鉱物の形態 − 多結晶集合体に基づくもの平行ニコル・クロスニコルで観察   戻る

集合体の形としても特徴的なものには以下のようなものがある。

扇状・球状(フランボイダル状)
 急激に成長した鉱物は結晶系に関わらず微細な針状結晶になる傾向があり,それが放射状に集合しているものをいう。
 特に偏光反射顕微鏡で観察する鉱物の内では黄鉄鉱がしばしばこのような形態になり,これは空気に触れると分解しやすく,数日で錆び,その後,短期間に白〜黄色粉状の硫酸鉄に変化しつつ崩れていく。閃亜鉛鉱やウルツ鉱も急成長して同様の形態になることがあり,空気に触れると比較的短期間で硫酸亜鉛(白色粉状)に変化しつつ崩れていくことがある。これらは急激に成長したため結晶中に格子欠陥が多く,空気中の酸素で酸化して粉状の硫酸塩になりやすい。




黄鉄鉱 FeS2(明るい黄色の部分。周囲の暗い部分は石英)
左:急激に成長していく過程で,途中,何回か成長を休止したもの。そのため,同心円状(同心球状)に見える。
中:急激に成長していく過程で,やや方向性を持って成長したもの。そのため,やや上へ扇状に伸びたように広がっている。
右:多くの核から球状に急成長したもの。
※同じ黄鉄鉱でも自形をなすものとは形態が全く異なることに注意。

いずれも黒鉱鉱床中/秋田県餌釣鉱山


方鉛鉱(Gn)PbS,黄銅鉱(Cp)CuFeS2,黄鉄鉱(Py)FeS2

黒鉱鉱床中では上述のような黄鉄鉱だけのフランボイダル組織以外に,方鉛鉱,閃亜鉛鉱,黄銅鉱などから構成されるフランボイダル組織も少なくない。これは海底で沈殿した泥状の種々の硫化物の微粒子が固まる際に結晶化してできたものである。
Ba:重晶石 BaSO4
黒鉱鉱床中/秋田県餌釣鉱山



錫石(Cas) SnO2
これは1つの核から多数の錫石の針状結晶が放射状(球状)に急成長したもの。熱水鉱脈中の錫石にはこのような針状結晶集合体が少なくない。同じ錫石でも短柱状をなす錫石とは形態が全く異なることに注意。
Po:磁硫鉄鉱 Fe0.875〜1S,Sp:閃亜鉛鉱 (Zn,Fe)S,Gn:方鉛鉱 PbS,Qz:石英
熱水鉱脈鉱床中/鹿児島県錫山鉱山


累層状
熱水の成分(溶質の成分)が急激に変化することで,それから沈殿する鉱物の種類が周期的に変化し,複数種の鉱物が互い違いに重なったようになっているもの。
樹枝状
結晶が連なり,枝分かれしたような集合体をなすものを樹枝状という。これは自然金,自然銀,自然銅によく見られる。ただし,樹枝状の形態そのものは研磨面では分かりにくく,いくつかの粒子が狭い範囲に集まっているように見える場合が多い。樹枝状集合体のまわりが石英のような透明な鉱物なら,対物レンズを近づけて見るとその中の樹枝状の形態が透けて見えることがある。


閃亜鉛鉱(Sp)(Zn,Fe)Sとインジウム銅鉱(Rq)CuInS2からなる累層状の組織
 視野の大部分が閃亜鉛鉱(一部はウルツ鉱)からなるが,その中にわずかに明るく黄みを帯びたインジウム銅鉱が複雑な曲線の累層状をなしている。これは閃亜鉛鉱が熱水から沈殿する一時期,熱水中の成分が銅とインジウムに富み,インジウム銅鉱が沈殿したものである(
インジウム銅鉱が沈殿した後は再び,閃亜鉛鉱が沈殿している。全体的に,この視野の下→上の順で重なるように沈殿している)。

※インジウム銅鉱は閃亜鉛鉱と基本的な原子配列が同じであるため,時としてサブミクロンオーダー(0.001mmよりも細かいオーダー)で閃亜鉛鉱と平行連晶をなし,「機械的混合物」となる。そのインジウム銅鉱と閃亜鉛鉱の量の割合で漸移的に明色〜暗色に変化し,上のように微妙に明るさが異なるモヤモヤとした累層状になる(上の写真の縞の中で明るい部分はインジウム銅鉱の存在割合が多く,暗い部分は閃亜鉛鉱の存在割合が多い)。
Sp:閃亜鉛鉱 (Zn,Fe)S,Rq:インジウム銅鉱CuInS2,Py:黄鉄鉱FeS2
熱水鉱脈鉱床中/北海道豊羽鉱山


樹枝状の自然金(Au)
 これは視野のごく狭い範囲に10粒程度の互いに独立した不定形の自然金が集まっているように見えるが,実は研磨面の下方でつながって,枝分かれした樹枝状をなすものである。円内の自然金周囲の石英がやや明るく見えているのは,研磨面の下の石英に閉じ込められた樹枝状の自然金が石英中で光を反射しているためである。対物レンズを近づけて見ると石英中の自然金が樹枝状につながっているのが見えることがある(※樹枝状集合体は一見してその大きさなどがわかりにくい)。
Py:黄鉄鉱 FeS2,Qz:石英 SiO2
熱水鉱脈鉱床中/静岡県清越鉱山