黄銅鉱 chalcopyrite CuFeS2 正方晶系  [戻る]

特徴的なはっきりした黄色。平滑な研磨面が得られる。組成変化に乏しく,光学的性質は一定している。やや錆びやすく,褐変し,さらに青色などになる。特に自然金などの自然金属鉱物に接しているものは錆びやすい。時に集片双晶をなし,それは弱い異方性で確認することができる場合がある。
世界で採掘されている銅鉱石の最も主要な銅鉱物で,初生鉱物として広く見られ,正マグマ鉱床から浅熱水鉱床まで多くの金属鉱床から幅広く産出する。
黄鉄鉱,磁硫鉄鉱,閃亜鉛鉱,方鉛鉱,硫砒鉄鉱,四面銅鉱,ペントランド鉱のほか,斑銅鉱,各種ビスマス鉱物,各種金銀鉱物,磁鉄鉱,赤鉄鉱など数多くの鉱物と共生しうる。
基本的な結晶構造を同じくする閃亜鉛鉱・亜鉛黄錫鉱などとは平行連晶組織をなすことが多く,その中で閃亜鉛鉱中に0.数〜数μm程度の斑点状をなすものは熱水鉱床の鉱石によく見られ,「病変状黄銅鉱」と呼ばれる。
離溶組織をなすことも多い。斑銅鉱との離溶組織はやや高温の熱水鉱床やスカルン鉱床から産したFeに対してCuに富む鉱石中によく見られる。一方,キューバ鉱との離溶組織はCuに対してFeに富む高温鉱床からの鉱石にしばしば見られるが,組成的に近似している黄銅鉱−磁硫鉄鉱共生体の方がより普通である(issが温度低下の際,より多くのSの供給を受けて黄銅鉱+磁硫鉄鉱の組み合わせになる)。

反射色/黄色
反射多色性/非常に弱い(ほとんど認められない)
異方性/弱い(集片双晶をなす場合,コントラストで認められることがある)。
反射率(λ=590nm)/45〜50%
ビッカース硬度(kgf/mm2)/174−219
内部反射/なし 



黄銅鉱(Cp) アメリカ モンタナ州 スティルウォーター平行ニコル 写真の左右0.48mm
正マグマ鉱床中の黄銅鉱。正マグマ鉱床中ではペントランド鉱や磁硫鉄鉱と共生することが多い。上写真では白金のテルル化物のモンチェアイトも見られる。
黄銅鉱は一般的にこのように不定形をなし,自形になることは希。
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検鏡試料:層状貫入岩体のはんれい岩





黄銅鉱(Cp) 岩手県釜石鉱山平行ニコル
スカルン鉱床中のもので,キューバ鉱(Cb:CuFe2S3)と格子状の離溶組織をなすもの。地下深部の銅鉱床の形成過程で,およそ300〜350℃以上では,黄銅鉱とキューバ鉱の中間的なCu:Fe比で,かつ,Sがやや不足している中間固溶体(iss)が安定に存在する。この中間固溶体は鉱床形成末期の温度低下と微量の硫黄の付加により簡単に黄銅鉱とキューバ鉱に分解し,このような黄銅鉱とキューバ鉱の離溶組織に変化する。この組織は正マグマ鉱床やスカルン鉱床など,高温でできた銅鉱床の鉱石に時々見られる。
Cp:黄銅鉱,Cb:キューバ鉱


主なCu-Fe-S系鉱物の常温での共生図(磁硫鉄鉱付近の領域は実際の天然の共生関係を考慮して一部改変している)
左の黄銅鉱−キューバ鉱の共生体は,この図の黄色で示した領域にある。なお,黄銅鉱−キューバ鉱−磁硫鉄鉱の3相共存の場合もあり,その場合,共生する磁硫鉄鉱は六方磁硫鉄鉱である。


黄銅鉱(Cp) 岩手県釜石鉱山/平行ニコル

スカルン鉱床中のもの。中間固溶体(iss)の分解過程では,上写真のようなキューバ鉱ができるよりも一層,多くの硫黄の供給を受け,このようにキューバ鉱を欠く,黄銅鉱+磁硫鉄鉱の組み合わせになったものの方がはるかに多い。このような黄銅鉱−磁硫鉄鉱の共生体はスカルン鉱床以外に,中温〜高温鉱脈や正マグマ鉱床(左写真)にも多く見られる。
Cp:黄銅鉱,Po:磁硫鉄鉱,Hd:灰鉄輝石,And:アンドラダイト−グロッシュラー系のざくろ石

主なCu-Fe-S系鉱物の常温での共生図(磁硫鉄鉱付近の領域は実際の天然の共生関係を考慮して一部改変している)
左のキューバ鉱を欠く,黄銅鉱−磁硫鉄鉱の共生体は,この図の黄色で示した領域にあり,この磁硫鉄鉱は単斜磁硫鉄鉱や六方磁硫鉄鉱である。この黄銅鉱−磁硫鉄鉱の共生体はスカルン鉱床・中温〜高温鉱脈・正マグマ鉱床に非常に多く見られる。

黄銅鉱(Cp) 左:広島県三原鉱山,右:岡山県布賀平行ニコル
いずれもスカルン鉱床中のもので,斑銅鉱(Bn:Cu5FeS4)との離溶組織をなすもの。
左は生成当初約300℃でのやや鉄に富む高温型斑銅鉱固溶体であったが,温度低下で少量の細い線状(ラメラ状)の黄銅鉱(Cp2)を離溶するとともに,斑銅鉱の組成がCu5FeS4になったもの。黄銅鉱の離溶ラメラは高温型斑銅鉱(等軸晶系)の(100)に平行にあり,3方向に並んでいる。 なお,視野の左上には斑銅鉱中の離溶ラメラではなく,高温で斑銅鉱固溶体と共生関係にあったissから変化した黄銅鉱(Cp1)が小粒状で見える。
右は生成当初はさらに高温の約400℃で,かなり鉄に富む高温型斑銅鉱固溶体であったが,温度低下で幅の広いラメラ状の黄銅鉱を多量に離溶するとともに,斑銅鉱の組成がCu5FeS4になったもの。視野の右側には斑銅鉱中の離溶ラメラではなく,高温で斑銅鉱固溶体と共生関係にあったissから変化した黄銅鉱が不定形をなしている。なお,これと反対に黄銅鉱中に斑銅鉱の離溶ラメラができることは非常に高温で生成しないと起こりえない。
このような斑銅鉱中の黄銅鉱の離溶ラメラはスカルン鉱床以外に中温〜高温鉱脈鉱床にもよく見られる。
なお,黒鉱鉱床に見られる低温生成の斑銅鉱(時に黄鉄鉱と共生)にはこのような黄銅鉱の離溶ラメラはほとんど見られない。
Cp(Cp1,Cp2):黄銅鉱,Bn:斑銅鉱,And:アンドラダイト,Cal:方解石
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左の広島県三原鉱山の検鏡試料:スカルンから産した少量のアンドラダイトを伴う塊状の斑銅鉱鉱石



黄銅鉱(Cp) 岡山県布賀平行ニコル
高温で斑銅鉱固溶体と共生関係にあったわずかに銅に富むissが温度低下(約186℃以下)で黄銅鉱(黄)とタルナカイト(talnakhite 帯褐黄:Cu9Fe8S16)の離溶ラメラ共生体に分解したもの。タルナカイトは,さらに,温度が低下する際に微量の硫黄の供給を受けて黄銅鉱と微量の斑銅鉱に分解する場合が多いため,まれな鉱物である。
Cp:黄銅鉱,Ta:タルナカイト,Bn:斑銅鉱


主なCu-Fe-S系鉱物の常温での共生図(磁硫鉄鉱付近の領域は実際の天然の共生関係を考慮して一部改変している)
上の黄銅鉱−タルナカイト−斑銅鉱共生体は,この図の黄色で示した領域にある。しかしタルナカイトは温度低下の際,微量の硫黄の供給を受け,黄銅鉱と微量の斑銅鉱に分解する場合が多いため(4Cu9Fe8S16 + S2 → 31CuFeS2 + Cu5FeS4),産出がまれな鉱物である。したがって自然界では黄銅鉱−タルナカイト−斑銅鉱共生体よりも,黄銅鉱−斑銅鉱共生体の方がはるかに普通である。


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検鏡試料(黒鉱)

黄銅鉱(Cp) 秋田県餌釣鉱山/平行ニコル
黒鉱鉱床中のもの。この場合,黄銅鉱は左のように不定形のことが多いが,しばしば,右のように方鉛鉱・閃亜鉛鉱・黄鉄鉱などと球状集合体(フランボイダル組織)をなす。上の2つの写真はいずれも海底で沈殿した泥状の種々の硫化物の微粒子が再結晶化によって固まってできた組織。
Cp:黄銅鉱,Tet:四面銅鉱,Gn:方鉛鉱,Py:黄鉄鉱,Sp:閃亜鉛鉱,Ba:重晶石


キースラガーの中の黄銅鉱(Cp)/愛媛県別子鉱山
キースラガーは海底熱水鉱床が広域変成作用で変成したもので,もとの組織は変成作用で失われていることが多い。これはかなり強い変成作用を受けたもので,黄鉄鉱は粗大な粒状に成長し,さらにその一部は変形作用で破砕され,その粒間を黄銅鉱が充填している。鉱床のタイプによらず,常に黄銅鉱は原子配列の密な黄鉄鉱に対し,このように他形になる。
Cp:黄銅鉱,Py:黄鉄鉱,Sp:閃亜鉛鉱
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検鏡試料:緻密な黄鉄鉱・黄銅鉱を主とする塊状鉱。左側の暗色部は緑色片岩。



黄銅鉱 兵庫県生野鉱山
平行ニコル
中温の熱水鉱床中のもの。亜鉛・銅・鉄・硫黄は熱水鉱床ではありふれた元素で,よく一緒に閃亜鉛鉱と黄銅鉱という組み合わせとして沈殿する。その場合,上写真のように閃亜鉛鉱(灰色)中に黄色微粒状の黄銅鉱が点在している平行連晶組織をなすことが少なくない。これを「病変状黄銅鉱」と呼ぶことがある。
この組織は,熱水鉱床であるならば鉱脈鉱床以外でも広く見られる。