四面銅鉱(砒四面銅鉱 tennantite−安四面銅鉱 tetrahedrite) Cu10(Fe,Zn)2(As,Sb)4S13 等軸晶系  [戻る]

反射色は灰色で,複雑な固溶体を形成し,Cu⇔Ag,Cu⇔Hg,Fe⇔Zn,Sb⇔As,(As,Sb)⇔Bi,(As,Sb)⇔Te,Cu⇔(Fe,Zn)などの多様な置換が起こりやすい。反射色は灰色系だが,Znが多くなると緑色味を帯び緑灰色となる(Znを多く含むものでもBiに富むものは緑色味がない)。また,Fe・Sbに富み,Zn・Asに極めて乏しいものは少し褐色味を帯び,褐灰色となる。なお,カーロール鉱と類似するが,カーロール鉱はスピネルと同じ密な原子配列なので自形〜半自形のことが多い(四面銅鉱は他の鉱物と接する場合,自形になることは少ない)。
低温〜中温の熱水鉱床にやや普通に産し,伴われる硫化鉱物は黄鉄鉱・黄銅鉱・閃亜鉛鉱・方鉛鉱など。
浅熱水成金銀鉱脈中のものは自然金・ピアース鉱などと共生し,数wt%以上の著量のAgを含み,銀四面銅鉱という。これは大抵,As<<SbかつZn<Feである。これは結晶構造中にAgのようにイオン半径が大きい原子が多量に含まれると結晶格子が膨張することでAs3+よりもイオン半径の大きなSb3+が入りやすくなるためである。
Teの固溶は酸化的な環境でTeが+4価となってAsやSbを置換して起こる(なお,還元的な環境下では,たとえ各種のTe鉱物と一緒に晶出してもTeは+4価とならず四面銅鉱には含まれない)。著量のTeを含む四面銅鉱はゴールドフィールド鉱(goldfieldite Cu12Te2(As,Sb)2S13)といい,自然テルルやシルバニア鉱,ステイツ鉱,リッカード鉱などと共生し,しばしば著量のAgを含んでいる。ゴールドフィールド鉱は(As,Sb)3+→Te4+の置換による原子価調整で,(Fe2+,Zn2+)→Cuの置換が起こり,Fe・Znをあまり含まない。
なお,一般的に流体中の硫塩基(As,Sb)S33-は還元的かつ高温条件では不安定なので,四面銅鉱のような硫塩鉱物は気成鉱床〜高温熱水鉱脈にはあまり産しない。たとえば気成鉱床〜高温熱水鉱脈では砒四面銅鉱の代わりに硫砒鉄鉱+黄銅鉱の組み合わせが出現する(山陽地方の高温鉱床では硫砒鉄鉱+黄銅鉱の組み合わせが普通だが,本州〜北海道日本海側の浅熱水鉱脈や黒鉱鉱床などではそのかわりに砒四面銅鉱が普通)。

反射色/普通は灰白色(特にZnに富むものは緑灰色,特にFe・Sbに富むものは褐灰色)
反射多色性/なし
異方性/なし
反射率(λ=590nm)/30−33%
ビッカース硬度(kgf/mm2)/250−425
内部反射/Znが多いものにはまれに暗紅色の内部反射が認められるが,通常は認められない。



普通の四面銅鉱 北海道手稲鉱山/Cu10(Zn,Fe)2(As,Sb)4S13
熱水鉱脈鉱床中。普通の四面銅鉱はこのように特徴のない灰色。自形を示すことは少なく,不定形をなす。
Tet:四面銅鉱,Qz:石英

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検鏡試料:石英・四面銅鉱を主とする灰色の鉱石



鉄に乏しく亜鉛に富む四面銅鉱 秋田県深沢鉱山/Cu10Zn2(As,Sb)4S13
黒鉱鉱床中。Feに乏しくZnに富む四面銅鉱はこのように明らかに緑味を帯び,緑灰色を呈する(閃亜鉛鉱(Sp)より緑味があり,やや明るい)。
Tet:四面銅鉱,Sp:閃亜鉛鉱,Gn:方鉛鉱,Py:黄鉄鉱,Cly:粘土鉱物



鉄・アンチモンに富む四面銅鉱 兵庫県中瀬鉱山/Cu10Fe2Sb4S13
熱水鉱脈鉱床中。Fe・Sbに富み,Zn・Asに乏しい四面銅鉱はわずかに褐色を帯び,褐灰色を呈する。なお,写真のものは約10wt%の銀を含む。
Tet:四面銅鉱,Nks:中瀬鉱,Sp:閃亜鉛鉱,Qz:石英
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検鏡試料:石英質。白く反射する輝安鉱・ベルチェ鉱・銀四面銅鉱が散在

 

 



銀四面銅鉱(Tet) 北海道千歳鉱山/平行ニコル
浅熱水成金銀鉱脈の銀黒部分に含まれる四面銅鉱は自然金や各種銀鉱物を伴い,数wt%以上の著量のAgを含むことが多く,銀四面銅鉱という。これはAs<<Sb,かつ,Zn<Feのことが多い(反射色は褐灰色)。
なお,Agが特に多く含まれ,原子比でCu<Agのものはフライバージャイト(freibergite)というが,それに該当するものは産出がまれ。
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検鏡試料:銀黒縞を伴う石英質の金銀鉱石の銀黒部分




ゴールドフィールド鉱(Gf) 鹿児島県入来鉱山平行ニコル
浅熱水成金銀鉱脈中。一般的に浅熱水成金銀鉱脈を形成する熱水はやや酸化的で,その熱水中のTeは一部が4価となり,それは四面銅鉱に顕著に含まれることがある。そのような四面銅鉱はゴールドフィールド鉱という(写真の多くを占める灰色部分。Gf)。
なお,写真の明るい白色〜クリーム色の微粒子(Sy・Te)は自然テルルやシルバニア鉱。
Gf:ゴールドフィールド鉱,Sy・Te:シルバニア鉱・自然テルル,Py:黄鉄鉱,Qz:石英
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検鏡試料:微粒の黄鉄鉱を含む灰色緻密な石英質鉱石中の,灰色の金属光沢がある薄い縞状部分