの 情報がぬけて いる標本は,博物館では残念ながらゴミ箱行きになってしまいます。

図5.植 物標本ラベルの例.



8.植物標本はりつけ用具

 標本を見やすくするためと壊れにくくするため,厚めの紙(台紙)にはります(図6)。
1)台紙 新聞紙半ページ大ぐ らい(A3判 ぐらい)の画用紙を使います。枚数がまとまれば,大きな紙店で四六判135−180kgの上質紙を八つ切りにしてもらうこともできます。
2)とめ紙 植物を台紙に固定 するための紙 テープです。事務用の上質紙か障子紙の切れ端などの丈夫な紙を,幅3−5mmくらいに細長く切って使います。セロテープや製図用テープは数年できたなく なってはがれてしまいますので使いません。
3)のり とめ紙の裏にぬって 使います。文 房具屋さんで売っている合成のりがいいでしょう。
 ほかに,とめ紙を切るはさみや小さな種子をつまみ上げるピンセット,標本からはずれた種子や葉などを入れ る小袋もあれ ばいいでしょう。

図6.植物標本はりつけ用具.


9.植物標本のはり方
 新聞紙半ページぐらいの大きさの画 用紙を標本台紙にします。まず台紙の右下にラベルをはります。幅3−5mmぐ らいの細長いとめ紙を準備し,裏面に合成のりをつけます。セロテープは数年もすると色が変わり,はがれてしまうのでよくありません。1枚の台紙には1種類 だけはります。台紙の上に植物をおき,要所,要所をとめ紙でとめます。とめ紙は茎や葉にそわせるようにします(図7)。茎や枝のようなしっ かりしたところをとめると,とめ紙をたくさん使わないでもとまります。名前を調べるときに重要になる花の部分はとめません。シダ類は葉裏に胞子がついてい るので,裏側を上にしてとめます。台紙をたてて,植物が台紙からはなれないようならできあがりです。植物を乾燥しているときに落ちた葉,花,たねなどは紙 製の小袋にいれ,台紙の片すみにはりつけておきます(図8)。
 
図7.とめ紙のは り方.茎にそわ せるようにとめる.右図のようなとめ方では標本が動いてこわれやすい.

[ワンポイントアドバイス]
 どこかに標本を出品するというのでなければ,植物をいちいち台紙にはる必要はありません。かさばらなくて すみますし, 博物館や大学に将来標本を収める場合などはむしろ台紙にはっていない方が歓迎されます。

図 8.小袋の折り方.コケ植物の標本袋も同じように折りま す.


10.名前の調べ方

 ルーペなどを使って植物をよく観察し,植物図鑑でよく似た植物を見つけます。図鑑の中には名前を調 べやすいよう に,生育環境からさがしだしたり,花色からさがしだしたりできるよう工夫されたものもあります。似た植物が図鑑にあったら,絵だけではなく,説明も読んで 特徴があっているか確かめます。この説明を読むという作業は大変ですがとても重要なことです。図鑑を読んで役にたちそうなことや気のついたことがあった ら,標本台紙上にメモしておくとよいでしょう。ただし,自分が実際に観察したことと図鑑から書き写したこととがごっちゃにならないように,台紙に書くとき 工夫する必要があります。

[ワンポイントアドバイス]
 ルーペを使うときは,まずルーペを目にくっつけ,植物の方を前後に動かしてピントの合うところを探しま す。

 



11.植物標本の保存方法

 長く保存する場合は,直射日光のあたらない乾いた場所におきます。虫がつかないよう,防虫剤といっ しょにポリ袋 に入れておくとよいでしょう。標本がだんだんたまってくると,どこに何があるのかわからなくなってきますので,ポリ袋に採集場所,採集年月日を書いておき ます。また,別にノートを用意して採集年月日順・採集場所別にどのような標本を採集したか記録しておくと,いちいち標本をひっぱり出してみなくても,い つ,どこで,何を採集したかがわかります。ただし,疑問が生じた場合はすぐに標本が取り出せるようにしておきましょう。

[ワンポイントアドバイス]
 最近ではパソコンに標本のデータを入力して,植物標本データベースを作る人が多くなっています。データ ベースを作って おくと,たくさんある植物標本を採集年月日順に並べ替えたり,採集地別に検索できたりするほか,ラベルを簡単に作ることもできます。また,採集者番号を入 力しておくことで,標本を容易に探し出すことができます。



12.コケ植物の採集と標本の 作り方

1)採集場所
 コケ植物のほとんどは,やや日陰で湿度の高い所に多く見られますが,まず始めは自分の家のまわりから調べ て見ましょ う。
 町中のコンクリートの上にも,ギンゴケ,ホソウリゴケ等が見られます。
2)採集用具
 特別な用具は必要なく,ナイフ(木の幹などのコケを採る),紙袋(採集したコケを入れる)があればよいで しょう。コケ 植物は水を含んでいるので,紙袋は丈夫なものでないと破れてしまいます。また採集地のデータ等を書きこめるほうがよいので,封筒のようなものがよいでしょ う。
3)採集上の注意
 なるべく余分なものが混じらないようにして,土やごみは取り除きます。胞子体をつけたものを探して,同じ 種類を1種だ け袋に入れます。採集する量は,手のひらの大きさが標準です。
 採集した場所はできるだけ詳しく記録しておきます。特に採集した場所のようすを,土の上とか岩の上,それ も乾いている 岩か,湿っている岩の上というように書いておきます。
4)標本の作り方
 採集したコケは紙袋の口を開けて,自然の状態で乾かします。だいたい1週間で乾燥しますので,混じってい るごみや土を 取り除いて,標本袋に入れます。標本袋は図8のように折り,折ったときの大きさ(横15.5cm,縦11cm程度)がそろうようにします。 産地その他のデータを記入したラベルは標本袋にはりつけます。

[ワンポイントアドバイス]
 名前のわからない種類については,標本を2分して半分を標本袋に整理して手元に残し,残り半分の副標本を 手元の採集者 番号と同じ採集者番号をつけて,専門家に同定依頼します。名前を調べるためにも,採集する分量は少し多めにしたほうがよいでしょう。



13.海ソウ・水草の採集と標本作り
 海ソウと水草の標本作りは,水の中で標本作りをするという点で共通点があります。とはいっても細か いところでは 違いもありますので,ここでは海ソウの標本作りを中心に紹介したいと思います。真水に生える水草は,塩ぬきの必要がないので?以降の作業をします。
1)海ソウは,潮が引いたときに海岸の岩に生えたものを採集する磯採集と,浜に打ち上げられたものを採集す る打ち上げ採 集とがあります。浜に打ち上げられた海ソウは,なるべく新しいものを採集します。あらかじめ干潮の時刻を調べていきましょう。
2)採集した海ソウは,真水につけてごみや塩分をとります。赤い海ソウは長くつけておくと色がぬけてしまい ます。塩ぬき の時間のめやすは,赤い海ソウで5分くらい,緑色の海ソウで20?30分,大形の茶色い海ソウだと1時間くらいです。
3)新聞紙半ページ大の大きさの画用紙を用意し,これをさらに2分の1,4分の1,8分の1の大きさに切っ たものも準備 しておきます。塩抜きのすんだ海ソウを別のバットに入れ,海ソウの大きさに応じた画用紙を選びます。採集データがわからなくならないよう,画用紙のすみか 裏に採集したときのメモを書いておきます。画用紙を水の中にいれ,手やピンセットで海ソウの形を整えながら紙の上にのせて引き出します(図9)。
4)よく水をきったら,その上にもめんの布をかけて,そのまま二つ折りの新聞紙にはさみこみます。モズクの ような多量の 粘液でおおわれた海ソウやからだが石のようにかたい海ソウは,もめんをかけずにそのまま放置して自然に乾燥させます。
5)新聞紙にはさんだら,ふつうのおしば標本を作るのと同じように,吸水紙と交互につみかさねて,上下から かたい板では さみ,ひもでしばります。
6)吸水紙は1日に2回はとりかえます。
7)海ソウのからだの中には,のりをふくんでいるものがあって,画用紙にうまくはりつくものもあります。
8)そのような海ソウは,とめ紙でとめず,画用紙にはりついたままのものを標本台紙にはりつけます。
9)画用紙にはりつかなかった海ソウは,ふつうの植物と同じように新聞紙半ページ大の標本台紙にとめ紙でと め,ラベルを 右下につけます。石のような海ソウは小箱にいれ,箱にラベルをはりつけておきます。ラベルの作り方はふつうの植物と同じです。

[ワンポイントアドバイス]
 海ソウや水草の上にかけるもめんの布の代わりに調理用のクッキングシートを使うと,乾いたときに植物がき れいにはがせ ます。

図9.海ソウの標 本作り.画用紙ごと水に入れ,水の中で整 形してそっと引き上げる.水を切ったら,海ソウの上からもめんの布をかける.



14.観察記録を残そう

 標本は実物資料としてたいへん重要なものですが,標本とあわせて観察記録や写真,スケッチなども上 手に整理すれ ば貴重な資料になります。以下に観察記録のまとめ方や利用の仕方の一例を紹介してみましょう。
1)情報カード 標本ラベルの 情報や野帳に 記録した情報を,種類別とか場所別にカードに書き写していきます。ノートでも代用できますが,データが増えた場合に追加できるような形式のものがいいで しょう。パソコンを使ってデータベースを作れば,情報の検索やデータの加工に自由度が増します。情報の保存性と一覧性では今のところ情報カードの方が優れ ていると思います。
2)写真 標本からは知ること のできない植 物の生きていたときの色や生育環境を記録するのに役立ちます。細部を写すには,接写のできる一眼レフカメラかデジタルカメラが必要です。写真には1枚ずつ 撮影場所,撮影年月日を書いておきましょう。写真撮影とあわせて植物標本も作った場合は,標本の採集者番号を書き込んでおきます。標本台紙の空いたところ に写真をはっておいてもいいでしょう。
)スケッチ 植物の細部を観 察するにはス ケッチが一番です。線画や着色した細密画があります。写真では表現できない細部まで記録することができます。名前調べに役立つ部分だけでもスケッチして標 本台紙上にはりつけておけば,りっぱな植物標本になります。
4)デジタル植物図鑑 パソコ ンに接続した スキャナを使って,採集したばかりの新鮮な植物画像を取り込むことができます。印刷すると原色のおしば標本のように見えますし,パソコン上では画像データ ベースを作ったり,スライドショーをしたりして楽しむことができます。
5)生きものマップ 観察した 生きものを地 図上に記録していきます。場所別に作ってみたり,同じ場所でも季節を変えて作ったりするといいでしょう。最近ではパソコンを使って自動的に生育地点を表示 したり,たくさんの人が集めた情報をインターネットを利用して1枚の地図上に表示したりすることができるようになっています。

[ワンポイントアドバイス]
 カメラやパソコンなどはたくさんの機種が出ていて選択に迷います。初めて買う人は,実際に使っている人か らアドバイス を受けるのがいいでしょう。 (狩山俊悟)



【参考文献】 
千地万造・樽野博幸・柴田保彦・瀬戸剛・宮武頼夫・日浦勇・両角芳郎・布谷知夫・山西良平・石井久夫,1981.標本づくり−博物 館の標本とぼくらの標本−.50pp.大阪市立自然史博物館,大阪.
本田正次・矢野 佐,1984.植物の観察と標本の作り方.99pp.ニュー・サイエンス社,東京.
児島格・高田雅彦・武修次・西中美穂・平田慎一郎・村上健太郎,2001.はじめての標本づくり.44pp.きしわだ自然資料館, 岸和田市.
柴田敏隆・太田正道・日浦勇編,1973.自然史博物館の収集活動.293pp.日本博物館協会,東京.