鉱物の形態 ー 交代組織に基づくもの(主に平行ニコルで観察)   戻る


 一度できた鉱物が分解し,新たな鉱物が形成されている組織を交代組織という(※この作用を交代作用という)。
 硫化鉱物は熱水作用や地下水などで分解しやすく,一度できたものが新たな鉱物に置き換わっていることがしばしばである。金属鉱石中にはこの交代組織が頻繁に見られ,以下にはその一部の例を紹介している。


黄銅鉱→斑銅鉱+黄鉄鉱の交代組織
 これはできた当初は黄銅鉱と自形(多角形)の黄鉄鉱の組み合わせだったが,熱水中のS2という化学種の増大により,黄銅鉱(Cp)が,斑銅鉱(Bn)と曲線に見える累層状の黄鉄鉱(Py)の組み合わせに変化した,黒鉱鉱床の「黄鉱」の交代組織。この過程は下のような化学反応式で表される。

5CuFeS2(黄銅鉱) + S2(硫黄分)
   → Cu5FeS4(斑銅鉱) + 4FeS2(黄鉄鉱)

 よく見ると黄鉄鉱には最初の「黄鉱」を構成していた多角形のものと,交代作用でできた曲線に見える累層状のものの2タイプあることが分かる。

※高硫化系の熱水による交代組織

(黒鉱鉱床の「黄鉱」/秋田県古遠部鉱山)


方鉛鉱→輝銅鉱(Cu2S)に近い化学組成の鉱物の交代組織(風化作用)

 方鉛鉱(Gn:白)が,銅を含んだ酸素に乏しい地下水の作用で,分解しつつ,輝銅鉱(Cu2S)に近い化学組成の鉱物(Cc:青灰)に置き換わりつつある交代組織。これは元の方鉛鉱PbSの間に硫黄以外に共通成分がない。このように交代作用ではその前と後での鉱物の化学組成が大きく異なっていることがある。

 上図では方鉛鉱のへき開に沿って交代作用が進み,できた輝銅鉱(Cu2S)に近い化学組成の鉱物に,元の方鉛鉱の3角形のへき開の構造が残存しているのが分かる。

(熱水鉱脈鉱床中/秋田県亀山盛鉱山)


自然ビスマス→生野鉱→輝蒼鉛鉱の交代組織

 これはできた当初は自然ビスマス(Bi)だけだったが,温度の低下などで,そのまわりに硫黄分などが加わり,生野鉱(Ik:明灰:Bi
4S3)ができ,さらにそれに硫黄分が加わり,輝蒼鉛鉱(Bis:明〜暗のモザイク状の灰:Bi2S3)ができている交代組織である。これはおよそ300℃以上ででできた高温鉱脈中に産したもので,自然ビスマスはできた当初は溶融体だったと考えられる。溶融体は固体に比べ熱水中の他の物質(溶質)と反応しやすく,このような交代作用が起こりやすい。したがって,高温でできた鉱脈中の自然ビスマスの周囲にはこのような交代組織(反応縁)が頻繁に見られる。

(熱水鉱脈鉱床中/兵庫県生野鉱山)




輝蒼鉛鉱→エンプレクタイトの交代組織

 これはできた当初は輝蒼鉛鉱(Bis:白:Bi2S3)だけだったが,熱水中の銅の濃度が高まり,熱水と輝蒼鉛鉱が反応し,エンプレクタイト(Em:クリーム白:CuBiS2)ができている組織。交代作用を免れてエンプレクタイトの中心に未反応の輝蒼鉛鉱が残存している。その後,右側に四面銅鉱(Tet:灰)ができている。
 なお,この輝蒼鉛鉱,エンプレクタイトは共にBiのかわりにかなりのSbを含み,四面銅鉱中にはAsやSbを置き換えて数%のBiが含まれている。

(熱水鉱脈鉱床中/北海道手稲鉱山)




斑銅鉱→コベリンの交代組織(風化作用)

 斑銅鉱(Bn:褐色:Cu5FeS4)の,割れ目や,石英(Qz)との粒界に沿い酸素に乏しい地下水がしみ込み,斑銅鉱が分解しつつ,コベリン(Cv:青〜灰:CuS)に置き換わった交代組織。また右の拡大写真では,黄銅鉱(Cp:黄色:CuFeS2)も部分的に割れ目に沿って同様の作用でコベリンになっているが,斑銅鉱に比べ,分解しにくく,コベリンができている幅は狭いのがわかる。
 この地下水によるコベリンができる交代組織は銅鉱石中で非常に多く見られる。
 なお,斑銅鉱・黄銅鉱ともに鉄を含むが,それらの分解で遊離した鉄はここでは沈殿することなく,鉱床の上部で水酸化鉄である褐鉄鉱として沈殿し,いわゆる鉱床露頭の「ヤケ」となる。
(熱水鉱脈鉱床中/兵庫県明延鉱山)



黄銅鉱→輝銅鉱の交代組織(風化作用)
 黄銅鉱(Cp:黄色:CuFeS2)の割れ目や石英(Qz:暗色で6角形の自形)との粒界に沿い酸素に乏しい地下水がしみ込み,黄銅鉱が分解しつつ,輝銅鉱(Cu2S)に近い化学組成の鉱物(Cc:青灰)に置き換わりつつある交代組織。この交代組織も銅鉱石中では非常に多く見られる。
 黄銅鉱などは鉄を含むが,それらの分解で遊離した鉄はここでは沈殿することなく,鉱床の上部で水酸化鉄である褐鉄鉱として沈殿し,いわゆる鉱床露頭の「ヤケ」となる。
(熱水鉱脈鉱床中/秋田県亀山盛鉱山)