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層状マンガン鉱床   〔戻る〕

層状マンガン鉱床は,もともとは,海洋底で沈殿した二酸化マンガン(4価のマンガン)を主とするマンガン団塊やクラストなどである(下写真。変成していない層状マンガン鉱床)。コバルト・ニッケル・バナジウム・希土類・ストロンチウムなどに富む場合もある。二酸化マンガンを主体とするので,暗褐色〜黒色で比較的もろく,団塊状や厚い層状をなして海底を覆い,チャートの元である放散虫堆積物(ケイ質の軟泥)を伴う。これは,現在の太平洋・大西洋・インド洋などの海底でも生成しつつあり,その組織や組成,現在の海洋底での分布域などから,堆積鉱床に区分されるものの,実際は海底での火山活動に伴う低温熱水でもたらされたマンガン・コバルト・ニッケルなどが,砕屑物を核にして酸化物として沈着したものと考えられている。


マンガン団塊(太平洋北部の海底)
変成していない層状マンガン鉱床の主体をなす。二酸化マンガンを主とする鉱物(轟石やパイロリューサイトなど)が海底で砂粒などを核として成長したもの。これが水深3000〜4000mの大洋底の海底を部分的に覆うように密集している。マンガン以外にコバルト・ニッケル・バナジウム・希土類・ストロンチウムなどに富む場合もある。深海底に存在するため,現段階では大規模に採掘できる技術が確立していない。


変成していない層状マンガン鉱床が,プレートの動きで大陸縁辺部の付加体となり,その後,花こう岩などによる500〜600℃程度の接触変成作用を受けると二酸化マンガンの鉱物が変成し,緑マンガン鉱(MnO)・アレガニー石(2Mn2SiO4・Mn(OH)2)・テフロ石(Mn2SiO4)・バラ輝石(MnSiO3)などを主とする変成した層状マンガン鉱床になる(含まれるマンガンは変成作用で2価となっているものが多い)。一方,高圧型の広域変成作用を受けるとブラウン鉱(Mn2+Mn3+6O8(SiO4))・紅れん石(Ca2(Mn3+,Al)3O(Si2O7)(SiO4)(OH))などを主とする変成した層状マンガン鉱床になる(2価のほかに3価のマンガンも多い)。
これらの変成した層状マンガン鉱床には元の海底の堆積層である放散虫堆積物(チャート)が変化したケイ質岩を伴う場合が多く,接触変成作用を受けたものは変成したチャートであるケイ岩,広域変成作用を受けたものは変成したチャートであるケイ質片岩や紅れん石片岩が密接に伴われていることが多い。
なお,元の変成していない層状マンガン鉱床に少量成分として含まれていたコバルト・ニッケルは変成作用の過程で,微粒のサフロ鉱((Co,Ni)As2)や輝コバルト鉱((Co,Ni)AsS)などに,バナジウムは灰バナジンざくろ石(Ca3V2(SiO4)3)などに,ストロンチウムは紅れん石のカルシウムの代わりに含まれたり,原田石(SrVSi2O7)などになり,これらは,時々,バラ輝石などに伴って少量見られる。



接触変成作用による変成した層状マンガン鉱床の鉱石の例
群馬県黒川鉱山
海洋プレートの動きで日本付近(大陸縁辺部)にもたらされた層状マンガン鉱床が,その後,約7000万年前に花こう岩のマグマの熱で変成したもので,堅いバラ輝石(Rh)・テフロ石(Tep)・アレガニー鉱(Ale)を主とする。
なお,ケイ酸に乏しいテフロ石やアレガニー鉱は石英とは共生せず,その間には上写真のように必ず桃色のバラ輝石などが挟在している。このタイプの鉱床には他に黒色のハウスマン鉱や緑色の緑マンガン鉱などを伴うこともある。これらのマンガン鉱物は500〜600℃の高温ででき,2価のマンガンを主とするものが多い。鉱床はケイ岩(Qz)に密接に伴われていることが多い。
広域変成作用による変成した層状マンガン鉱床の鉱石の例 
愛媛県の三波川変成帯
海洋プレートの動きで日本付近(大陸縁辺部)にもたらされた層状マンガン鉱床が,プレートの沈み込みで地下20〜30qの深さにゆっくりと引き込まれ,高圧の変成作用を受けたもの。ブラウン鉱(黒)・紅れん石(暗紅)・石英(白)を主とする。バラ輝石(桃色)・テフロ石(緑灰)などを伴うこともある。これらのマンガン鉱物は400〜500℃ででき,2価のほかに3価のマンガンを主とする。鉱床はケイ質片岩や紅れん石片岩に密接に伴われていることが多い。




層状マンガン鉱床・海底熱水鉱床などに関係したプレート断面図
キースラガーや変成マンガン鉱床は,資源的見地のほかに,プレートテクトニクスの理解にとっても非常に重要な存在である