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気成鉱床    〔戻る〕

錫・タングステン・モリブデン・リチウム・ベリリウムなどの資源として重要。
花こう岩のもとになる珪長質マグマはその他のマグマに比べ,水分やフッ素などの揮発成分に富む。それが地下深部で固結するとペグマタイトができた後に約400〜500℃の高温の流体が生じる。このような374℃(水の臨界温度)を超える高温条件では,水は液体と気体(ガス)の区別があいまいな流体で,それは便宜上,気体(ガス)とされ,そのような高温の流体から形成された鉱床を気成鉱床という(※気成鉱床は岩石の割れ目にそのような流体が流入して鉱脈として形成される場合が多く,気成鉱脈鉱床(気成鉱脈)と称される場合も多い)。
気成鉱床は錫(錫石),タングステン(鉄マンガン重石),モリブデン(輝水鉛鉱)などの重要な鉱脈鉱床で,粗い石英や白雲母などが主要な脈石である。ほかに,自然ビスマスやホセ鉱などのビスマス鉱物や,硫砒鉄鉱や砒鉄鉱などの砒素鉱物などを伴うこともある。
なお,日本国内では,山陽地方などに見られる錫・タングステンを主とする気成鉱床はフッ素鉱物であるトパズや蛍石,ホウ素鉱物である電気石などを脈石として伴うことがしばしばである。一方,山陰地方などに見られるモリブデンを主とする気成鉱床にはそれらのフッ素鉱物やホウ素鉱物はあまり伴わない。この違いは錫・タングステン鉱床を形成させるチタン鉄鉱系花こう岩マグマはもともとフッ素やホウ素に富んでいるためマグマ固結末期にそれらが濃集してフッ素鉱物やホウ素鉱物ができやすく,モリブデン鉱床を形成させる磁鉄鉱系花こう岩マグマはそれらに乏しいためフッ素鉱物やホウ素鉱物ができにくいためである。

気成鉱床周辺の岩石には白雲母などの変質鉱物ができているが,特に花こう岩が変質すると,その中の長石類は白雲母+石英に分解し,グライゼンという岩石になる(下写真)。気成鉱床の鉱脈やそのそばのグライゼンには長石類は存在することが希なので,その鉱化流体はかなり酸性であったと考えられる。

例)花こう岩中のカリウム長石が,酸性の鉱化流体により,グライゼンの白雲母と石英に分解する反応
3KAlSi3O8    +   2H   → KAl2(AlSi3O10)(OH)2 + 6SiO2  + 2K
カリウム長石     水素イオン       白雲母         石英     カリウムイオン(流れ去る)
 
一方,ペグマタイト鉱床には長石類が多く伴われ,鉱化流体は気成鉱床よりも酸性度が低かったと考えられる。


グライゼン
岡山県倉敷市三吉鉱山

花こう岩が気成鉱床の形成の際,変質したもの。花こう岩の元の造岩鉱物のうちで,石英は変化しないが,長石類は細かい石英+白雲母に変質し,黒雲母は溶け去るか緑黒色斑点状の緑泥石になる。一般的なグライゼンは写真のように全体に灰白〜灰色細粒で石英+白雲母の組み合わせであり,その白雲母がきらきら光る。時に緑黒色斑点状の緑泥石のほか,無色のトパーズの微粒子,黒っぽい鉄電気石などを伴う。




錫−タングステン鉱脈を伴うグライゼン
チェコ ホルニスラブコフ(エルツ山地)

気成鉱脈に接する花こう岩は大抵,強い気成作用を受けグライゼンに変化している。この試料の上面の錫石(Cas)・鉄マンガン重石(Wf)・白雲母(Ms)・石英(Qz)などからなる面は気成鉱脈に沿って剥がれた面で,しばしばトパーズや蛍石などのフッ素鉱物なども伴う。このような錫−タングステンの気成鉱脈は世界的によく見られ,重要な錫・タングステン資源となっている。
チェコ−ドイツ国境のエルツ山地では13世紀ごろから盛んに銀や錫などが採掘され,その錫はこのような気成鉱床の錫石からのもので,ピューターなどの錫食器に加工された。そのエルツ山地のアルテンベルグ−チンワルド(シノベック)地域・クルプカ(グラウペン)地域は中世〜近代ヨーロッパにおいて,これと同様な鉱石を多産し,現在は世界遺産になっている。


●気成鉱床に伴う雲母類は白雲母に酷似したチンワルド雲母のことがあり(判別にはリチウムの化学分析が必要),それがリチウム資源となる場合がある(チェコのシノベック(=チンワルド),イギリスのコーンウォールなど)。

●気成鉱床と成因的に類似するペグマタイト鉱床は気成鉱床よりもやや高温条件であるマグマの固結直後に形成され(500〜600℃),構成鉱物は花こう岩の造岩鉱物と相似しており(石英のほかに長石類を多く伴う),かつ,コルンブ石などのニオブ・タンタル鉱物や,フェルグソン石などの希土類鉱物などを多く伴い,タングステン鉱物やモリブデン鉱物は少ないことで気成鉱床と区別される。ただし,緑柱石・チンワルド雲母・錫石などはいずれでも顕著に産しうる。

●気成鉱床形成後の流体は水の臨界温度(374℃)以下では熱水になり,熱水鉱床を形成するようになる。ただし,熱水鉱床はマグマから派生した水(マグマ水)に,地中を循環する地下水がマグマで温められた天水が多く混ざって形成されることが多い。そして,気成鉱床では硫化物として硫砒鉄鉱・ビスマス鉱物などが産することもあるが,その量はやや少ない。一方,熱水鉱床では銅・亜鉛・鉛などの硫化物(黄銅鉱,閃亜鉛鉱,方鉛鉱など)が多く伴われ,タングステン(鉄マンガン重石)・モリブデン(輝水鉛鉱)は少なくなる傾向がある。また,錫は熱水鉱床では錫石としてもよく産するが,黄錫鉱などの硫化物として産する場合も多い。


気成鉱床の鉱石の例
いずれも粗い白〜淡灰色の石英が主な脈石鉱物で,きらきら光る鱗片状の白雲母などを伴う。ペグマタイトに多い長石類は少ない。
錫・タングステン鉱床をもたらす花こう岩はフッ素やホウ素に富み,時にトパーズ・蛍石・電気石などを伴う。一方,モリブデン鉱床をもたらす花こう岩はフッ素やホウ素に乏しく,トパーズ・蛍石・電気石などは伴わないことが多い。


錫(錫石) SnO2
京都府鐘打鉱山
石英中に暗褐粒状をなすもの(写真中央やや右)。そのやや下に伴うチカチカ光るのは白雲母。


タングステン(鉄マンガン重石) (Fe,Mn)WO4
岡山県倉敷市三吉鉱山
黒い板状〜粒状で石英に埋没している。それに伴うきらきら光るのは白雲母。


トパーズ  Al2SiO4(F,OH)2
岡山県倉敷市三吉鉱山
錫やタングステンの気成鉱床にしばしば伴うフッ素の脈石鉱物で,モリブデンの気成鉱床にはあまり伴わない。
白や黄白色,緑白色の粒状集合体で,劈開面がキラキラ光り硬度が高い反面,ややもろい。時に緑色・黄色・紫色で軟質緻密なセリサイトなどの粘土鉱物に変質している場合もある。
石英に似るが石英はやや灰色がかっていることが多く,トパーズと石英が接しているときは明らかに色が異なって見える(写真中央全面はトパーズ,上部の灰色部は石英)。
スケール直上の黒粒は鉄マンガン重石。


モリブデン鉱石(輝水鉛鉱) MoS2
島根県小馬木鉱山
鉛灰色鱗〜板状で非常に軟らかい。灰色部は石英,白くキラキラ反射しているのは白雲母。


硫砒鉄鉱 FeAsS
岐阜県恵比寿鉱山
写真のように石英中に銀灰色の粒状集合体をなすほか,塊状のこともある。気成鉱床ではこれによく似た砒鉄鉱もよく産する。
熱水鉱床に比べ,気成鉱床中の硫化鉱物などは少ないが,硫砒鉄鉱,砒鉄鉱,黄銅鉱,磁硫鉄鉱,自然ビスマスなどをいくらか伴うことがある。