自然金 gold (Au,Ag)  等軸晶系  [戻る]
自然銅・自然銀と同構造

非常に明るく,黄色系の色。硬度が低く,研磨時の擦痕がよく見られる。約50μm以上の大粒のものは,表面が荒れた感じの研磨不良になることが多い。金鉱石に見られるものの,一般的には金鉱石1tあたりの金の含有量は数g以下なので,1つの研磨片に数〜10μm程度のものが1〜2粒程度見られる程度。複数の研磨片を観察して1粒しか見つからないこともある。
他形のことがほとんどで,自形はまれ。硫化鉱物に接する部分は丸みを帯びることが多く,石英などの脈石鉱物に接する場合はその隙間を埋めるような角張った形になることが多い。自然銀とは違い,方解石などの炭酸塩鉱物とはあまり共生しない。

0.3mmに達する粗大な自然金(Au)。Agを20wt%程度含むもの。このような粗い金粒は平滑な研磨面を得るのが難しく,多数の線状や点状の傷が多く入り,荒れたように見える。硫化鉱物(Tet:銀四面銅鉱)に接する部分は丸みを帯び,石英(Qz)に接する部分は角張っている。
Sb:輝安鉱,Tet:銀四面銅鉱,Qz:石英。
兵庫県中瀬鉱山産 平行ニコル

自然金の大部分は自然銀との固溶体(合金)で,銀を多く固溶するものほど反射色が白っぽく,かつ,反射率が高くなり明るくなる(原子比でAu:Ag=80:20〜20:80のものをエレクトラムということがある)。なお,原子比でAu<Agのものは自然銀であるが,便宜的にそのようなものも金を含めば一括して自然金と呼ばれている。銀に乏しいものは錆びにくいが,銀を多く含むものは錆びやすく,短期間で虹色や青色などになる。また,時に輝銀鉱・輝安銀鉱などの銀鉱物に接する場合,その境付近の銀含有率が下がり濃黄色になっていることがある。これは自然金ができた後,銀鉱物がそれに接して成長する際,自然金から銀を吸い取ったためである。
銀に富むものは浅熱水鉱床に多い傾向があるが,浅熱水鉱床でもAg約25wt%未満のものはしばしば産する。一方,深熱水鉱床からは銀に乏しい濃黄色のもの(Ag約25wt%未満)だけが産することが多い。なお,カラベラス鉱・クレンネル鉱・ペッツ鉱などの金のテルル化鉱物と共生する自然金は相関係から,Agが原子比で約30%以下の濃黄色のものである。そして,それらの金のテルル化鉱物が二次的に分解してできた自然金は純金に近いもの(橙黄色)が多い。
銀以外に,著量の銅・ビスマス・水銀・パラジウムなどを固溶するものもあるが,産出は希。
自然金は金銀鉱石以外にも,微小な粒として黒鉱鉱床・鉱脈鉱床・斑岩銅鉱床などの銅・鉛・亜鉛鉱石などに見出されることがある。

反射色/濃黄〜淡黄(銀に富む程,淡色)
反射多色性/なし
異方性/なし
反射率(λ=590nm)/70〜90%(銀に富む程,高く,明るい)
ビッカース硬度(kgf/mm2)/41−94(金銀の中間組成のものはやや硬度が高く,端成分に近づくと硬度が下がる)
内部反射/なし

electrum tarnish法

下写真のように,自然金−輝銀鉱(Seを含まないもの)−閃亜鉛鉱− Fe-S系鉱物(黄鉄鉱・磁硫鉄鉱など)が共生している場合,EPMA分析で自然金のAg含有率・閃亜鉛鉱のFeS含有率が判れば,それを含む鉱石の生成温度と熱水中の硫黄の活動度(aS2)を知ることができる。右図の赤線:自然金のAg含有率(at%)と,青線:閃亜鉛鉱のFeS含有率(mol% )との交わったところが,鉱石の生成温度(℃)と熱水中の硫黄の活動度(log aS2)である。


兵庫県大身谷鉱山の金銀鉱石中の自然金−輝銀鉱−閃亜鉛鉱−黄鉄鉱共生体
この自然金は原子比でAu:Ag=30:70,閃亜鉛鉱はFeS含有率が1.0mol%程度の組成を持つ。したがって右図からこれを含む鉱石の生成温度は190℃,log aS2=-15程度の生成条件であることが分かる。
自然金:Au,輝銀鉱:Arg,閃亜鉛鉱:Sp,黄鉄鉱:Py,黄銅鉱:Cp,石英:Qz


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自然金の銀含有率による反射色の違い

自然金は大抵,自然銀との固溶体(合金)であり,銀を多く固溶するものほど,反射色が白っぽく,かつ,反射率が高くなり明るくなる。


銀が5wt%未満のもの(橙黄色)
熱水鉱脈鉱床中/チリ エル インディオ鉱山

銀が30〜40%wt程度のもの(Au:黄色)
浅熱水成金銀鉱脈中/北海道光竜鉱山
Cp:黄銅鉱,Sp:閃亜鉛鉱,Gn:方鉛鉱,Qz:石英

銀が60wt%のもの(Au:淡黄色)
浅熱水成金銀鉱脈中/福島県高玉鉱山
Ai:アグイラ鉱,Qz:石英

銀が100wt%のもの(Ag:クリーム色)
浅熱水成金銀鉱脈中/兵庫県旭日鉱山
Ai:アグイラ鉱,Qz:石英

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深熱水成金鉱床中の自然金(Au) カナダ オンタリオ州/平行ニコル
約30億年前の始生代のグリーンストン帯の金鉱床は,南アフリカ・カナダ・オーストラリアにあり,深熱水成のものが多く,鉱床の数は少ないが,規模が大きい傾向がある。その鉱石中の自然金はこのように銀に乏しい濃黄色(Ag約25wt%未満)で,かつ,0.1mmに達する粗粒なものも多い。そして銀鉱物を伴うことは少ない。その石英はガラス光沢のある粗いもので,浅熱水成金銀鉱脈の石英のようにケイ酸ゲルとして沈殿したものが結晶化した乳白色緻密なものとは異なる。
Au:自然金,Py:黄鉄鉱,Qz:石英
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検鏡試料:緑色岩の破砕部に石英脈ができているもの。ガラス光沢がある粗く白い石英中にルーペで分かる粗い自然金が見られる。赤味を帯びた部分は緑色岩(グリーンストン)が熱水変質して微細な赤鉄鉱ができている部分で,著量の黄鉄鉱が散在している(この部分にもわずかに自然金が見られる)。





浅熱水成金銀鉱脈中の自然金(Au) 北海道光竜鉱山/平行ニコル
浅熱水成金銀鉱脈中の銀黒鉱石の研磨面。銀黒鉱石には黄銅鉱・黄鉄鉱・閃亜鉛鉱・方鉛鉱の他,多種の銀鉱物を伴うことが多い。自然金の明るさに比し,周囲の硫化鉱物は暗く沈んで見える。
これは銀が30〜40 wt%のもので黄色。
Au:自然金,Pc:ピアース鉱,Py:黄鉄鉱,Cp:黄銅鉱,Sp:閃亜鉛鉱,Gn:方鉛鉱,Qz:石英
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検鏡試料:氷長石・石英・スメクタイトを主とし,累被組織がある金銀鉱石中の縞状の銀黒部分




浅熱水成金銀鉱脈中の自然金(Au) 福島県高玉鉱山/平行ニコル
浅熱水成金銀鉱脈中の銀黒鉱石の研磨面。銀が多くなると白っぽく,かつ,明るくなる。そして錆びやすく,酸化皮膜で虹色や青色などになる。これは銀が60wt%のもので淡黄色。浅熱水成金銀鉱脈にはこのように銀に富む淡黄色の自然金も多い。
Au:自然金,Ai:アグイラ鉱,Qz:石英
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検鏡試料:氷長石・石英を主とし累被組織がある金銀鉱石の,褐色の流紋岩との盤際に沿った縞状の銀黒部分




浅熱水成金銀鉱脈中の自然金(Au) 鹿児島県菱刈鉱山本鉱床 芳泉2脈40mL/平行ニコル
浅熱水成金銀鉱脈の石英・氷長石を主とする乳白色縞状組織を持つ超高品位金鉱石(Au 約1000g/t)の研磨面。銀黒鉱石のように銀鉱物や黄銅鉱などの硫化鉱物を伴わず,0.01〜0.02mm程度の自然金が単独で氷長石や石英(Adu+Qz)中に散在している。写真の右下は鉱脈の際の部分(母岩に接していた部分/盤際)で,左上方向に積み重なるように氷長石や石英が沈殿している。金はほぼ中央の多孔質の部分に多く沈殿しているのがわかる。その多孔質の部分にはスメクタイトなどの粘土鉱物が伴われている。
このような浅熱水成金銀鉱脈における硫化鉱物をあまり伴わない自然金は,熱水の圧力の減少による沸騰で,熱水中のH2Sが気相に入ることでH2S濃度が急減し,熱水中のAu(HS)2という金の錯体が分解して金が沈殿してできることが多い。
これは銀が20wt%のものでやや濃い黄色。
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検鏡試料:粗粒の氷長石を伴い,乳白色で縞状組織を持つ金鉱石。銀黒は伴わない。上写真は母岩に接していた盤際の超高品位部分(Au 約1000g/t)



硫黄卓越型の熱水鉱床中の自然金(Au) 鹿児島県赤石鉱山/平行ニコル
ルソン銅鉱と共生。硫黄分が卓越する条件では銀は硫化銀になる傾向があり,自然金には銀は含まれにくく純金に近いものとなる(これは銀が5wt%未満で,橙黄色)。
Au:自然金,lz:ルソン銅鉱,Py:黄鉄鉱,Cv:コベリン,Qz:石英,Sco:スコロド石
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検鏡試料:南薩型金鉱床のケイ化岩中のルソン銅鉱・黄鉄鉱に富む暗色部



キースラガー中の自然金(Au) 愛媛県大久喜鉱山/平行ニコル
金銀鉱石以外にも,各種の銅・鉛・亜鉛などの鉱石には1tあたり0.1〜1g程度の金が含まれることがあり,鏡下でまれにこのように自然金が見いだされる。その金は銀とともに副産物として回収されている。
日本のキースラガーの金含有率はたいてい1tあたり0.数g未満だが,大久喜鉱山では3〜4g程度の金含有率が報告されている。これは銀が30〜40 wt%のもので黄色。
Au:自然金,Py:黄鉄鉱,Cp:黄銅鉱
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検鏡試料:低変成度のキースラガー中の濃黄色の黄銅鉱に富む部分



黒鉱鉱床中の自然金(Au) 秋田県餌釣鉱山/平行ニコル
黒鉱にもしばしば自然金が見つかる。黒鉱1tあたりに金は1g程度含まれ,銀とともに副産物として回収されている。
硫化鉱物に接する自然金はこのように丸みを帯びた輪郭を示すものが多い。
これは銀が20〜30 wt%のもので黄色。
Au:自然金,Sp:閃亜鉛鉱,Gn:方鉛鉱,Ba:重晶石
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検鏡試料


スカルン鉱床の銅鉱石中の自然金(Au)山口県大和鉱山/平行ニコル

黄銅鉱を主とする銅鉱石中に偶然見つかったもの。これは銀が20〜30 wt%のもので黄色。
Au:自然金,Cp:黄銅鉱,Wit:ウィチヘン鉱



金を含むテルル化鉱物が分解してできた自然金(Au) 静岡県河津鉱山/平行ニコル
熱水鉱脈鉱床のシルバニア鉱が分解し,二次的にできた自然金。このようなものは純金に近く,橙黄色で海綿状の微粒集合体をなすことが多い。
Au:自然金,Te:自然テルル,TeO2:酸化テルル鉱,Qz:石英