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ペグマタイト鉱床    〔戻る〕

ケイ長石や,希土類元素・ニオブ・タンタル・リチウム・ルビジウム・セシウム・ベリリウムなどの資源として重要。
火成岩のうちで,花こう岩などのマグマが地下深部で固まる際,マグマに含まれていた少量成分の水分・ハロゲンなどの揮発成分が,微量成分である希土類元素・ニオブ・タンタル・リシウム・ルビジウム・セシウム・ベリリウムなどともにマグマから高温(500〜600℃)のガスとして分離し,それが花こう岩自身や周囲の岩石などの中に入り込み,さまざまな鉱物として結晶化したもの。アフリカ,オーストラリア,カナダ,北欧などの大陸地域のペグマタイトは10億年以上前の古い大陸の大規模な花こう岩体に伴い,日本のような造山帯のペグマタイトよりも規模が大きく,資源的に重要である。
一般的なペグマタイトは花こう岩マグマの固結に伴って形成され,数cm〜数mに達する粗い石英・長石類・雲母類などからなり,いくらかの鉄電気石・トパーズ・緑柱石・ざくろ石(アルマンディン−スペサルティン),各種の希土類−ニオブ−タンタルの鉱物などを伴う。しかし,リチア雲母などのリチウム鉱物・ポルサイトなどのセシウム鉱物などに富むリチウムペグマタイトや,石英を伴わずネフェリン・カンクリナイト・ソーダライト・ユーディアライト・エジリンなどのアルカリ金属元素に富む鉱物からなる閃長岩ペグマタイトなど,世界的に見ると地域によっては特徴的なペグマタイトもある。
なお,美麗な電気石・トパーズ・緑柱石・ざくろ石・水晶などがペグマタイト中央部の晶洞と呼ばれる空隙から産することもあり,それは宝石資源となる。

※ペグマタイトとその周囲の岩石との境には,1〜2mm程度の長石類と石英からなる,白っぽくきめ細かいアプライトという岩石があることが多い。

※ペグマタイトは非常に分化した岩石なので,特にマグネシウムに枯渇した状況ででき,マグネシウムを主成分とする鉱物はあまり産しない(ペグマタイトの黒雲母はマグネシウムに乏しく,鉄に富む)。そして,通常の造岩鉱物には入りにくいイオン半径や価数の元素(ウラン・トリウム・希土類元素・ニオブ・タンタル・ホウ素・リシウム・ルビジウム・セシウム・ベリリウム)が特殊な鉱物に結晶化して濃集し,それらの資源として採掘される。

※閃緑岩,はんれい岩,かんらん岩などは,もとのマグマに水分などの揮発成分が少ないため,マグマの固結時に鉱化流体が派生しにくく,ペグマタイトや気成鉱床などはできにくい。なお,含水鉱物である角閃石を主とする閃緑岩やはんれい岩は元のマグマにやや水分を含むため,まれに数cmに達する粗い斜長石や角閃石からなるペグマタイトが伴われるが,花こう岩の場合のように特殊な元素を伴うことはほとんど無い(閃緑岩やはんれい岩の元のマグマにはそれらの成分に乏しい)。



花こう岩に伴うペグマタイトの例
香川県丸亀市広島

大きな石英や長石類を主とするペグマタイト。このようなペグマタイトはケイ長石資源として重要。暗灰色は石英,クリーム色〜白色は長石類。幅約40cm。
※このようにペグマタイトの石英が特に濃い灰色なのは,できた当初は無色であったものが,ペグマタイト中のウラン・トリウムを含む放射性鉱物からの放射線(特にγ線)の作用で長い地質時代を経て着色したためである。


花こう岩に伴う通常のペグマタイト鉱床の鉱石の例

カリウム長石(正長石,微斜長石) 
KAlSi3O8

通常は白色,クリーム色,淡肉色。へき開のはっきりした大塊のことが多い。

曹長石 NaAlSi3O8
クリーム色・白色・淡青色で,カリウム長石に酷似したへき開のはっきりした大塊のほかに,上写真のように特徴的な葉片状集合塊をなすこともある。
ケイ長石(ガラス原料,窯業原料)
ペグマタイトは数p〜数mの粗い石英や長石類を主とし,純度の高い石英はガラス原料として,長石類は窯業原料として重要である。
石英は無色以外に,花こう岩の放射能により灰色がかっているものも多い(上写真の左)。
長石類にはカリウムを主とするカリウム長石(正長石・微斜長石,上写真の中),ナトリウムを主とする曹長石(カルシウムを少し含む。上写真の右)とがある(※ペグマタイトは分化の進んだ岩石なので灰長石は産しない)。



イットリア石 Y2Si2O7 ・フェルグソン石 YNbO4
(Yや比較的原子番号の大きな希土類元素の資源)

長石類と黒雲母の境に緑黒色のイットリア石やフェルグソン石が見られるもの。このようにペグマタイトの黒雲母と長石類との境に希土類鉱物が見られることは世界的に多い。なお,黒雲母を伴わず,長石類や石英中に粒状や塊状をなす希土類鉱物も多い。希土類鉱物は希土類の代わりに数%のウランやトリウムを含み,放射性鉱物であることが多く,その近傍の石英は放射線で黒ずんでいることが多い。
なお,イットリア石やタレン石などのY-ケイ酸塩鉱物やフェルグソン石を伴うペグマタイトはかなり希土類に富んでいるため,緑柱石やコルンブ石などの希土類に乏しい条件でできる鉱物と一緒に産することはあまりない。
福島県川俣町水晶山




コルンブ石 FeNb2O6
(ニオブ・タンタルの資源)
ペグマタイトから産する代表的なニオブ・タンタルの資源鉱物。タンタル石と固溶体を形成し,「コルタン」と総称されることがある。
ニオブ・タンタルは優先的に希土類(特にYや比較的原子番号の大きい希土類)と化合しやすく,希土類−ニオブ−タンタル複酸化物(フェルグソン石,イットロタンタル石,エシキナイト,サマルスキー石,ユークセン石)を形成する。したがって,希土類を含まないニオブ・タンタル鉱物であるコルンブ石やタンタル石を産するペグマタイトは希土類に乏しい条件でできたことを示し,イットリア石やタレン石などのY−ケイ酸塩鉱物を欠くことが多い。
福島県石川町


緑柱石 Be3Al2Si6O18
(ベリリウムの資源)
代表的なベリリウム鉱物で,アルマンディンやコルンブ石などを伴うことがあるが,希土類に富む鉱物であるイットリア石やタレン石などのY-ケイ酸塩鉱物やフェルグソン石などを伴うことは少ない。希土類に富むペグマタイトから産出するベリリウム鉱物としてはガドリン石(Y2Be2FeSi2O10)が普通である。
中国


紅柱石 Al2SiO5
福島県石川(広域変成帯(阿武隈変成帯)の片麻岩地域のペグマタイト)

Al2SiO5鉱物である紅柱石やケイ線石(時に藍晶石)はフッ素に乏しいペグマタイトから産する。これとアルカリ長石との境には温度低下による変質作用で,両者の成分が反応し,細かい白雲母が形成されている場合が多い(なお,ケイ線石の場合は繊維状なので,完全に白色繊維状の白雲母に置き換わって軟化していることがある)。このようなAl2SiO5鉱物を伴うフッ素に乏しいペグマタイトは広域変成帯の片麻岩地域の花こう岩に伴うことが多く,日本では領家変成帯や阿武隈変成帯に存在する。
一方,フッ素に富むペグマタイトではAl2SiO5鉱物は出現せず,その代わりにトパーズ(Al2SiO4(F,OH)2)が出現し,蛍石(CaF2)なども形成される。フッ素に富むペグマタイトは日本では山陽−苗木花こう岩や西南日本外帯花こう岩に伴うペグマタイトに顕著に見られる(右写真)。


トパーズ Al2SiO4(F,OH)2
滋賀県田上山(山陽−苗木花こう岩のペグマタイト)

フッ素に富むペグマタイトではAl2SiO5鉱物は出現せず,その代わりにトパーズが出現し,蛍石(CaF2)なども形成される。フッ素に富むペグマタイトは日本では山陽−苗木花こう岩や西南日本外帯花こう岩に伴うペグマタイトに顕著に見られる。
ペグマタイト産出のトパーズは宝石資源として重要。



宝石資源
ペグマタイト中央部の晶洞と呼ばれる空隙からは,美麗な電気石・トパーズ・緑柱石・ざくろ石(アルマンディン−スペサルティン)・水晶などが産することがあり,それらは宝石資源となる。パキスタン・アフガニスタン・ブラジル・中国・ベトナム・ミャンマーなどで盛んに採掘されている。


リチウムペグマタイト(リチウム・ルビジウム・セシウムの資源)
リチウム鉱物を特徴的に伴うペグマタイトで,塩湖の岩塩とともに重要なリチウム資源。
肉眼的には桃色鱗片状などのリチア雲母,桃・緑・青色柱状などのリチア電気石が目立ち,それ以外のリチウム鉱物であるペタライト・アンブリゴナイト・リチア輝石は長石類に酷似し,ユークリプタイトは石英に酷似し,チンワルド雲母は白雲母に似ており,これらは資源的に重要なリチウム鉱物だが,肉眼同定が困難である(ペタライト・アンブリゴナイト・リチア輝石・ユークリプタイトはX線粉末回折が有力な同定方法)。
なお,リチア雲母は白〜青白い片状集合体の曹長石を伴う場合が多く,カリウム長石(正長石,微斜長石)をあまり伴わない(リチア雲母はやや酸性の流体から形成されるため,カリウム長石とはあまり共生しない)。
一連のペグマタイトの形成過程では,リチウムペグマタイトは通常のペグマタイトよりも遅れて形成され,幅の広い通常のペグマタイト岩体の中央付近に形成されていることが多く,また,初期にできた淡肉色のカリウム長石を,白色や淡青色の曹長石と桃色のリチア雲母の共生体が交代していることもある(下写真)。


初期にできた淡肉色のカリウム長石を交代する,曹長石とリチア雲母からなるリチウムペグマタイト

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なお,リチア雲母は0.数%のルビジウム・セシウムも含み,それらの資源ともなる。そしてセシウム鉱物のポルサイトも伴うこともあり,これは石英に酷似している(X線粉末回折が有力な同定方法)。
このようなリチウムペグマタイトは世界各地に存在するが,大陸地域のジンバブエ・カナダ・オーストラリア・ブラジル・スウェーデンのものが規模が大きく,リチウム・ルビジウム・セシウム資源として重要である。
なお,リチウムペグマタイトは比較的,希土類元素に乏しく,コルンブ石や緑柱石を頻繁に産する。そのコルンブ石はニオブに対しタンタルに富む傾向があり,褐赤色のマンガンタンタル石もよく産する。また,緑柱石はリチウムやセシウムを含むことがあり,石英に酷似した白色や,桃色などのものもある。

リチア雲母 K(Al,Li)2(Si,Al)4O10(OH,F)2
岡山県総社市延原

桃色鱗片状〜片状で目立ち白〜淡青色の曹長石や灰色の石英を伴う。1%程度のルビジウム・セシウムを含むことがあり,それらの資源としても重要。時にほとんど白色で白雲母に似るものもある。


リチア電気石 Na(Li,Al)3Al6(BO3)3Si6O18(OH)4
茨城県妙見山

桃色や緑〜青色などで柱状やその集合体で目立つ。白〜淡青色の曹長石や灰色の石英を伴う。大きな透明感のある結晶体は宝石になる。

ペタライト LiAlSi4O10
ジンバブエ
 
白〜灰色塊状で長石類に似る。

アンブリゴナイト (Li,Na)AlPO4(F,OH)
福岡県長垂山

白色塊状で長石類に似る。

ポルサイト CsAlSi2O6
茨城県妙見山
 
白色塊状で石英に似る。セシウム資源として重要。



閃長岩ペグマタイト
閃長岩のマグマの固結に伴って形成される。石英を伴わず,緑黒色針状集合体のエジリン・白〜灰色のネフェリンや長石類などを主とし,それに青色のソーダライト・黄色のカンクリナイト・赤〜褐色のユーディアライト,褐色のランプロフィライトやアストロフィライト,黄白〜淡緑色のリン灰石などを伴い,アルカリ金属元素に富む鉱物が主である。著量のユーディアライトなどを伴うものはジルコニウム・希土類資源となり,リン灰石を多く伴うものはリン・希土類資源(Caを置換して含まれる)となる。なお,閃長岩ペグマタイトは,アルカリ金属元素・ジルコニウムなどを主成分とする希産鉱物の種類が多く,世界新種の鉱物も多産する。
ロシアのコラ半島,カナダ,北欧などの大陸地域に限って見られる。

ロシア コラ半島
灰白色の長石類やネフェリン・白色微粒集合体のリン灰石・緑黒色針状のエジリン・褐色板柱状のアストロフィライトからなり,リン灰石がリンや希土類資源となる。

スウェーデン ノラ産
灰白色の長石類やネフェリン・緑黒色のエジリン・赤色のユーディアライトからなり,ユーディアライトが希土類やジルコニウム資源となる。


ペグマタイトの風化物
ペグマタイトが侵食されると,その中の比重の高い,スズ石(少量のニオブ・タンタルを含み黒色不透明)や,希土類−ニオブ−タンタル鉱物(フェルグソン石,サマルスキー石,コルンブ石,ゼノタイム,モナザイト)などは河川底などの黒い砂礫(重砂,アマン)として濃集し,漂砂鉱床を形成する。東南アジア・マダガスカル・アフリカなどでは,重要なスズ・希土類・ニオブ・タンタルなどの資源となっている。
また,風化しにくい硬い宝石鉱物が集まっていることも多い。

重砂(アマン)
これは錫石を主とするもので,モナズ石・フェルグソン石・ジルコンなどをまじえる。ペグマタイトの錫石はしばしはニオブ・タンタルの含有率が数%に達して黒色不透明のものがある。
産出が多ければ,錫・ニオブ・タンタル・希土類資源として採掘対象となる。

宝石鉱物

ペグマタイトの風化帯ではその中の硬い宝石鉱物(トパーズ,水晶,ざくろ石,アクアマリン,リチア電気石など)が風化せずに,その砂利の中から見出されることが少なくない。宝石鉱床として採掘対象となっている地域も多い。