自然ビスマス(自然蒼鉛)  bismuth Bi 六方晶系   [戻る]
自然砒素・自然アンチモンと同構造

明るいクリーム色だが,自然銀やエレクトラムよりもわずかに暗く,わずかに赤味がある。硬度が低く,研磨時の擦痕が多い。徐々に錆び,桃紅色〜虹色・褐色・青色になる。一見して,自然銀やエレクトラムに似るが,注意深く観察すると異方性が認められ,またホセ鉱や生野鉱,輝蒼鉛鉱などを密接に伴うことが多い。 組成変化は乏しく光学的性質は一定している。
中〜高温の熱水鉱脈,スカルン鉱床などに産し,それらの生成温度はおおむね300℃以上であり,Biの融点(271℃。高圧ではさらに低融点)より高い。したがって自然ビスマスはできた時は溶融体であり,自形にはならず,他の鉱物の隙間を埋めた状態や,丸みを帯びた液滴状の形態をなす。なお,粒子の周囲は白〜灰色系の生野鉱〜ホセ鉱,ヘドレイ鉱,輝蒼鉛鉱などのBiのカルコゲン化合物に取り巻かれていることが多い。これは自然ビスマスの溶融体と熱水中のカルコゲン元素(S,Se,Te)が反応してできた反応縁である。この反応が進み,ほぼ完全にBiのカルコゲン化合物に交代されていることもある。なお,自然ビスマスと共生するBiのカルコゲン化合物は,生野鉱やホセ鉱などのBi:カルコゲン元素=4:3のものと,ヘドレイ鉱(Bi7Te3)が主である。なお,自然ビスマス−ヘドレイ鉱の共生体は著しいS,Seの欠乏条件で生成し,それには砒鉄鉱を伴うこともある。
通常,共生する鉱物としては,硫砒鉄鉱,輝コバルト鉱,黄銅鉱,磁硫鉄鉱,スクッテルダイト,自然金,鉄マンガン重石,錫石,石英などがある。黄鉄鉱,ルソン銅鉱,硫砒銅鉱,コベリンのような硫黄卓越条件で生成する鉱物とは共生しない。なお,一般的にビスマス鉱物は多量の閃亜鉛鉱を含む鉱石にはあまり含まれない。
時にへき開線が見られることがあり,やや風化している鉱石では,へき開線や周囲に沿い,反射率が低いビスマス炭酸塩や酸化物に変化していることがある。

反射色/クリーム
反射多色性/弱い(ほとんど認められない)
異方性/普通
反射率(λ=590nm)/約65%
ビッカース硬度(kgf/mm2)/10−19
内部反射/なし



自然ビスマス(Bi) 山口県大和鉱山/平行ニコル
軟らかいので研磨面は傷が多い。スカルン中。反射多色性は弱く,ほとんど認められない。
Bi:自然ビスマス,Jo:ホセ鉱−A,Di:透輝石


左の自然ビスマスの異方性(普通)/クロスニコル
注意しないと分からない。



スカルン鉱床中の自然ビスマス(Bi) 山口県大和鉱山/平行ニコル
スカルン鉱床の生成温度はおおむね300℃以上であり,ビスマスの融点(271℃,高圧ではさらに低融点)より高い。したがって自然ビスマスはできた時は溶融体であり,自形にはならず,丸みを帯びた液滴状の形態(上写真)や,他の鉱物の隙間を埋めた状態(右写真)をなす。
輝蒼鉛鉱や,上写真のようにホセ鉱系鉱物を伴うことも多く,それらは先にできたBiの溶融体に熱水中のカルコゲン元素が反応してできたものである。
Bi:自然ビスマス,Jo:ホセ鉱−A,Di:透輝石
----------------------
検鏡試料:ケイ灰石・透輝石を主とするスカルン中の灰黒色部分。



スカルン鉱床中の自然ビスマス(Bi) 岡山県山宝鉱山/平行ニコル
スカルン鉱床や気成鉱床などでは,このように他の鉱物の隙間を埋めた状態で微小な自然ビスマスが見られることが少なくない。軟らかいので研磨面はざらついて荒れたように見える。
Bi:自然ビスマス,Asp:硫砒鉄鉱,Cp:黄銅鉱,Hd:灰鉄輝石