自然史博物館のページへ] [友の会のページへ
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
スカルン鉱床    〔戻る〕

マグマが石灰岩やドロマイトなどに接触してそこで有用金属などが濃集してできた鉱床。銅・鉄・鉛・亜鉛・タングステン・金・銀・ビスマスなどの重要な資源である。
なお,石灰岩に接触するマグマは珪長質の花こう岩マグマの場合が多い。

↑ 岐阜県神岡鉱山の亜鉛−鉛のスカルン鉱床の露天掘りの遠景(1966年)

上右:岐阜県神岡鉱山(栃洞鉱床)の亜鉛−鉛の灰鉄輝石を主とするスカルン鉱床の露天掘り(1966年) 

← 岡山県山宝鉱山の銅−鉄のスカルン鉱床の採掘現場(1960〜1970年代)

→ 岡山県新見市のスカルン鉱床の露頭。銅のスカルン鉱床では,黄銅鉱などの銅分が地下水などにしみ出た際,結晶質石灰岩の炭酸カルシウムと反応して緑色の炭酸銅(緑青)を生じやすい。


マグマが石灰岩などに接触した際に有用元素がスカルン鉱床として濃集するメカニズムの概要は以下のとおりである。

●花こう岩マグマが地下深部で固結する末期段階では,そのマグマ中の水分などの揮発成分がガスや熱水などの流体としてマグマから分離する。そしてマグマに含まれていた微量の硫黄・フッ素・銅・鉛・亜鉛・モリブデン・錫・タングステン・金・銀などの有用元素もその流体に溶け込んでマグマから分離する。その流体は多くの場合,かなり酸性であるが,石灰岩などの炭酸塩岩に接触すると,その炭酸塩(主に石灰岩の方解石)が溶解するため中性に近くなり(※高温では水は電離度が大きいので中性のpH値は7ではなく,5や4などになる),流体中の有用元素が硫化物(閃亜鉛鉱 (Zn,Fe)S,方鉛鉱 PbSなど)として沈殿しやすくなる。

※銅・鉛・亜鉛などの硫化物(黄銅鉱・斑銅鉱・キューバ鉱・方鉛鉱・閃亜鉛鉱など)・磁硫鉄鉱・硫砒鉄鉱・各種ビスマス鉱物などは,スカルン鉱物形成時よりもやや後の低温期(300〜400℃程度)にでき,それより先の高温期にできたスカルン鉱物の隙間を埋めたり,その中に脈状で見られることが多い。

※接触される岩石が砂岩・泥岩・流紋岩などの場合,花こう岩マグマから派生した有用金属を含む酸性の流体は炭酸塩が存在しないので中和されず,その中の有用金属は硫化物として沈殿しにくい。なお,接触される岩石はホルンフェルスとなり,金属鉱床を伴う場合は,その中の鉱脈鉱床となる場合が多い。




銅のスカルン鉱石の例   岩手県釜石鉱山
暗緑色の灰鉄輝石などのスカルン鉱物が早期(約500℃)にでき,その後に300〜400℃程度で金色の黄銅鉱・磁硫鉄鉱がスカルン鉱物の隙間を埋めるように形成されているもの(黄銅鉱や磁硫鉄鉱は,もとは中間固溶体(iss))。
亜鉛・鉛のスカルン鉱石の例   岐阜県神岡鉱山
約500℃の高温で暗緑色の灰鉄輝石などのスカルン鉱物ができた後,そのすき間を埋めるように300℃程度で閃亜鉛鉱と方鉛鉱が形成されている。

Hd:灰鉄輝石,Sp:閃亜鉛鉱,Gn:方鉛鉱




タングステン・銅のスカルン鉱石の例
左:自然光,右:暗所で約250nmの紫外線照射(灰重石は青白く発光)

山口県藤ケ谷鉱山
灰重石(Sch)は暗緑色の灰鉄輝石(Hd)などのスカルン鉱物とともに早期(約500℃)ででき,その後に300〜400℃程度で黄銅鉱・磁硫鉄鉱(Cp+Poで示したような明るく反射している粒。上半分に多い)が先にできた灰重石や灰鉄輝石の場所(左半分)とは無関係にスカルン鉱物の隙間を埋めるように形成されている。
※黄銅鉱+磁硫鉄鉱は中間固溶体(iss)としてできたものが温度低下と硫黄の付加で分解したものである。




鉄のスカルン鉱石の例   岡山県山宝鉱山
スカルン鉱床の鉄資源は磁鉄鉱(黒)の場合が多く,それはアンドラダイト(緑褐色)に伴う場合が多い。


スカルン鉱床の錫鉱物  広島県神武鉱山
左:自然光,右:暗所で約250nmの紫外線照射(マラヤ石は黄緑色に発光)
錫を含む灰鉄ざくろ石は暗緑色粒状で,マラヤ石(CaSnSiO5)は右のように暗所で約250nmの紫外線照射で黄緑色に発光する。錫がスカルン鉱床から産する場合,スカルンはカルシウムに富む環境のため,錫石としてよりもケイ酸塩であるマラヤ石や灰鉄ざくろ石中の0.数〜数%の固溶成分(鉄を置換する)として産する場合が多い。これらは製錬困難なので,現時点では錫資源として利用できないことが多い。



●マグマから分離した有用元素のうちで,タングステン・錫・フッ素は石灰岩中のカルシウム分と化合して灰重石 CaWO4,マラヤ石 CaSnSiO5,含錫灰鉄ざくろ石 Ca3(Fe,Sn)2((Si,Fe)O4)3,蛍石 CaF2などとして結晶化する。これらの鉱物は方解石・石英のほか,各種のスカルン鉱物(灰鉄−灰礬柘榴石:Ca3(Fe,Al)2(SiO4)3,灰鉄輝石:CaFeSi2O6,ケイ灰石CaSiO3など)と一緒にやや高温(500℃程度)で形成されることが多い。また著量の磁鉄鉱もそれらのスカルン鉱物と同時に生成し,鉄鉱床をなしていることがある。

●一般的に,副成分鉱物として主にチタン鉄鉱を含むチタン鉄鉱系花崗岩の分布域では,錫・タングステン・銅に富む鉱床(蛍石などのフッ素鉱物を伴うことが多い)が形成され,副成分鉱物として主に磁鉄鉱を含む磁鉄鉱系花崗岩の分布域では,モリブデン・鉛・亜鉛に富む鉱床が形成される(フッ素鉱物は乏しい)。

●銅・鉛・亜鉛などの硫化物はマグマと石灰岩の接触部付近(グロッシュラー成分に富む柘榴石やケイ灰石の多い部分)には少なく,それから石灰岩側に少し離れた所に,灰鉄輝石・アンドラダイト成分に富む柘榴石・方解石などに伴う場合が多い。
さらに,銅−鉄−硫化物(Cu-Fe-S系鉱物)で見ると,これらは他の硫化物同様,接触部付近にはあまり見られないものの,磁硫鉄鉱やキューバ鉱のように銅に乏しいものは接触部に比較的近い側で灰鉄輝石に伴って産する傾向がある。一方,斑銅鉱のように銅に富むものは接触部からかなり結晶質石灰岩側に離れた所でアンドラダイト成分に富む組成の柘榴石に伴う傾向があり,さらに離れて結晶質石灰岩中に四面銅鉱などと共に低温生成の細脈状をなす場合もある。なお,黄銅鉱はいずれの部分にも普遍的に伴われる。

小規模なスカルン鉱床の試料 岡山県布賀
硫化物(黄銅鉱・磁硫鉄鉱・硫砒鉄鉱・閃亜鉛鉱・ビスマス鉱物など)の黒ずんだ微粒子集合体は,マグマ(花こう岩)と石灰岩の接触部付近(肉色のグロッシュラー成分に富む柘榴石やケイ灰石の多い部分)には少なく,それから石灰岩側に少し離れた所に,アンドラダイト成分に富む組成の柘榴石(緑褐色)・方解石(白)などに伴っている。


スカルン鉱床の銅−鉄−硫化物(Cu-Fe-S系鉱物)は他の硫化物と同様,接触部付近にはあまり見られないものの,磁硫鉄鉱やキューバ鉱のように銅に乏しいものはやや接触部に近い側で灰鉄輝石に伴って産する傾向がある(上左写真。Cp+Po:黄銅鉱と磁硫鉄鉱の集合体で生成当初はiss)。一方,斑銅鉱のように銅に富むものは接触部からかなり結晶質石灰岩側に離れた所でアンドラダイト成分に富む組成の柘榴石に伴う傾向がある(上右写真。灰黄緑色:アンドラダイト,白色:方解石,紫色金属光沢:斑銅鉱,金色:黄銅鉱)。なお,斑銅鉱は接触部から遠く離れた結晶質石灰岩中に四面銅鉱などと共に低温生成の細脈状をなすこともある。
黄銅鉱はいずれの部分にも普遍的に伴われる。


------------------------------------------------------------

●接触される岩石が石灰岩以外の苦灰岩(ドロマイト)や石灰質の泥岩(方解石の微粒子を含む泥岩)などの場合もスカルン鉱床が形成されることがある。苦灰岩の場合,スカルン鉱物としては苦土かんらん石・スピネル・透輝石・金雲母が形成される(下写真)。石灰質の泥岩などの場合はスカルン鉱物の種類は石灰岩の場合とあまり変わらないが,その成分はやや泥岩中のAlを取り込んでAlに富む傾向がある。


花こう岩マグマがドロマイトに接触して形成されたスカルン(ドロマイトスカルン)  岩手県上根市
褐色部は金雲母,暗灰色部は苦土かんらん石・透輝石。ただし,この試料には金属鉱物は伴われていない。


------------------------------------------------------------

●接触する岩石が花こう岩以外の閃緑岩やはんれい岩などもまれにスカルンを形成する。閃緑岩やはんれい岩のマグマは花こう岩よりもかなり高温(1000〜1300℃)で,このようなスカルンは,花こう岩が接触してできるスカルンよりも,かなり高温生成(800〜900℃)であり,スカルン鉱物としてはゲーレン石・スパー石・ティレー石・モンチセライトなどが形成される(高温スカルン)。高温スカルンには有用金属が濃集することはやや少ない。それは閃緑岩やはんれい岩のマグマの含水量は花こう岩マグマに比べて少なく,マグマの固結時に有用金属を含む熱水があまり発生しないからである。特に有色鉱物として輝石類やかんらん石などの無水鉱物が多い閃緑岩やはんれい岩の場合,元のマグマは水分が乏しく,有用金属のスカルン鉱床は形成されにくい。一方,有色鉱物として角閃石などの含水鉱物をやや含む閃緑岩やはんれい岩は元のマグマに水分がやや多く含まれるため,時にスカルン鉱床を形成し,それは銅に富むことが多い(閃緑岩やはんれい岩の苦鉄質のマグマはもともと銅に富み,鉛に乏しい)。

高温スカルンの銅鉱石 岡山県三原鉱山
最初に高温期(約800℃)でできたゲーレン石は,その後の硫化物(黄銅鉱・斑銅鉱:中央の金属光沢部)を形成させた熱水(300℃程度)で変質して緑白色緻密な加水グロッシュラーになっている(右下)。