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正マグマ鉱床    〔戻る〕

地下の大きなマグマ溜まりが固まる過程で,白金族元素・ニッケル・銅・チタン・クロム・バナジウムなどの有用元素を含む鉱物がマグマから直接,結晶化して,マグマ溜まりの底に沈積・濃集してできる場合が多い。したがって,大きな火成岩体中に鉱石が層状に存在する傾向がある。
主にアフリカ・アメリカ・カナダ・中国・ロシアなどの大陸地域に存在し,鉱床の数は少ないが規模は大きく,1つの鉱床が100km2以上の広がりを持つことも多い。白金族元素・ニッケル・銅・チタン・クロム・バナジウムなどの主要な供給源となっている。
なお,アルプス山脈や環太平洋造山帯のようなプレート同士が衝突している造山帯(日本など)では,正マグマ鉱床は少なく,広域変成帯に伴うかんらん岩体中にいくらかのクロム鉱床が存在する程度である。


カナダ オンタリオ州 サドバリー層状貫入岩体のニッケル・銅鉱石の試料
全体の黒緑色部は主に輝石(斜方輝石),明色の不規則粒は磁硫鉄鉱・ペントランド鉱・黄銅鉱などの硫化物




カナダ オンタリオ州 サドバリー層状貫入岩体のニッケル・銅鉱石の偏光反射顕微鏡写真
Pn:ペントランド鉱,Po:磁硫鉄鉱,Cp:黄銅鉱,Px:斜方輝石



中国の金川の層状貫入岩体のニッケル・銅鉱石の試料
全体の黒緑色部は主に蛇紋岩化した輝石類やかんらん石,明色の不規則粒は磁硫鉄鉱・ペントランド鉱・ビオラル鉱・黄銅鉱などの硫化物
ニッケル・銅鉱石の試料
上写真の左は世界的なニッケル鉱山であるサドバリー鉱床のニッケル・銅鉱石。肉眼では,黄白色金属光沢のあるペントランド鉱・褐色金属光沢ある磁硫鉄鉱・黄色金属光沢のある黄銅鉱などの硫化物が,黒い輝石(斜方輝石)を主とする粗いはんれい岩中に不規則な斑点状で散在する。このペントランド鉱がニッケル資源,黄銅鉱が銅資源となっている。
これらの硫化物は溶融体から固結したもので,熱水から沈殿したものでない(硫化物の周囲の輝石類は熱水変質していない)。このサドバリーのニッケル・銅鉱床は約18億年前の層状貫入岩体と考えられているが,一説では隕石(ニッケルに富む)の衝突で,隕石の物質と地殻の物質が溶け合ったマグマが大規模に発生し,それが徐冷してできたともいわれている。なお,白金族元素も伴う(鉱石中にsperryite PtAs2,cooperite PtSなどの微粒子を含む)が,南アフリカのブッシュフェルトやアメリカのスティルウォーターの層状貫入岩体の白金族鉱石に比べ含有率は低く,1t中に1g程度である。製錬時にその白金族元素やコバルト(主にペントランド鉱に固溶)も回収されている。
鉱石の偏光反射顕微鏡観察(上写真の中)では,クリーム色のペントランド鉱,褐色がかった磁硫鉄鉱,黄色の黄銅鉱が互いに組み合っている。そして,その周囲の黒緑色の輝石(斜方輝石)の細いへき開の隙間には線状に磁硫鉄鉱・ペントランド鉱・黄銅鉱が見られ,これは硫化物溶融体が輝石などのケイ酸塩鉱物の隙間に入り込んで固結した組織である。
これと同様のニッケル・銅鉱石は,ロシアのノリリスクや,中国の金川(右上)などにも知られている。




白金族鉱石の試料  アメリカ モンタナ州 スティルウォーター層状貫入岩体
27億年前にできたスティルウォーター層状貫入岩体中に厚さ数10cm・延長数10kmに及ぶ層状で産する白金鉱石(この白金鉱石の層はJ-M Reefと呼ばれる)。肉眼ではペントランド鉱,磁硫鉄鉱,黄銅鉱などの硫化物が,灰色半透明の斜長石や黒い輝石(斜方輝石)を主とする粗いはんれい岩中に1〜数o程度の不規則な斑点状に散在する。その硫化物の周囲の斜長石や輝石類は熱水変質していないことから,これらの硫化物は溶融体から固結したものであり,熱水から沈殿したものでない。なお,世界の白金産出の9割を占める南アフリカのブッシュフェルト層状貫入岩体(約20億年前)の白金鉱石もこのスティルウォーター鉱床の鉱石と同様のもので,厚さ数km以上に及ぶ層状貫入岩体のうちで,この白金族鉱石部分の厚さは数10cm程度の非常に薄いものではあるが,その中に延長数100km以上の層状で連続し,鉱石の量としては莫大である(この白金族鉱石部分はメレンスキーリーフという)。これらのスティルウォーターやブッシュフェルトの鉱床は,白金族元素のうちでは白金とパラジウムに富み,Pt+Pd=2〜数g/t程度の品位を示す。しかし,それ以外の白金族元素(ルテニウムRu, ロジウムRh, オスミウムOs, イリジウムIr)の資源量も大きい。なお,類似の層状貫入岩体の鉱床であるカナダ サドバリー鉱床や中国 金川鉱床と比べると全体に硫化物の量は少なく,ニッケル・銅に乏しい。
鉱石の偏光反射顕微鏡観察では,クリーム色のペントランド鉱,褐色がかった磁硫鉄鉱,黄色の黄銅鉱が互いに組み合っている。わずかに見られる白金族の鉱物はcooperite PtS,moncheite PtTe,vysotskite PdS,koturskite PdTeなどを主とし,それらはペントランド鉱,磁硫鉄鉱,黄銅鉱に密接したり,斜長石や輝石類中に単独粒をなす(写真右のモンチェアイト moncheite PtTe)。




白金族鉱石の試料(メレンスキーリーフ  南アフリカ ルステンブルグ ブッシュフェルト層状貫入岩体
厚さ数km以上に及ぶブッシュフェルト層状貫入岩体のうちで,このメレンスキーリーフ部分の厚さは数10cm程度の非常に薄いものではあるが,その中に延長数100km以上の層状で連続し,鉱石の量としては莫大である。スティルウォーター層状貫入岩体中のJ-M Reef同様,白い部分は斜長石・黒褐色の部分は斜方輝石で,白金族元素のうちでは白金とパラジウムに富み,Pt+Pd=2〜数g/t程度の品位を示す。




鉄・バナジウム鉱石の試料  南アフリカ ブッシュフェルト層状貫入岩体
約20億年前の層状貫入岩体の一部で,地下の巨大なマグマだまりでできた磁鉄鉱が層状にマグマ中で沈積したもの(ただし,これは磁鉄鉱以外の部分(輝石類)は風化して褐色になっており,磁鉄鉱の層も薄く,良い試料ではない)。ブッシュフェルト層状貫入岩体の磁鉄鉱には0.数%のバナジウムが含まれ,バナジウム資源として重要である。
なお,ブッシュフェルトでは白〜灰色の斜長岩中に同様に黒い層状でクロム鉄鉱も多量に存在し,それは重要なクロム資源となっている。
チタン鉱石の試料  カナダ オンタリオ州
はんれい岩のマグマだまりでできた黒い層状のチタン鉄鉱層から採取された試料。チタン鉄鉱の他に含チタン磁鉄鉱などをまじえる。



造山帯のかんらん岩体のクロム鉱石の試料  愛媛県東赤石山
造山帯にしばしば見られるクロムの正マグマ鉱床の鉱石。マントルのかんらん岩のマグマだまり中で,黒い粒状のクロムスピネル(クロム鉄鉱〜クロム苦土鉱)が黒い層状に沈積したもの(クロムスピネル層の上下の緑褐色部はかんらん岩)。
なお,クロムスピネルがまばらに入っている程度のクロム資源に利用できないものは各地のかんらん岩体で普通に見られる。なお,かんらん岩自体は耐火物資源(オリビンサンド)とされることがある。

なお,安定陸塊である南アフリカのブッシュフェルト層状貫入岩体や,アメリカのスティルウォーター層状貫入岩体などでは,クロムスピネル(造山帯のものに比べややMg,Alに乏しいクロム鉄鉱)は灰色〜白色の斜長岩や緑黒色の輝岩中に黒色層状をなしていることも多く,鉱床の規模は造山帯のものに比べ大きい。