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---------  他色を示すことが多い鉱物  -------- 〔戻 る〕

自色が無色で透明な鉱物には他色を示すものが多い。
特に典型元素だけを主成分とする各種の酸化鉱物・炭酸塩鉱物・硫酸塩鉱物・ケイ酸塩鉱物などの大部分は自色が無色で,他色を示すものが多い(苦土かんらん石(Mg2SiO4),緑柱石(Be3Al2Si6O18などは自色は無色だが,自色のものはあまり産出せず,大抵,色づいて他色になってい る)。他色の鉱物は,比較的,透明度が良 く,条痕色が白いことが多い(他色の鉱物は色があっても,粉末にすると色が見えなくなり,白くなる)。
これらの鉱物は色はあまり同定の手がかりにならない。

ルビーとサファイアの色 石英の色 ほたる石の色
コランダム 石 英 蛍 石


他色になる原因としては,以下のようなものなどがある。

1.微量成分が含まれることによるもの(同形置換による微量成分の存在)

2.原子(特に陰イオン)の欠損によるもの

3.自然界の放射性物質やγ線(放射線)によるもの

4.微粒子不純物によるもの
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1. 微量成分が含まれることによるもの(同形置換によ る微量成分の存在

 これは他色の着色原因としては最も多く,遷移元素(バナジウム・クロム・マンガン・鉄・銅など)を微量成分として含むことによる。
 宝石としてよく知られているコランダム(ルビー,サファイア,パパラッチャ),緑柱石(エメラルド,アクアマリン,ヘリオドール,モルガナイト)などの色もこれが原因である。
 なお,この着色は鉄(Fe)が原因であることが最も多い。鉄は地殻には酸素・ケイ素・アルミニウムに次いで多く存在し,2価(Fe2+)および3価(Fe3+)の状態で,各種の造岩鉱物のマグネシウム(Mg2+)・カルシウム(Ca2+)・アルミニウム(Al3+)などの典型元素を置き換えて含まれ,赤・桃・緑・褐・黄などの着色原因となる。


例) コランダム(自色は無色。酸化アルミニウム Al2O3の着色 

ルビーとサファイアの色
  赤色のコランダム(ルビー)はアルミニウム(Al3+) の代わりに微量成分として0.5〜1%程度のクロム(Cr3+)が含まれ(同形置換),そこで赤以外の光が吸収さ れて赤く見える。
 青色のコランダム(サファイア)はアルミニウム(Al3+)の代わりに微量成分として0.5〜1%程度の2価の鉄(Fe2+)とチタン(Ti4+)が入り(同形置換),そこで鉄の電子が1つチタンの近くに移動し,そこで青以外の光が吸収さ れて青く見える。(※この同形置換では2つのAl3+が, Fe2+とTi4+の 組合せに置き換わる(2Al3+ → Fe2+ + Ti4+)。このような鉄とチタンといった複数種の原子による同形置換は結晶全体の電荷が中性に なるように左辺と右辺の電荷(この場合はそれぞれ計6+)がつり合うように起こる。これを「対置 換」ということがある)
クロムによる鉱物の発色
 クロムなどの遷移元素による発色は,含まれる鉱物の種類で異なる。上 の写真では,灰れん石が少量のクロムを含むと鮮緑色になり,コランダムが少量のクロムを含むと赤色(ルビー)になっている様子が分かる。
 また,緑柱石(Be3Al2Si6O18)にク ロムやバナジウムが1%程度含まれると,鮮緑色になり,宝石名でエメラルドと呼ばれるものになる。
(※通常の地球内部の環境では,クロムは3+の電 荷をも つ原子(イオン)なので,同じ3+の電荷で大きさが近いアルミニウム原子(イオン)を同形置換して鉱物に含まれることが多い)

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2.原子(特に 陰イオン)の欠損によるもの

  これは鉱物を構成している原子のうちで,陰イオンが局部的に欠損している部分に電子が捕捉され,そこで光の吸収が起こり,発色しているものである。

 この
発色は,特に,蛍石や岩塩など,ハロゲン(フッ素(F),塩素 (Cl),臭素 (Br),ヨウ素(I))を主 成分とするハロゲン化鉱物によく見られ,その陰イオンであるハロゲンがわずかに欠損し,その部分に電子が捕捉されて青・紫・桃色に発色することが多く,加熱や日光などで退色すること が多い。


例) 岩塩(自色は無色。塩化ナトリウム NaCl)の着色
 岩塩の着色


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 他には,
錫石(酸化錫 SnO2),ルチル・アナターゼ・ブルッカイト(互いに多形で酸化チタン TiO2)などの酸素原子(O2-)がわずか に欠損し,その部分に電子が複数捕捉されて光 の吸収が起こり,褐〜黒色になっている場合もある。 これらは通常の加熱や日光などでは退色しないが,高い酸素濃度の気流中で加熱すると酸素が原子配列の欠損部に充填されて退色する。

(例)錫石黒色の錫石
自色は無色だが,酸素原子のわずかな欠損で暗褐〜黒色になることがある。
(例)ルチル
褐色のルチル
矢印の先の柱状結晶。自色は無色だが,酸素原子のわずかな欠損で暗褐色になることがある。

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3.自然界の放射性物質や放射線(γ線)によるもの

これは主に以下の場合で着色するが,他の着色原因に比べ,例としては少ない。

@ トリウム・ウラン・それらの娘核種のα崩壊,および,238U(質量数238のウラン)の自発核分裂のため,原子配列が乱れ,そこで光の吸収が起こり,発色する。
                                                                                         → 例:ジルコン(下図@)。

A 鉱物中の特定の原子の周りの電子状態が放射線(γ線)の影響で変化することで光の吸収が起こり着色する。
                                                     → 例:花こう岩や流紋岩中の石英の灰色の着色原因(下図A)。

@238U(質量数238のウラン)の自発核分裂で原子配列が乱れてジルコンが着色する様子
(※原子配列はイメージとして簡略化している)
ジルコンのメタミクト化の様子


 ジルコンは主成分であるジルコニウム(Zr)の代わりに同形置換でウラン(U),トリウム(Th) などの放射性元素を少量含む。その中で質量数238のウラン(238U)は自発核分裂を起こし,2個の原子(テクネチウム99(99Tc) など)に分かれる。 その際の原子の運動で近くの原子配列が乱され(格子欠陥が生じる),そこで光の吸収が起こり,褐色や緑色がかってくる。このジルコンはできた当初は淡色だが,数1000万年〜10数億年という長い年月の間に徐々に238Uの自発核分裂による格子欠陥(光の吸収部)が増え,濃色になっていく(この格子欠陥の数とウラン含有率から鉱物のできた年代を知る方法をフィッショントラック法という)。
 このジルコンを,1000℃程度に数時間加熱すると再結晶化して,原子配列が元に近い状態に戻り,色は淡くなる。

※なお,この着色原因である原子配列の乱れの発生は,上図のウラン238238U)の自発核分裂よりも,トリウム・ウラン・それらの娘核種のα崩壊による影響が大きい(陽子2・中性子2からなるα粒子(ヘリウムの原子核に相当)の放出と反跳核(娘核種)の動きで原子配列が破壊される)。


A石英の例
石英の放射線による色の変化

 花こう岩に微量に含まれるウラン,トリウムなどの放射性元素からでる放射線(γ線)の影響で,その中の石英はわずかに含まれるアルミニウム原 子の電子状態が変わることで光の吸収を起こし,灰色がかることが多い。この石英はできた当初は無色だが,長い年月にわたるγ線の影響で徐々に光の吸収部が 増え,無色→淡灰色→灰→黒色になっていく(一般に,古い時代の花こう岩ほどその中の石英は暗色である(黒色に近い))。


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4.微粒子の不純物によるもの

 これは別の鉱物の微粒子が不純物として混ざり込むことで着色している ものである。したがって,この着色原因のものは半透明〜不透明で,透明なものはない。
 特に宝石として知られている碧玉・めのう(石英)の色はこの着色原因によっている。



無色の石英
石英の自色は無色
碧玉
酸化鉄の微粒子を含み赤色の石英(左)と,海緑石の微粒子を含み暗緑色の石英(右)。宝石名で,前者は「赤碧玉」,後者は「碧玉」・「青めのう」などと呼ばれている。いずれも色は微粒子の不純物によるもので,不透明。

赤色のメノウ
宝石として用いられる各色の「めのう」は,緻密な石英に酸化鉄などの微粒子 が混ざったものである。無色のめのうの石英粒子のすき間に人為的に酸化鉄などの不純物をしみ込ませて着色することもできる。半透明。
碧玉の酸化鉄による着色碧玉のセラドン石による着色
めのうの酸化鉄による着色
左は上の「赤碧玉」の薄片の顕微鏡写真で,0.001〜0.003mm程度の赤い酸化鉄の微粒子が多く入っており,そのために赤く着色していることがわかる。
右は「碧玉」・「青めのう」の薄片の顕微鏡写真。0.01mm以下の糸くず状のセラドン石の微粒子が多く入っており,そのために緑色に着色していることがわかる。
上のオレンジ色の「めのう」の薄片の顕微鏡写真。0.001mm以下の赤い酸化鉄の微粒子がまばらに入っており,そのためにオレンジ色に着色していることがわかる。