鉱物の形態 ー 離溶組織に基づくもの(主に平行ニコルで観察)   戻る

 高温でできた固溶体鉱物が,ゆっくりとした温度の低下で固体の状態で2種以上の鉱物に分離することがあり,これを離溶という。
 離溶が起こるのは,結晶構造中で構成原子の拡散速度(結晶構造中での原子の移動速度)が速く,かつ,原子の大きさがかなり異なるものが互いに同形置換を起こしている場合である。
 なお,ある種の硫化鉱物はケイ酸塩鉱物などよりもずっと原子の拡散速度が速いため,深成岩中の長石類や輝石類とは異なり,300〜400℃程度の温度から冷却する過程でも簡単に離溶が起こる。
 離溶組織は,1つの結晶中で,細長い別種の離溶した鉱物が特定の方位に配列していることが多い。



斑銅鉱(Bn:褐色:Cu5FeS4)中の黄銅鉱(Cp:黄色:CuFeS2)の離溶組織

 この視野のほぼ全体が生成当初は約300℃でのやや鉄に富む斑銅鉱固溶体であったが,温度低下で線状(ラメラ状)の黄銅鉱を離溶するとともに,斑銅鉱の組成がCu5FeS4になったもの。黄銅鉱の離溶ラメラは斑銅鉱の(100)に平行にあり,3方向に並んでいる。 
 なお,視野の左上には斑銅鉱中の離溶ラメラではなく,単独粒子としての黄銅鉱が小粒状で見える。
 青色線状部(Cv)は風化作用でできたコベリンで,この離溶組織とは無関係である。

スカルン鉱床中/広島県三原鉱山


斑銅鉱(Bn:褐色:Cu5FeS4)中の黄銅鉱(Cp:黄色:CuFeS2)の離溶組織
 斑銅鉱と線状(ラメラ状)の黄銅鉱の集合体は生成当初は約400℃で,かなり鉄に富む斑銅鉱固溶体であったが,温度低下で黄銅鉱を多量に離溶するとともに,斑銅鉱の組成がCu5FeS4になったもの。左の離溶組織よりも斑銅鉱中の黄銅鉱のラメラが多いのは,生成温度がより高く,より多くの鉄が斑銅鉱に固溶していたからである。なお,視野の右側には斑銅鉱中の離溶ラメラではなく,単独粒子としての黄銅鉱が不定形をなしている。

スカルン鉱床中/岡山県布賀


黄銅鉱(Cp:CuFeS2)とキューバ鉱(Cb:CuFe2S3)の離溶組織
 地下深部の銅鉱床の形成過程で,およそ300〜350℃以上では,黄銅鉱とキューバ鉱の中間的なCu:Fe比で,かつ,硫黄がやや不足している中間固溶体(iss)が安定に存在する。この中間固溶体は鉱床形成末期の温度低下と硫黄の付加により簡単に黄銅鉱とキューバ鉱に分解し,このような黄銅鉱とキューバ鉱の離溶組織に変化する。この組織は正マグマ鉱床やスカルン鉱床など,高温でできた銅鉱床の鉱石にしばしば見られる。
スカルン鉱床中/岩手県釜石鉱山


黄銅鉱(Cp:黄色:CuFeS2)中の閃亜鉛鉱(Sp:灰色:(Zn,Fe)S)の離溶組織

 この視野のほぼ全体が生成当初は約400℃で少量の亜鉛を含む中間固溶体(iss)であったが,温度低下でissに硫黄が加わり黄銅鉱ができるとともにその中に十字形の閃亜鉛鉱を離溶したもの。この組織はやや希で,高温生成の銅鉱床に限って見られる。

スカルン鉱床中/山口県大和鉱山

約500℃でできた角閃石片岩に含まれる赤鉄鉱(Hm:明灰:Fe2O3)中のチタン鉄鉱(暗灰:FeTiO3)の離溶組織

 視野の中央〜右を占める赤鉄鉱中に,細かい紐状に見えるチタン鉄鉱のやや暗色の離溶ラメラが無数にある((0001)の1方向に並ぶ)。
 一方,視野の左や上にある離溶ラメラではない大きなチタン鉄鉱(Im)には赤鉄鉱の離溶ラメラを含んでおらず,この生成温度ではチタン鉄鉱にはFe3+が固溶しなかったことがわかる。赤鉄鉱(Fe2O3)−チタン鉄鉱(FeTiO3)の固溶系列には非対称ソルバスが存在することが考えられる。
三波川変成帯の角閃石片岩中/愛媛県肉淵

ストロメイヤ鉱(Str:CuAgS)とマッキンストリー鉱(Mcn:Cu0.8Ag1.2S)の離溶組織

 CuAgS〜Cu0.8Ag1.2S組成の鉱物は約100℃以上で幅広いCu:Ag比の固溶体として存在する。そして,約100℃以下ではストロメイヤ鉱(CuAgS)とマッキンストリー鉱(Cu0.8Ag1.2S)に離溶する。写真はストロメイヤ鉱(青灰色)中のマッキンストリー鉱(明灰色)の柳葉状の離溶ラメラである。この離溶組織においては,母相(ストロメイヤ鉱)と離溶相(マッキンストリー鉱)の結晶構造は互いに大きく異なる。
 なお,このようなストロメイヤ鉱やマッキンストリー鉱は低温の銀鉱化作用が起こった黒鉱鉱床上部などにも頻繁に認められ,しばしば,自然銀を伴う。
 一方,CuAg3S2組成の鉱物としてはジャルパ鉱があるが,これは斑銅鉱を含むような銅に富む鉱石にはあまり出現しない。
鉱脈鉱床中/兵庫県多田鉱山