斑銅鉱 bornite Cu5FeS4 斜方晶系  [戻る]

橙色を帯びた特徴的な褐色。磁硫鉄鉱よりも明らかに橙色味が強く,硬度が低い。平滑な研磨面を得やすい。やや錆びやすく,紫・青色などになる。反射多色性は認められず,異方性は弱く,まれに認められる程度(時に集片双晶をなすことがあり,それは弱い異方性で確認できる場合がある)。Cuの代わりに0.数%未満のAgを含む場合があるものの,組成変化に乏しく,光学的性質に変化はない。
銅の初生鉱物としては黄銅鉱に次いで普通で,低温から高温生成までの各種金属鉱床に産する。鉄に対して銅に富む鉱石中によく見られ,銅に対して鉄に富む鉱石には少ない。なお,金銀の熱水鉱脈鉱床にはあまり見られない。
黄銅鉱,閃亜鉛鉱,方鉛鉱,ウィチヘン鉱,自然銀,ストロメイヤ鉱など,多くの鉱物と共生する。鉄に富む鉱物である黄鉄鉱,硫砒鉄鉱,砒鉄鉱,磁鉄鉱,赤鉄鉱と共生する場合があるが,黄鉄鉱とは,硫黄分に富み,黄銅鉱が不安定な低温条件で共生する(黒鉱中など)。なお,磁硫鉄鉱・キューバ鉱・輝蒼鉛鉱・輝安鉱・石黄などとはほとんど共生しない。
高温の熱水鉱脈やスカルン鉱床では黄銅鉱との離溶組織を示すことが多く,この場合,斑銅鉱中に黄銅鉱の離溶ラメラが見られることが多く,その逆は希である。そしてこの産状では各種Cu-Ag-Bi-Pb-S系鉱物など,多種の鉱物の微粒子を包有することが多い。さらにウィチヘン鉱の離溶ラメラを含むこともある(斑銅鉱とウィチヘン鉱の結晶構造は異なる。この場合の母相は高温型斑銅鉱とは異なる,Biを含む別の結晶構造を持つ高温相と考えられる)。

反射色/橙褐色
反射多色性/非常に弱い(ほとんど認められない)
異方性/弱い(集片双晶をなす場合,コントラストでわずかに認められることがある)。
反射率(λ=590nm)/22%
ビッカース硬度(kgf/mm2)/68−105
内部反射/なし




スカルン中の斑銅鉱(Bn) 左:広島県三原鉱山,右:岡山県布賀/平行ニコル
これらは黄銅鉱(Cp)の離溶ラメラを含むものでやや高温生成のものである。
左は生成当初約300℃でのやや鉄に富む斑銅鉱固溶体であったが,温度低下で細い線状(ラメラ状)の黄銅鉱(Cp2)を離溶するとともに,斑銅鉱の組成がCu5FeS4になったもの。黄銅鉱の離溶ラメラはもとの等軸晶系の高温型斑銅鉱の(100)に平行にあり,3方向に並んでいる。なお,視野の左上の粒状の黄銅鉱(Cp1)は斑銅鉱中の離溶ラメラではなく,高温型斑銅鉱固溶体と共生関係にあったissから変化した粒状の黄銅鉱である。
右は生成当初,さらに高温の約400℃で,かなり鉄に富む高温型斑銅鉱固溶体であったが,温度低下で幅の広いラメラ状の黄銅鉱を多量に離溶するとともに,斑銅鉱の組成がCu5FeS4になったもの。この黄銅鉱の離溶ラメラも,もとの等軸晶系の高温型斑銅鉱の(100)に平行にあり,3方向に並んでいる。視野の右側には斑銅鉱中の離溶ラメラではなく,高温で斑銅鉱固溶体と共生関係にあったissから変化した黄銅鉱が不定形をなしている(なお,黄銅鉱中に斑銅鉱の離溶ラメラができることは非常に高温でないと起こりえない)。
このような斑銅鉱中の黄銅鉱の離溶ラメラはスカルン鉱床以外に中〜高温の鉱脈鉱床にも多い。なお,黒鉱鉱床中の斑銅鉱は低温生成なのでこのような黄銅鉱の離溶ラメラはほとんど見られない。
Bn:斑銅鉱,Cp:黄銅鉱,Ad:灰鉄ざくろ石,Cal:方解石

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左の広島県三原鉱山の検鏡試料:スカルンから産した少量のアンドラダイトを伴う塊状の斑銅鉱鉱石




黒鉱鉱床中の斑銅鉱 秋田県古遠部鉱山平行ニコル
黄銅鉱の分解でできた斑銅鉱。もとは全体が黄銅鉱と自形の黄鉄鉱(多角形)の組み合わせだったが,熱水中のS2という化学種の増大により,黄銅鉱(Cp)が斑銅鉱(Bn)と曲線の累層状の黄鉄鉱(Py)の組み合わせに変化したもの(黒鉱鉱床の「黄鉱」の交代組織)。この過程は下のような化学反応式で表される。

5CuFeS2(黄銅鉱) + S2(熱水の硫黄分)
   → Cu5FeS4(斑銅鉱) + 4FeS2(黄鉄鉱)

よく見ると黄鉄鉱には最初の「黄鉱」を構成していた多角形のものと,交代作用でできた曲線の累層状のものの2タイプあることが分かる。また黄銅鉱(Cp)は部分的に分解を免れて残留している。
Bn:斑銅鉱,Py:黄鉄鉱,Cp:黄銅鉱
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検鏡試料:緻密な黄鉄鉱と黄銅鉱(黄色)を主とし,斑銅鉱(暗紫色)を伴う黄鉱






キースラガー中の斑銅鉱 愛媛県佐々連鉱山平行ニコル
黄銅鉱の分解でできた斑銅鉱。海底熱水鉱床が強い変成作用を受け,その黄銅鉱が変形し,鉱床の周囲の結晶片岩の裂け目に入り込み,そこで,硫黄の付加を受け,黄銅鉱が,斑銅鉱(Bn)と黄鉄鉱(Py)の組み合わせに変化したもの。
この過程は左のものと同じく下のような化学反応式で表される。

5CuFeS2(黄銅鉱) + S2(硫黄分)
   → Cu5FeS4(斑銅鉱) + 4FeS2(黄鉄鉱)

このようなキースラガーの斑銅鉱と黄鉄鉱の組み合わせは,かなり高圧の変成作用で生じ,変成度の弱い低圧条件の部分には見られない。特に,主鉱体から分岐した「はねこみ」と呼ばれる高品位部に見られる傾向がある。
Bn:斑銅鉱,Py:黄鉄鉱
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検鏡試料:黄鉄鉱(黄色粒状)と斑銅鉱(暗紫色)が相半ばする量からなる塊状鉱



キースラガー中の斑銅鉱 愛媛県別子鉱山平行ニコル
変成作用が進み,粗い粒に成長した黄鉄鉱中に微小な粒として含まれるもので,変成作用でできたもの。
Bn:斑銅鉱,Cp:黄銅鉱,Py:黄鉄鉱,Sp:閃亜鉛鉱
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検鏡試料:緻密な黄鉄鉱・黄銅鉱を主とする塊状鉱。左側の暗色部は緑色片岩

主なCu-Fe-S系鉱物の常温での共生図
(磁硫鉄鉱付近の領域は実際の天然の共生関係を考慮して一部改変している)

上の黄鉄鉱と斑銅鉱の共生体は,この図の黄色で示した領域にある。この図により,その鉱石中には,輝銅鉱・ジュルレ鉱・磁硫鉄鉱・キューバ鉱などは共生しないことがわかる。