閃亜鉛鉱 sphalerite (Zn,Fe)S 等軸晶系  [戻る]

灰色。斑点状の孔が見られることが多いが,ほぼ平滑な研磨面が得られる。普通は錆びにくいが,急激に沈殿してできたコロフォルム状・縞状のものはやや錆びやすく,虹色になった後,硫酸亜鉛の白色粉末に変化しつつ研磨面が崩壊する。集片双晶をなすことがあるが等方体なので光学的には確認できない。
世界で採掘されている亜鉛鉱石のもっとも主要なもので,初生鉱物として広く見られる。正マグマ鉱床からはあまり産しないが,その他の金属鉱床からは幅広く産出する。黄鉄鉱,磁硫鉄鉱,黄銅鉱,斑銅鉱,方鉛鉱,硫砒鉄鉱,四面銅鉱,各種金銀鉱物,磁鉄鉱,赤鉄鉱など多くの鉱物と共生しうる。
Znを置換してFe,Mn,Cdなどをかなり含みうる。特にFeは原子比でZn:Fe=2:1程度まで含まれうる。Feの含有率が高まると反射率がわずかに高くなるが,白っぽく見えるほどにはならない。内部反射はFeが約1%以下のものは白〜黄色,数%に達すると褐赤褐〜暗褐色,約10%以上含まれると認められないことが多い。高温条件でできたものは10%以上のFeを含むことも多く,その場合,磁硫鉄鉱と共生することが多い。しかし高温条件でも斑銅鉱のようなCuに富む硫化鉱物と共生する場合はFeが銅の硫化鉱物に吸収されるため,閃亜鉛鉱のFe含有率は10%以上に達することは少ない。
一方,高圧条件ではFeの含有率は下がる。特に高圧条件でできたキースラガー中の閃亜鉛鉱のFe含有率は1%以下のことが多い。 なお,錫を伴う熱水鉱脈中の閃亜鉛鉱は0.数%程度のインジウム・銅を含む場合が多い(インジウム銅鉱成分のわずかな固溶)。
基本的な結晶構造を同じくする黄銅鉱とは平行連晶組織をなすことが多く,その場合,結晶内部に黄銅鉱の0.数〜数μm程度の斑点を含む(その黄銅鉱の斑点は「病変状黄銅鉱」と呼ばれる)。これは熱水鉱床の鉱石によく見られる。
一方,高温でできた黄銅鉱中には星型の離溶体として見られることがあり,これは高温でのCu-Fe-S系の中間固溶体(iss)がZnを固溶しうることを示している。

反射色/灰
反射多色性/なし
異方性/なし
反射率(λ=590nm)/17−20%
ビッカース硬度(kgf/mm2)/128−276
内部反射/Feが約1%以下のものは白〜黄色,数%に達すると褐赤褐〜暗褐色,約10%以上含まれると認められないことが多い。



鉄の含有率が約1%以下の閃亜鉛鉱(Sp)の内部反射 兵庫県朝日鉱山
浅熱水成金銀鉱脈中。内部反射は白〜黄色に近く,光源の光が弱くてもわかる。浅熱水鉱脈中の低温生成のものはこのようにFe含有率が1%以下のものが多い。



鉄の含有率が数%の閃亜鉛鉱(Sp)の内部反射 ペルー ウチュクチャクア鉱山
中温の鉛−亜鉛−銀の熱水鉱脈中。内部反射は褐色〜赤褐色で,光源の光が弱いとわかりにくい。なお,鉄を約10%以上含むものは内部反射を示さないことも多い。
Sp:閃亜鉛鉱,Ag:自然銀,Qz:石英




閃亜鉛鉱(Sp) 鹿児島県錫山鉱山
平行ニコル
高温の熱水鉱脈鉱床中。酸化鉱物である錫石(Cas)ほど暗くないが,鉄の硫化物である磁硫鉄鉱(Po)よりもはるかに暗い。このように磁硫鉄鉱を伴う閃亜鉛鉱はFe含有量が10%以上に達することが多い。
Sp:閃亜鉛鉱,Po:磁硫鉄鉱,Cas:錫石



閃亜鉛鉱(Sp) 兵庫県生野鉱山
平行ニコル
熱水鉱脈鉱床中。亜鉛・銅・鉄・硫黄は熱水鉱床ではありふれた元素で,よく一緒に閃亜鉛鉱と黄銅鉱という組み合わせとして沈殿する。その場合,上写真のように閃亜鉛鉱(灰色)中に黄色微粒状の黄銅鉱が点在している平行連晶組織をなすことが少なくない(「病変状黄銅鉱」)。この組織は,熱水鉱床であれば鉱脈鉱床以外でもよく見られる。


閃亜鉛鉱(Sp) 兵庫県夏梅鉱山平行ニコル
熱水鉱床中。4面体の自形の断面で3角形を示す。成長過程で多量の黄銅鉱の微粒子を平行連晶で包有している(「病変状黄銅鉱」)。
なお,このようなはっきりした自形の閃亜鉛鉱はやや少ない。
Sp:閃亜鉛鉱,Cp:黄銅鉱,Gn:方鉛鉱


閃亜鉛鉱(Sp)
 秋田県餌釣鉱山
平行ニコル

黒鉱鉱床ではこのように閃亜鉛鉱は方鉛鉱(Gn),黄銅鉱(Cp),四面銅鉱(Tet),重晶石(Ba)などと密に組み合った細粒不定形をなすことが多い。また,方鉛鉱・黄銅鉱・黄鉄鉱などとともに球状集合体(フランボイダル組織)をなすこともある。
Sp:閃亜鉛鉱,Cp:黄銅鉱,Tet:四面銅鉱,Gn:方鉛鉱,Ba:重晶石


閃亜鉛鉱(Sp) 愛媛県佐々連鉱山平行ニコル
キースラガーにも閃亜鉛鉱は黄鉄鉱の粒間を満たす他形で頻繁に含まれる。見落としやすいが,角閃石類などの珪酸塩鉱物よりも明るい。通常,閃亜鉛鉱は熱水鉱床では方鉛鉱と共生することが多いが,キースラガーには方鉛鉱は希である。
写真のものは変成作用の際,高圧条件で再結晶化した閃亜鉛鉱でFe含有率は1%以下。
Sp:閃亜鉛鉱,Cp:黄銅鉱,Py:黄鉄鉱

黄銅鉱中の離溶相としての閃亜鉛鉱(Sp) 山口県大和鉱山/平行ニコル
スカルン鉱床には磁硫鉄鉱などに伴い,Feを多く含む閃亜鉛鉱が多産する。また,このように黄銅鉱中に星型の離溶組織をなす閃亜鉛鉱もまれに見られる。これは約400℃で,視野全体が少量の亜鉛を含む中間固溶体(iss)であったが,温度低下でissに硫黄が加わり黄銅鉱ができるとともにその中に十字形の閃亜鉛鉱を離溶したもの。この組織は高温生成の銅鉱床に限って見られる。
Sp:閃亜鉛鉱,Cp:黄銅鉱