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鉱床
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普通の岩石中にわずかしか含まれない有用元素や有用鉱物(粘土鉱物など)が,採掘して利益が得られるほどに濃集している地質。
そして,それを採掘している場所を鉱山といい,掘り出された石のうち利用できる石を
鉱石という。

普通の岩石中の有用元素の存在状態と,鉱床の鉱石中の有用元素の存在状態の例

通常の岩石は有用元素を含んでいても含有率が低すぎたり,その中の鉱物から製錬できなかったりして,有用元素の鉱石として利用できない場合が多い。

鉄の例)
写真左の閃緑岩中の磁鉄鉱(矢印先)はその中にまばらにわずかに含まれるだけなので,鉄資源としては利用できない。また,この中の緑黒色の輝石類や角閃石類なども鉄を含むが,その鉄はケイ酸塩なので製錬できず利用できない。
写真右は代表的な鉄鉱石である縞状鉄鉱層で,黒い赤鉄鉱が赤いケイ質岩に多く挟まれて存在し,採掘して鉄資源として利用できるほどに濃集している。



マンガンの例)
写真左の紅れん石片岩中の赤色細柱状の紅れん石はマンガン含有率が低く製錬できず,また,岩石中にまばらに含まれているだけなので,マンガン資源としては利用できない。
写真右の硬マンガン鉱はマンガン含有率が数10%に達し,このようにまとまった塊状をなし,採掘してマンガン資源として利用できる。


地球表面(地殻)の岩石中の平均的な主な有用元素の含有率と,それぞれの鉱石中の含有率の例



※全体的にみると地殻における存在率の小さい元素ほど,鉱石での濃縮率(鉱石中の含有率/地殻の平均含有率)が大きい傾向がある。
※金属価格の変化や製錬技術などの変遷により,採掘される鉱石中の有用元素の含有率はかなり変化しうる。
※金・銀・白金・パラジウムなどの貴金属は,鉱石中の含有率は非常に低く,それは1tあたりの含有グラム数(単位はg/t)で表され,金の鉱石の金の含有率は2〜5g/t程度,銀の鉱石の銀の含有率は70g〜500g/t程度,白金やパラジウムの鉱石のそれらの含有率は1〜5g/t程度である (※1万g/t=1%,1g/t=1ppm)。




銅鉱石の例
銅を含む代表的な鉱物である黄銅鉱は銅を34.5%含むが,通常,銅鉱石中には黄銅鉱(Cpで示した金色部分)はまばらに含まれているだけなので,銅鉱石中の銅の含有率は0.2〜0.8%程度である。
鉛・亜鉛鉱石の例
鉛を含む代表的な鉱物である方鉛鉱(銀色)は鉛を86%含み,亜鉛を含む代表的な鉱物である閃亜鉛鉱(褐色)は亜鉛を約60%含むが,それらは通常,鉛・亜鉛鉱石中にまばらに含まれているだけなので,鉛・亜鉛鉱石中の鉛と亜鉛の含有率はいずれも1〜数%程度である。
白い部分は脈石鉱物である石英と方解石。


鉱石の例
金属などの有用元素を含む鉱石は,大抵は複数種の鉱物から構成され,そのうちで有用元素を含むことなどで利用できるものを鉱石鉱物,それ以外のものを脈石鉱物という。
※1つの鉱石に含まれる鉱石鉱物は複数種のこともある。
※鉱石鉱物中の元素には利用できるものと利用できないものとがある。例えば,黄銅鉱は銅と鉄と硫黄からなるが,利用できるのは銅で,鉄は硫黄があると製錬できず,その鉄は利用できない。そして鉱石鉱物の組み合わせではその有用元素が利用できない場合もある(例2の硫黄を含む銅鉱石中の磁鉄鉱など)。
※鉱石鉱物の微量成分が採掘対象となる場合も多い(例4の閃亜鉛鉱中の0.数%以下のインジウム・ガリウム・ゲルマニウムなど,例8の磁鉄鉱中のバナジウムなど)。
※製錬技術の向上により,鉱石として利用できなかった鉱物が鉱石鉱物になる場合もある。
※金・銀・白金族元素などの貴金属の鉱石鉱物は肉眼で見えない微粒子のことが多い。
※鉱床から産する鉱物には有用元素を含んでいても鉱石にならないものも多い(スカルン鉱床からは錫のケイ酸塩であるマラヤ石や含錫灰鉄ざくろ石が産するが,それらは製錬できないので,錫資源としては利用できない。バナジン鉛鉱はバナジウムの含有率が12%に達し,見栄えがするが,産出が少なく,バナジウム資源として利用されない)。


例1)銅鉱石(銅鉱)

黄銅鉱(金色)−銅の鉱石鉱物
石英(灰色)−脈石鉱物


例2)銅鉱石(銅鉱) 
同じ有用元素(銅)の鉱石鉱物が複数種ある例

斑銅鉱(紫色)−銅の鉱石鉱物
黄銅鉱(金色)−銅の鉱石鉱物
磁鉄鉱(灰黒)−鉄の鉱石鉱物(ただし,斑銅鉱や黄銅鉱などの硫黄が鉄の製錬を妨害するので,このように硫化鉱物を伴う磁鉄鉱は鉄資源として利用できないことが多い)
石英(灰白)−脈石鉱物


例3)金鉱石/金銀鉱石 (金鉱/金銀鉱)

同じ鉱石に複数種の有用元素が含まれる例

自然金と輝銀鉱の微粒集合体(黒色)−金・銀の鉱石鉱物
石英・氷長石(白)−脈石鉱物

※金と銀は同じ鉱石に一緒に含まれている場合が多く,金鉱石は金銀鉱石(金銀鉱)とも呼ばれることが多い。その中の金や銀の鉱石鉱物は肉眼で見えることは極めてまれで,顕微鏡でかろうじて確認できる程度である。

例4)鉛・亜鉛鉱石(鉛亜鉛鉱) 
同じ鉱石に複数種の有用元素が含まれる例


方鉛鉱(銀色)−鉛の鉱石鉱物
閃亜鉛鉱(褐色)−亜鉛の鉱石鉱物(時に0.数%以下のインジウム・ガリウム・ゲルマニウムなどを含み,それらの鉱石鉱物となる場合もある)
石英・方解石(白)−脈石鉱物

※鉛と亜鉛は同じ鉱石に一緒に含まれている場合が多い。


例5)錫鉱石(錫鉱)

錫石(Cas)−錫の鉱石鉱物
石英(Qz)−脈石鉱物




例6)錫・タングステン・銅鉱石(錫・タングステン・銅鉱) 
同じ鉱石に複数種の有用元素が含まれる例


錫石(Cas)−錫の鉱石鉱物
鉄重石(W)−タングステンの鉱石鉱物
黄銅鉱(Cp)−銅の鉱石鉱物
斑銅鉱(Bn)−銅の鉱石鉱物
石英(Qz)−脈石鉱物
火砕岩(MR)−母岩(鉱床周辺の岩石)

※このように1つの鉱石に3種以上の有用元素が含まれる場合も少なくない。


例7)モリブデン鉱石(モリブデン鉱)

輝水鉛鉱(Mo)−モリブデンの鉱石鉱物
石英・白雲母(白〜淡灰色)−脈石鉱物

※輝水鉛鉱には0.数%以下のレニウムが含まれることもあり,それも回収され,レニウム資源ともなる。


例8)鉄・バナジウム鉱石(鉄・バナジウム鉱) 
主成分の有用元素(鉄)と,微量成分(0.数%程度)の有用元素(バナジウム)が一緒に利用される例

磁鉄鉱(黒)−鉄とバナジウムの鉱石鉱物


例9)アルミニウム鉱石(アルミニウム鉱)
ボーキサイト。水酸化アルミニウムの鉱物である微細なギブサイトやベーマイトの緻密集合塊。

鉱石鉱物−ギブサイトやベーマイト


例10)ケイ長石

ケイ長石は粗い石英と長石の総称で,その石英はガラス原料,長石は窯業原料にされる(有用元素の抽出が目的とならず,それらの鉱物がそのまま利用される例。ただし,石英は半導体原料のケイ素が有用元素としての抽出対象となる場合もある)。


例11)ろう石

全体がパイロフィライトやカオリン鉱物の集合体。有用元素の鉱石ではなく,パイロフィライトやカオリン鉱物がそのまま耐火材として利用されるものである。


例12)石膏

有用元素の鉱石ではなく,この石膏そのものが各種石膏ボードやギブスなどの原料となる。これは全体が石膏の集合体。